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正体不明の魔術師との対決準備?

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正体不明の魔術師との対決準備?

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「学人、これは凄いよ。改良に改良を重ねた特上の素材ばかりだよ。さすが、魔法中毒者!」
 ローズはすっかり収集に夢中となっていた。
「おい、この魔法薬も凄くねぇか?」
「それ、どこに転がっていたんだ? レシピは?」
 双子もローズと一緒に楽しんでいた。

「素材、資料、レシピ、何もかも揃っていてすごいよ! そうだ、オルナさんにも素材のお裾分けしようかな。素材だけじゃなくてレシピも写して渡そうかな」
 ローズはふとこの町にある古城に住む掃除下手でありながら調合をよく手がける女性の事を思い出し、お裾分けの準備を始めた。
「……ロゼにも手伝って欲しいんだけど、無理そうだね。薬の事になったら没頭するもんな。僕は引率じゃあないってのに……」
 学人は自分の声が届かない事に疲れたような溜息を吐き出していた。

 そこに
「……大変そうですね」
 エオリアが同情を含んだ声音で言葉をかけて来た。
「そちらも」
 学人は花壇に釘付けになっているエースの姿を確認した後、同じく同情の言葉を返した。
「ところで何か分かりましたか?」
 エオリアは学人に調査の進み具合を訊ねた。
「日記を見つけたよ。例の魔術師が魔力のみの存在というのが気になるんだよね。元は人で実験や薬の影響でそうなったのか、そうではなくて一からそういう存在が誕生しうるものかどうか」
 学人は発見した日記をエオリアに渡した。
「それは僕も気になります。どのようにして発生するのか、いくつ事件が起きるのか、発生時期から考えて全ての事件を終えたら身を潜めてまた違う年代に出現しています。その理由や目的は何故なのかと」
 学人に言ってからエオリアは日記の中身を確認した。
「……起こす予定の事件を全て起こしたら大人しくなって少し時間が経てばまた現れる。何かの目的のためなのかそうする事に意味があるのか無いのか」
 エオリアから日記を受け取りながら学人は未だ不明である事柄を列挙した。
「詳しい事は分かりませんね……少々、失礼します」
 学人の言葉にうなずいたエオリアは素材植物と会話しているエースの顔色が悪くなっている事に気付き、席を外してエースの元に駆けつけた。
「エース、お喋りはそこまでですよ」
 エオリアがそう声をかけるも届かず、エースに動く様子はない。そのためエオリアは強引にエースを植物から引き離した。
「……ん、あぁ、エオリアか」
 植物から引き離された事によってエースはようやく現実に戻った。
「顔色が悪いですよ。具合はどうですか?」
 エオリアはまだ少し顔色が悪いエースに無事を確認した。
 予想通り、植物は長年漂っていた魔法薬の影響を受けていたようだ。
「少し話に夢中になったからね」
 エースは愛する植物に取り込まれそうになったなど一抹も考えてはいない。顔色もすぐに元に戻った。
「……それより、何か分かりましたか?」
 エオリアは被害を受けた事を考えないエースにツッコミを入れるような事はせず、聞き込みの結果を訊ねた。
「ここの人達に丹念に世話をして貰っていたとか急に騒がしくなって驚いたと言っていたよ。それで嫌な魔力の気配は感じなかったけど興味を持って調査している人の話は聞いたよ。その結果をまとめた物が確か……」
 エースは植物に教えられた棚に収められている紐で大雑把にまとめただけの紙束を持って戻って来た。
 そして、紐を解き、二人で紙切れの内容を確認し始めた。

「奇妙な魔術師について調べるも何も分からない。魔術師の事件に巻き込まれた事のあるあいつが関わった事件が最後だったのかその事件以降姿を見せない。しかし、自分達が存在する年代以前に何度か事件を起こしている事が判明する。それによりこの先、また別の年代に現れるかもしれない。一体何が目的なんだ? 推測するよりも捕獲して隅々まで調べたい。そうすれば何か分かるかも知れない。何より自分達の実験に利用できるかもしれない。あいつはあの魔術師に近付きたくてある実験をしようとしてる」

「騒ぎには必ず最後があるという事ですか。その最後の事件ならば何か異変が起きているかもしれません。もしかして今回の可能性もありますよね。この事件に巻き込まれた人の日記でもあれば詳細が分かるかもしれませんが」
 エオリアは紙切れから顔を上げた。
「これ以外に聞いたのは、魔法中毒故に作り上げた特別なレシピがあるという事」
 エースは植物に聞いたもう一つの情報を口にした。魔術師や旅団とは関連性の無い事柄ではあるが、気に掛けずにはいられない事。
「特別なレシピ?」
 魔法薬関連の収集をしていたローズが話を聞きつけ、会話に割り込んだ。
「さすが魔法中毒者だね。その内容についてはこれにも載っていたよ」
 ローズと一緒に学人も参加すると共に発見した誰かの日記をエース達に手渡した。

「誰かに口外して自分達だけのもので無くなるのは嫌だ。あれほどの物が自分達の物で無くなるのは。一つでは意味が無いから、もし誰かが手に取ったとしても薬である事以外分からないだろうし、きっと出来上がる物も想像出来ないはず。一人一枚ずつ保管しているが、あいつが自分達のものではなく自分の物にしようとしているのが気になる。それを知ってレシピの半分を人に託した者もいたり処分しようと考える者や肌身離さず持ち歩いてる者もいる。自分も気を付けなければ」

「このレシピは全部ここにあるのでしょうか」
「何枚かはあるだろうけど、僕達のような人がこれまでいなかったとは思えないから全部は揃っていないと思うよ」
 エオリアの問いかけに学人はローズの方に視線を向けながら答えた。魔法薬収集好きが回収した可能性があるのではと。
「そうですね。特に“あいつ”と表記されている筆者に警戒されている者が気になりますね。もしかしたらいくつか持っているかもしれません」
 とエオリア。
「どんなレシピか気になるなぁ。薬関係の書物を確認したけど何も見当たらなかったよ。口外だけでなく何かに残す事も禁じていたのかも」
 気になって仕方が無いローズ。分からないとなるとますます知りたくなる。
「エース、ここでの探索はこれまでにして別の場所に行きましょう」
 エオリアはこの部屋での検索はこれまでと見切りを付けた。
「分かったよ。その前にこの子達を連れ出さないと」
 エースはうなずくも名残惜しそうに花壇の方に視線を向ける。
「エース、それは頼みましょう。ここだけではなく、他の部屋にも咲いているでしょうから二人だけでは無理です」
 また体調不良を起こされてはたまらないエオリアは何とか説得を試みる。
「……それなら別れの挨拶だけでも」
 一理あるとエオリアの言葉も受け入れるも名残惜しいエースはせめて別れの挨拶だけでもと言い出す。
「また顔色が悪くなりますよ」
「今度は話し込まないから大丈夫さ」
 エオリアの心配もさらっと受け流しエースは別れの挨拶をするために花壇へ行ってしまった。
「……エース」
 エオリアは呆れたような溜息をつきながら植物に別れを告げているエースを見守っていた。結局、また顔色を悪くさせたエースをエオリアが引き離す事によってこの部屋を退室する形となった。
 この部屋を退室した後、エース達は装置設置をしながら資料探しも続けていた。他の探索者から得た情報により凶暴化した獣も救える道があると知ってから遭遇した時はエースは『エバーグリーン』で遺跡内で元気に生活する蔦系植物達に手伝って貰って捕縛したりエオリアの二丁のメルトバスターでの威嚇射撃での追い払いによって道を切り拓いて行った。

 エース達が去った後。
「キスミ、もうそろそろ他の所に行くぞ」
「おう」
 散々ここでのお宝探しをして満足した双子は別の場所に移動する事に決める。すっかり仕事の事など忘れている。
「二人共、もう行くの? 気を付けて」
 ローズは魔法薬のレシピを読み込みながら適当に双子を見送った。
「じゃな」
「そっちも回収頑張れよ」
 双子もローズに挨拶を返してからどこかに行った。

「ロゼ、僕達も他の場所に移動するよ」
 学人は新たな情報を得るために他の場所への移動を考え、ローズに声をかける。
「学人、もう少しだけ待って」
 ローズは魔法薬のレシピから顔を上げず応対した。
「……ロゼ」
 学人は気苦労の顔でレシピを読み込むローズを眺めていた。
 ローズがレシピを読み終わってから移動を始めた。オルナのお裾分けは無事になされ、相手はとても喜んだ。
 他の探索者から得た情報で学人は特別なレシピについて予想が当たっていた事を知った。