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リアクション
第三章 お宝とお仕事
遺跡内部。
「いつの間にかあの二人、いなくなってるよ」
マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)は先ほどまで近くにいた双子が消えている事に気付き、すぐに双子の安全のため他の人達にも知らせた。
「……静かだと思いきやまた遊び回ってるのか。死にかけたというのに元気だよな」
ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)は呆れの溜息をついた。
リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)達は双子と共に装置設置のために遺跡に訪れたのだが、リース達が設置場所を探している間にいつの間にか消えていたのだ。リース達は双子の気配が消えた事が気になって仕事を始める前に双子がつい先ほどまでいた場所に引き返していた。
「そ、そうですね。とにかく私達の分担分を設置しましょう。これ以上被害を出さないためにも」
リースは少し困るもののやるべき事はしなければと気持ちを引き締めた。何せ最近起きた別世界に囚われる事件にナディムと共にリースは巻き込まれたので。
「だな。俺達がこの間倒れたのもあいつのせいだと言うし」
ナディムも気持ちを双子から正体不明の魔術師に切り替えた。
「とりあえず、さっさと終わらせよう。というか、装置が壊れてないかテストした方が良いんじゃないかな?」
そう言うなりマーガレットは装置を取り出し、近くの壁に設置しようとする。
「おいおい、大雑把で飽き性なところがある奴が触るなって。動くもんも動かなくなるだろ」
ナディムが突然、待ったを入れ、マーガレットの動作を止めた。
「うっ」
ナディムの発言に言葉を濁らせるマーガレット。実はこの間の魔法薬作成の実技テストで赤点だったのだ。
「えと、マーガレット?」
ぐぅの音も出ないマーガレットを心配するリース。
しかし、楽しい会話はここまで。前方から狂ったような獣の声がリース達の方に接近して来た。
「リース、設置は頼むわ」
マーガレットは装置をリースに託し、ラスターエスクードを構え、獣に向かって駆け寄る。
「先手必勝!!」
声を上げるなりマーガレットは『舞い降りる死の翼』を使用したラスターエスクードの切っ先から鋭い風が放たれ、凶暴化した獣を壁に叩き付け、気絶させた。
しかし、危機はこれだけにはとどまらず、
「来るぞ」
『イナンナの加護』で周囲を警戒していたナディムが後方から迫る危機を察知し、描天我弓を構え、大量に迫る鳥類の怪物を次々に仕留めていった。
ナディムの戦闘が終わり、ようやく安全を取り戻した。
「リース、大丈夫?」
戦闘を終えたマーガレットがリースの無事を確認する。
「……だ、大丈夫です」
二人が戦闘をしている間に何とかリースは装置を設置し終える事が出来た。
「よし、次行こう! あんな凶暴な獣がいるなら二人が設置した場所も確認した方がいいかもね。壊されていたらいけないし」
マーガレットは自分達が退治した獣と鳥類達に目を落としながら湧いた気掛かりを口にした。
「偵察も出しておくぞ」
ナディムはぷちどらアヴァターラ・スコープを自分達の周囲の物陰の偵察にと送り出した。
「えと、急ぎましょう」
準備が整った事を確認するなりリースは合図を出し、双子が設置した装置の確認に急いだ。双子が設置した量が少なかったためすぐに確認作業を終える事が出来た。
確認を終え、仕事に戻った後。
「これを起動したら私達も魔法が使えなくなってしまいますね。魔法という魔法に反応してしまうから」
リースは薄暗い部屋を照らす『光術』で自分が生み出した光球を見上げながら気掛かりを口にした。『博識』を持つためすぐに装置の効果が自分達にも及ぶ事を察していた。
「それじゃ、今度対決しに来た時、困っちゃうよ。学校は何か対策を立ててるのかな」
マーガレットは抱いて当然の疑問を口にした。
「危険物を全て片付けりゃ、魔法が無くても大丈夫かもしれねぇけど。相手が相手だけに不安は残るよな」
ナディムが答えた。どんなに用意を整えても安心出来ない相手であると被害者となった事があるナディムはよく知っていた。
「……あの、それ以外にここは魔法中毒者の住んでいた場所ですから、魔法が使用出来なくなったら何か起こるのではないでしょうか」
リースはもう一つ気掛かりを口にした。魔法を愛するのならその対象が奪われた時の対策も立てているのではないかと考えたのだ。
「確かに何か起きてもおかしくは無いよな」
「魔法中毒って言うぐらいだから。この装置が負けるかもだよね」
ナディムとマーガレットもそれぞれリースの意見に同意を示していた。
「えと、あくまでも可能性の話ですから本当にそうなるとは限りませんけど、そんな気がして」
リースはすっかり同意してしまった二人にあくまでも推測であると念を入れた。
「まぁ、そっちは探索している奴が何か見つけてくれるだろ」
ナディムは自分達の他に探索組がいる事を思い出し、何とかなるだろうと考えを切り替えた。
「そ、そうですよね。もし、使えなくなるようでしたらこれを使うしかありません。魔法使いでも魔法以外の戦いくらい出来ます」
ナディムにうなずいた後、リースはウィッチクラフトの秘儀書を構えて見せた。
「本の角は結構、痛いから武器になると思うけど。あたし達がいるんだから心配しなくていいよ!」
マーガレットはリースの心構えに感心するも自分達が護るからと言った。大雑把で装置の設置は親友のリース任せだがそのリースの身を守る事は出来るから。適材適所といったところだろうか。
「……マーガレット」
リースは親友の言葉に少々嬉しくなった。
「そうだぜ。その時はその時だ。対決がこの数秒後という訳じゃねぇんだし、何か方法を探す時間もあるだろ」
とナディム。この後すぐに対決という訳ではないのだから何とかなるはずだと。
「……そうですね」
リースはこくりとナディムの言葉にうなずいた。
そして、三人は仕事に戻った。
遺跡前。
「資料探しだよね」
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は例の魔術師について何か手掛かりは無いかと冬月 学人(ふゆつき・がくと)を連れて資料探しに来ていた。
「魔法中毒者と言うぐらいだから必ず例の魔術師に興味を抱いて調べている人がいるはずだと思うから」
学人は何らかの手掛かりがあるはずだと感じていた。
「……確かに。早速、中に入って探してみよう」
そう言うなりローズは先頭を切って遺跡に侵入した。
学人も急いでその後ろをついて行った。
ローズ達は侵入してすぐに興味深い部屋に辿り着いた。
遺跡内部、素材栽培と実験室が併合している割と広い部屋。
「結構、古い物が多いから気を付けてよ」
部屋に入るなり学人はローズに注意を入れた。見るからに少し手を滑らしだけで粉々になりそうな物も中にはあるので。
「はいはい。とりあえず、私は薬関係の書籍から調べていくよ」
ローズは適当に学人に言ってから近くにある薬関係の書物を手に取り、中身を確認し始めた。
「僕は日記の類を探すから」
学人は住人の日記や例の魔術師に関する調査結果などをまとめた物を探し始めた。
「……これを確かめてみようか」
『資料検索』を持つ学人は素早く有用そうな書物を見つけ、中身を確認し始めた。
「あいつがあの実験をしようとしている。魔力を失わせる魔法薬を試したいとうるさい奴がいるからだろう。心は魔法を欲しているのに身体は拒否反応を起こす。仕方が無いのかもしれない。肉体を捨て、魂をも捨て魔力だけとなると。そんな事は無理だろ。私達が肉体を捨ててなれるのは死んでナラカに行くか、幽霊としてとどまるだけだ。あいつが話す奇妙な魔術師にはなれやしない。聞くとあれは生き物ではない気がする。言うなら生きた静物、生きた魔力、肉体と魂と心を持った生き物とは思えない。だとしたらどこから生まれたんだ。それを調べる価値はありそうだ」
「奇妙な魔術師、日付はかすれて見えないけど間違い無い。でもこの記述だけじゃ、詳しい事はまだ分からない。他に何か無いかな」
学人の予想通り魔法中毒者は例の魔術師に興味を持っていた。
とりあえず、ローズに何か収穫は無いかと様子を見に行った。
「……こんな薬が……そう言えばホラーハウスのお手伝いをした時、幽霊のようになる薬があったけ」
いつの間にか資料検索に一区切りをつけてローズは休憩にと転がるレシピや薬を適当に手に取り、『薬学』で有害無害を仕分けしながら回収していた。休憩のはずがすっかり目的と化していた。
「……ロゼ」
学人はローズの有様に少しだけ溜息を吐いた。
さらに学人の耳に聞き覚えのある声が入って来た。
「うぉっ、この素材凄くねぇか?」
「持って帰って使ってみるか」
羽純と遭遇した後の双子が部屋に入って来て楽しそうに素材やレシピなどを漁っていた。
「……いつの間に」
学人は知らぬ間にいた双子に溜息をついていた。
「ん、素材。それにこの声は……ヒスミくんにキスミくん。どんな素材があったの?」
ヒスミ・ロズフェル(ひすみ・ろずふぇる)とキスミ・ロズフェル(きすみ・ろずふぇる)の声を聞きつけたローズが双子に近付いた。
「これだよ!」
ヒスミは手に持っている大ぶりな花が咲いている鉢植えを示した。
「花を咲かせるのが難しい素材だね。へぇ、こんなに大きな花は見た事がないよ」
『薬学』を持つローズはすぐに素材の正体を知り、感心していた。
「……三人共、やらないといけない事があるんじゃないの……って聞こえてないし」
学人は呆れてローズと双子に声をかけるも全く当人達には届いていなかった。
遺跡内部。
「……双子達の集中力の無さというか気の散りすぎは今に始まった事ではないし。むしろ、双子が歩き回って徘徊する獣を引き付けている間に装置を手早く設置するとか。双子もちゃんと役立つはずだよ」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は装置を設置しながら双子が聞いたら喚きそうな事を口走っていた。
「……囮ですか。そうなる前に誰かに捕まって引きずり回されますよ」
近くで装置を設置していたエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)がツッコミを入れた。
「……いつもの展開という事だね。せっかくだから遺跡の調査もしようか」
「例の魔術師や旅団についてですね」
エースとエオリアは装置設置のついでに遺跡調査もする事にした。例の魔術師の目的を少しでも掴むために。
「ちょうど、良さそうな部屋があるからね」
そう言ってエースが示したのは入り口から緑が溢れている部屋。
「……もしかして」
エオリアは溜息を吐き出した。問わなくても分かる。植物が存在する部屋であると。
エースはエオリアを置いて部屋に入って行った。
素材栽培と実験室が併合している割と広い部屋。
「この子達に聞けば何か分かるはずだ」
エースは大量の素材が育ちまくっている花壇の前で後から入って来たエオリアを迎えた。
「やっぱりですか。見るからに普通とは思えない姿ですからやめた方がいいと思いますが」
エオリアは一般的な素材よりも色味や大きさがおかしい事に異常さを感じていた。何か危険な事が起きるのではと。
「エオリア、何を言ってるんだい。長い年月を乗り越えた逞しくて素敵な姿じゃないか」
植物を愛するエースはエオリアが感じる危機感など持っておらず、素敵な出会いが出来たと嬉しく思っていた。早速、『人の心、草の心』で聞き込みを開始する。
「……本当に」
エオリアは当分ここで足止めだと思うもとりあえずと装置の設置を済ませた。
「……あれは」
エオリアは装置をし終えたところで自分と同じ立場と思われる人物を発見し、声をかけに行った。エースへの注意は忘れずに。
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