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リアクション
霧の向こうは愛しの者か
白い霧が森から漂っている入口に立つセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。
「(姫君と貧しい身分の男の悲恋……今のところ悲恋ではないけど、自分は身元不明、セレアナは下級ながら貴族の出身。つい重ね合わせちゃうな……)セレアナ、行こっか!」
「そうね、言い伝えの不思議な樹木が見つかると良いわね」
伝説と自分たちが重なる部分を感じたセレンフィリティは、セレアナと南の入口から入っていった。
「うわーこんな濃い霧じゃ逸れちゃいそう」
「だんだん更に濃くなってきてるわね」
歩けば歩く程霧が濃くなっていく……。
そしてついには隣にいるであろうお互いの顔ですら視えなくなってしまう。
「セレアナー、ちゃんと隣いる?」
白い霧によって互いの姿が見えなくなり、その事に酷く不安な気持ちになったセレンフィリティがセレアナに声をかける。
「……………」
「セレアナ?」
「……………」
返事を待っているが、返事が返ってこない。
「まさか逸れた?」
不安になり、セレアナを探すように辺りを見回していると、霧が晴れていく。
「あ!」
晴れた先からセレアナが現れる。
「セレン、探したよ」
「セレアナ! やっぱり霧で逸れたんだ」
「そうね。でも、見つかってよかったわ。あっちに探してたモノがあったわ、一緒に行きましょ?」
出会えたことにほっとするセレンフィリティに、セレアナは自信が現れた方へ連れていこうとする。
そんなセレアナにセレンフィリティは、どこか違和感を覚えた。
「え、セレアナ……?」
「なぁに?」
「(違う。セレアナじゃ……でも……。確かに姿形はセレアナそのものだし、あたしへの接し方も……でも、でも……!)」
言葉にできない違和感と、目の前の“セレアナ”のことを『セレアナじゃない』と否定したくない感情が渦巻いていていく。
「(これはセレアナとは決定的に違う!)……あなたはセレアナじゃない。だって、セレアナはあたしのことをこんなに不安がらせたりしないもの!」
目を見てはっきりとそう言うセレンフィリティ。
「――――――――――!!」
声なき声が響き渡ると、セレアナだったモノは蒸発するように消えていった。
「な、なんだったの……?」
◇ ◇ ◇
同時刻、下手に動いてしまうよりは、その場で待機する方がいいと判断してその場に待機したセレアナの所へ、全く違う雰囲気を纏ったセレンフィリティが現れていた。
「セレアナ、探したよ?」
「セレン?」
「あのね、あっちに探してたモノがあったんだ、一緒に行こう」
手を引いて連れて行こうとするセレンフィリティ。
「あなた、セレンじゃないでしょ」
「なんで? あたしはあたしだよ」
きょとりと首を傾げ、花が咲くような笑顔を浮かべるセレンフィリティ。
だが、霧の向こうから現れたセレンフィリティが自分の恋人でないという気がしてならないセレアナ。
「違うわ。あなたは霧の向こうから出てきた時、私に甘えてこなかったじゃない。だから、あなたはセレンじゃないわ」
「――――――――――!!」
はっきりと断言すると、声なき声が響き渡り、セレンフィリティだったモノは蒸発するように消えていった。
「あ! セレアナ!!」
消えたニセモノのセレンフィリティがいた場所を見ていると、セレンフィリティの声が聴こえてくる。
「セレン?」
「良かったー、見つかって本当に! 怖かったよーーーーー!」
振り向くと飛びかかって来るようにセレアナに抱きついてくるセレンフィリティ。
ぎゅーっと抱きつく彼女にこれが本物だと確信し、セレアナは抱きしめ返した。
「再会できたし、双樹の樹を探そうか!」
「そうね。……あら」
「どうしたの?」
「あれ……」
セレアナが指さす先には2二本の樹が絡み合う樹があった。
言い伝え通りの『双樹の樹』である。
「あれだよ! 絶対」
セレアナの手を引いてセレンフィリティが樹の下に立つ。
「(姫君と貧しい身分の男のように離れませんように……)」
落ちてくる雫を二人ですくい取ると、雫はまるで二人に浸透するように消えていった……。
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