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【探索】

――地上一階、売店。
「よし、結構集まったな」
 武尊がビニール袋の重みに満足げに頷いた。
 中に入っているのは適当に取った飴とチョコ。他には乾電池やヘアピンなんかもある。
「これで金属製の耳かきでもありゃ完璧だったんだけどな……」
 一人武尊が残念そうに呟いた。あれば施錠された扉の開錠に役立つ、と思っていたのである。それでも大体の目当ての者は手に入ったようであった。
「……しかし他の奴ら大丈夫か? というか、誰も来ねぇし……まぁ他に行くところあるなら仕方ないがな」
 ぶつぶつと武尊が呟いた。今売店にいるのは武尊一人であり、他の面々は他の場所を調べに行っている。
「とりあえずこれくらいか……ん?」
 ふと、武尊の目にある物が映る。
「新聞……か」
 レジ横に束になって置いてある新聞を、何気なく武尊は手に取ってみた。日付は馬車に乗った日であった。
 様々なニュースが載ってあるが、最も大きく取り上げられていたのは件の馬車事故の事であった。
「『死傷者多数。現在も多くが意識不明の重体』ねぇ……」
 ざっと読んで見るが原因は未だはっきりしていないとの事。というのも当事者から話が聞けないのが理由である、と言うような事が書かれていた。
「……っと、あんまり読んでる場合じゃなさそうだな」
 単独行動となってしまったため使用していた【ディメンションサイト】は普段よりも効果は薄いが、『誰かいる』程度は認識できた。
 武尊はその新聞を、束の上に放ると棚の陰にそっと隠れて様子を伺う。
 それは制服を纏った警備員であった。しかし様子が明らかにおかしい。
 動き方が生者のそれとは違う。印象としては映画などで見かけるゾンビのような動き方に近い。
 動きが鈍い警備員は武尊には全く気付かず、そのまま出て行ってしまった。
 もう誰もいないことを確認し、武尊は安堵の息を吐いた。

――地上一階、用務員室。
「……あんまりいい物ねぇなぁ」
 粗方用務員室を漁った恭也が溜息を吐く。
 彼が用務員室を訪れた目的は工具と資材。武器になる物を、と思ったのであるが結果は芳しくない。
「最低でも釘打ち機でもあれば良かったんだがなぁ」
「まあまあ、これがあるんだからいいじゃないですか」
 そう言って牡丹が手に持ったモップを見せる。恭也も持っている同じモップを見る。
「これねぇ……どうも心許ないんだがなぁ」
「いやいや、モップと言ったらあれですよ? 伝説の武器ですよ? 舐めてかかったら意外と攻撃力高いっていう代物ですよ? これで怖い物無し、モウナニモコワクナイ」
「最後何で棒読みなんだよ」
 何か死亡フラグが立ったような気がする。
「うーん……こっちは何もなかったよ」
 部屋の別の場所を探していたレナリィががっかりしたように呟く。
「レナの方もですか」
 牡丹の言葉に、レナリィは軽く頷く。
「うん……棚の奥の方とか暗くてよく見えないところも多いんだよねぇ……」
 そう言ってレナリィは天井を見る。備え付けられている蛍光灯は古いのか、点灯していない物もあり部屋は随分と薄暗い。
「こういう所なら懐中電灯くらいあると思ったんだが、そっちもハズレか」
 恭也が軽く舌打ちする。
「【光術】もどうも上手く使えませんね……これは他のスキルも当てにならないかもしれませんよ」
 牡丹が【光術】を発動させようとするが、現れたのは普段よりも遥かに小さな光。豆電球よりも頼りないくらいの物であった。しかも一瞬光ったと思うとすぐに消えてしまう。これでは到底光源として利用できそうにない。
「暗視もうまくいかなかったからそうかもしれないねぇ……」
 レナリィが溜息を吐いた。【ダークビジョン】の効果も薄かったのである。
「仕方ねぇなぁ……モップの強化だけでもやりたかったんだけどな」
 恭也がモップを頼りなさそうに見た。長さはそこそこあり、武器として使えなくはないがこれだけでは少々頼りない。
「あまり収穫は無さそうですね」
 そう牡丹が呟く。
「こんなの見つけたよ」
「うわっ!? い、いつからいたんですか?」
 牡丹が飛び上がらんばかりに驚く。その様子を見て空は首を傾げるようにして言った。
「最初からいたよ?」
「き、気付かなかったよ……」
 同様に驚くレナリィに、「同じく」と恭也も小さく呟く。
「そ、それより見つけたって何を……こ、これは!?」
 空が差し出した物を見て、牡丹が声を上げる。
「何だ……本?」
 恭也が目を向けると、空の手にあったのは薄い本だった。
「いえいえこれはただの本ではありませんよ! きっとこの用務員さんの秘蔵のウス異本かもしれません! これはそっと机の上に置いておく『お母さんの優しい気遣い』作戦で行きましょう! ああでも中身を見たいという誘惑がぁ!」
「お前のパートナーってあんなだったっけ?」
 恭也がレナリィに言うが、彼女が返せたのは苦笑だけであった。
「んー、何かノートみたい」
 空が表紙を捲って言った。
「なんだ……」
 その言葉にあからさまに落胆する様子を見せる牡丹。一体何を期待している。
「でもノートって連絡用のですかね? ちょっと見てみましょうか」
 空からノートを受け取り、牡丹がページを捲った。
 最初の頁は白紙。次を捲る。