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第一章 現在・お手伝い


 未来体験薬被験者が集まり、実験が開始される前に手伝いに来たザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は被験者のために椅子やベッドを整え、カーテンやパーティションなどで仕切り、覚醒後の被験者のためにお菓子を置いた歓談用スペースを暗い未来を見た人を落ち着かせるためにハーブティーも用意した。
 そして、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)の作業がスムーズになるようにと任意記入の簡単なアンケート用紙も用意した。

 実験中、データ集め組の寛ぎスペース。
「今日はいろいろとすまんな」
 アーデルハイトは被験者の見回りから戻ったザカコを改めて労った。
「いえ、いいですよ。こういう実験は人手が多い方がいいですから」
 ザカコは全く苦にしていない様子で答えた。
 現在被験者に異常が無いため二人は椅子に座り、息抜きを始めた。
「しかし、予想通り明るい未来の方が多いようじゃな。そなたならどうする?」
 アーデルハイトは被験者リストを確認しながら何気なしにザカコに問うた。
「……自分も明るい未来がいいですね。アーデルさんと幸せになっている未来が見えないかなと考えたりしましたが……大事なのは現実ですからね。アーデルさんならどれにしますか?」
 ザカコはさらりと相手も周知済みのアーデルハイトへの好意も含めつつ答えた。
「……未来とは過ぎ去れば過去となる故、これまで多くの未来を見て来たため満腹じゃが、そなたや他の皆が健やかに生きておる明るい未来の方がよいな」
 アーデルハイトは少し考え込んでから答えた。
「……そうですか」
 とザカコ。内心自分と他の皆を区別してくれた事に嬉しく思っていた。
 その時、
「これで二人が懲りたらいいんだけど。それは高望みかな」
 見回りを終えたアゾートが会話に加わった。
「そうですね。これを機に少し落ち着いたらいいんですけど」
「しかし、それは嬉しいが、趣味が減って少しつまらぬ」
 ザカコの言葉に対してアーデルハイトは少々つまらなさそうに言った。何せ趣味が説教で一番の標的は双子だから。
「口答やアンケートでも未来の内容を記述しない人がいる事も考えないといけないね。内容によっては知られたくないと思う人がいるだろうから。まぁ、顔を見ればだいたい幸せだったというのは分かるだろうけど」
 アゾートはあらゆる事態を考えていた。
「内容よりも個人によって効果に差があるか異常があるかじゃな。あれは依存性は低い故おかしな事はそうそう無かろうと思うが」
 アーデルハイトは内容よりも重視する事柄を挙げた。
「それなら効果を若干抑えた上で精神安定や安眠用の薬として今後、使うのもいいかもしれませんね。利用するにしてもデータ分析をしてからになりますが」
 ザカコはアーデルハイトの意見を受け、新たな利用方法を提案した。
 この後、交代で被験者に異常が無いか見回りを続け、覚醒した被験者の報告を聞いて回ったりした。