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リアクション
■見せたい光景がある■
『……この場所は活動するには問題ない。やが、何度も言うように住んどるやつらは凶暴や。
あと、どういった影響があるか分からんから、水や食べ物は絶対口にしないようにな。まあ、そんなことせえへんやろうけど』
森の一箇所。比較的、開いた土地に弐号を着陸させた土星くんが皆に説明をしていた。
現地の水や食べ物の話になった際、一部がぴくりと反応していたが、土星くんは気づかなかった。
「テレパシーへの影響はどうなのかしら?」
尋ねるのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)。珍しく――というと大変失礼だが――まともな質問だ。
まあそれでも、服装はいつもと同じ露出激しいものなので、なんともギャップが凄まじいが。
『大丈夫やとは思うが……調査が十分とはいえんからな。
なるべく使わんほうが無難やろう』
「となると、他の連絡手段が必要ね。でも電波状況はよくないのよね?」
『せやな。まったく通じんわけやないんやけどな』
パートナーのセレアナが、内心「いつもこうならいいのに」とセレンフィリティが真面目にしているのを見て思いながら、あごに手を触れさせた。
「それなんだけどさ」
声を発したのはセレンフィリティたちと同じく捜索隊の1人、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)。パートナーのルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)を目で示しながら「装輪装甲通信車をルシェイメアが運転するつもりなんだ。それで改善できないかな?」と言う。
空中にジャイアントピヨ(アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が操る)を配置し、方角を失わない目印になると同時に、ルシェイメアと協力して情報収集&発信をする、と。
「どれだけの範囲をカバーできるかはわからんのじゃが」
「1人だから、戦うのは難しいケドネ」
ルシェイメアらの言葉に、土星くんは『それならば問題ないやろ』頷く。それでも届かない場合はテレパシーやパートナー間の電話で連絡を取り合うことになった。
「そうじゃな。もし発見の連絡があったら、信号弾を打ち上げることにしよう」
連絡手段は決まった。
「情報共有手段については了解しましたわ。
捜索の方法ですが、時間のことを考えるといくつかのグループに分かれて探すべきですわね。危険は伴いますが」
そう言う乃木坂 みと(のぎさか・みと)に、土星くんの目が鋭くなる。彼もそれしかないのは分かっているのだろうが、土星くんにとって……いや。スークシュマという種族にとって、住民(乗組員)を危険にさらすというのは最も避けなければならないことだ。
特に土星くんは一度住民を失っているだけに、よけい同意を返せないのだろう。沈黙していた。
「たしかにそれが一番が良いけど、周囲の警戒と探索。担当を分けた方がより安全で、効率も上がると思うんだ」
口を開くのはカル・カルカー(かる・かるかー)。
捜索に名乗りを上げた者たちは戦闘にも優れているが、彼の言うとおり。分担した方がより早く、安全に探せるだろう。
土星くんはそれなら、とようやく頷く。
カルが率いるパワードスーツ隊と志願した冒険者たちが主に警戒にあたることとなった。
作戦が決まればすぐに行動だ。
探索隊は各々土星くんに声をかけ、
「護衛は俺らに任せて、皆は彼らを助け出してくれ!」
「ま、弐号の護衛は引き受けるぜ」
イコンに乗ったままの紫月 唯斗(しづき・ゆいと)と柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)に、そう送り出された。
そんな中、ルカルカが眉を下げた。彼女も探索に向かうのだが、
「コーン・スー。本当に行かなくていいの? 自分に正直になろうよ」
本当は誰よりも迎えに行きたいはず。それを必死にこらえている土星くんを見かねたようだった。
土星くんはぐっと唇に力を入れてから、絞り出すような声を出した。
『……それはあかん。わしがおらんとこいつ(弐号)は動かん。
すぐに迎えに行くためにも、わしはここにおらなあかんのや』
「そっか……ごめん」
『いや――ありがとな』
土星くんはそう、少しだけ笑った。
* * *
というちょっと? しんみりな空気が弐号入口で流れている頃。
一足先に弐号を出た葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)とコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の戦いが始まっていた。
「やはり思ったとおりであります!」
道中はイコンの整備やエネルギーの補充などを『真面目に(ここ大事)』手伝っていた吹雪だったが、そこで終わらないのが彼女が吹雪たるゆえんである。
「他では見られない食材がいっぱいであります」
彼女が今回の作戦に一番の理由は、なんと自身が経営する『アガルタ食堂』の食材を求めてのことだったのだ。
宇宙=凄い食材がある!
というよく分からない公式の元、護衛のためと称して持ってきた伊勢に、ついでに食材をたくさん詰め込もうと考えていた。
吹雪に操縦を任され、真剣に護衛を行おうと考えていた(実際行ってきたのだが)コルセアは吹雪の真意を知り、これは護衛どころの話ではないと悟った。
「おおっこれはすばらしいであります!」
料理のしがいがある、と吹雪が向かって行った、なんともグロテスクな魔物……目玉がいくつもある腐臭漂う生き物――を見れば、きっと誰もが思うだろう。
「ここであれ(食材)を消さないとアガルタが……」
生き残ったニルヴァーナ人たちには、できれば元気なニルヴァーナの街を見せたいが、あれらの食材が暴れまわるアガルタはあまり……いや。心のそこから見せたくない。
吹雪はそんなコルセアの気持ちに気づいているのかいないのか(おそらく気づいていない)。一応救助の邪魔にならないような場所(ニルヴァーナ人たちがいないと判断された方角)で食材たちを集めていた。
「コルセア! 援護射撃をお願いするであります」
「分かったわ」
頼まれた援護射撃に、もちろんコルセアが力を抜くはずはなく、放たれたビッグバンブラストが食材たちを蒸発させた。
こうして、アガルタの平和は守られたのだった。
* * *
そんな凄まじい(?)攻防があったとは知らない土星くんは、どんよりとした空を見上げた。今が昼なのか夜なのか。それすら判別しないその空は、当然ながら故郷のものとはまるで違う。
彼らは、こんな空の下でずっといたのか。
土星くんの頭に、明るく澄み切ったニルヴァーナの空が思い浮かび、
『はよう、見せてやりたいな』
小さく。小さく呟いた。
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