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【終章】ハーヴィ昔語り


「見て下さい。皆さんのおかげで良い建物になったと思いますよ」
 そう声をかけると、カイは集落に戻って来たばかりのハーヴィを校舎の前に連れて行った。
 集落の中央に陣取るあのオークの樹は、平屋建ての本校舎に寄り添うようにして立っている。その枝の上には可愛らしいツリーハウスがちょこんと乗っかり、子どもたちが幹に開いた洞から樹の中を上ってそこに到達できるようになっていた。秘密基地のようなその子ども園のウッドデッキから、ネージュと華苺が幼い妖精たちと共にハーヴィに向かって手を振っている。
 そして地面に目を落とせば、その周辺では可憐な花々が点々と色をつけていた。時期が来て他の植物の種も芽吹いたら、より一層来校者の目を楽しませてくれることだろう。
 秋風に揺れる花を眺めつつ本校舎に足を踏み入れると、そこはとても落ち着く森の香りがした。広すぎず、狭すぎず、適度な大きさで設計されたその建物は、森から得られた建材を使っているからだろうか、周囲の景観ともよく合っている。図書室等の施設はスペースの広い本校舎内に作られていたが、オークの樹側に専用の扉が設けられており、子ども園の児童でも出入りがし易い設計になっている。
「おお、良い感じじゃのう!」
「結構大変だったわよ。でも完成して良かった!」
 ハーヴィが感嘆の声を上げると、理沙はそう言って満足げに笑う。
 牡丹の提案によって広めに作られた教室は、集落の妖精たちが一堂に会してもゆったりと授業を受けられる位の十分なスペースがあった。まだ机も椅子もないため、妖精たちだけでなく今集落に居る契約者を含めた全員が入るだけの余地がある。
 せっかくなので校内における第一回目の授業を、と勧められたハーヴィは初めのうちこそ謙遜していたものの、結局はまんざらでもない顔をして教壇に立つことになった。
「えー、ではまず最初に、感謝の言葉を伝えておこうかの。今回この集落に来て様々な仕事をしてくれた皆さん、本当にありがとう」
 誰に言われたわけでもないが、妖精たちは契約者の面々に盛大な拍手を送った。
「本当は歴史の授業をしてくれと言われたんじゃが、そんな大層な話は出来んのでのう。もしかしたら退屈かも知れんが、我の思い出話をさせておくれ」
拍手が収まるのを待ってから、ハーヴィはゆっくりと話し始める。

――昔々、この森には綺麗な顔立ちをした双子の精霊が暮らしていた。ハーヴィはその双子の精霊に妹のように可愛がられていたので、三人はよく一緒に動物の世話をしたり、木々の手入れをして生活していた。
双子のうち弟の方は少し内気だったが、森を深く愛していた。一方の姉はといえば、とても好奇心旺盛で面倒見が良い性格だった。そのため彼女はいつも共に暮らしている動物たちだけでなく、人間や妖精などどんな種族の者であっても、森の中で困っている人がいれば手を差し伸べてやっていた。
ある時彼女はどうしてもと頼まれて、森の外まで人助けに出かけて行くことになった。弟も姉と共に行くことになり、二人はハーヴィに森のことを全て託して遠くへ旅立った。一人残されたハーヴィは双子の意志を継いで森を守りながら、迷い人が灯りを見つけられるように家を建てることにしたという――。

「あの時は、まさかこんな大勢に囲まれて暮らすようになるとは思っていなかったのう。双子と同じように困っている人の手助けをするつもりで建てた家から、こんな立派な学校のある集落になるとは……年は取ってみるもんじゃな」
 感じ入るように目を細めて、ハーヴィはゆっくりとその場にいる全員を見渡す。
「今日、お前さんたち皆が協力して物事に当たっているのを見て、我は本当に嬉しかった。皆の衆、これからどんどん良い学校にして行くぞ」
 ハーヴィは妖精たちにそう言ってから、契約者たちの方に視線を向けて「これからもどうか力を貸して欲しい」と頭を下げる。
 教室から差し込んだ夕日の赤が、第一回授業の終わりを告げていた。

担当マスターより

▼担当マスター

黒留 翔

▼マスターコメント

黒留 翔です。
『妖精の学び舎』シナリオに参加して頂いた皆様、お疲れさまでした。
皆様のおかげで、妖精の集落も少しずつ賑わいを見せてきました。次回は恐らく白衣の男関連のストーリーが進行すると思います……恐らく……。
そして集落の名前についても次回作で決定する予定ですので、ご興味のある方はまた是非参加して頂ければ幸いです。ありがとうございました。