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ブラウニー達のサンタクロース業2023

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ブラウニー達のサンタクロース業2023
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リアクション

 夕方、芦原城下の長屋一角、緒方家。
 本日、お隣さんであるフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)とその恋人のベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)と一緒に忘年会兼クリスマス会が開催。

「悪いが、配膳を手伝ってくれないか?」
 配膳をしながら緒方 樹(おがた・いつき)は来たばかりのフレンディス達にも手伝いを要請。
「お任せ下さい。どの料理も美味しそうですね」
 フレンディスは即引き受けるも樹の手にある美味なる料理に釘付けに。
「アキラが準備したモノだからな。味は保証出来るぞ」
 樹はニヤリ。樹の言う通り緒方 章(おがた・あきら)が『用意は調っております』で先回りして用意した美味しい料理である。
「……クリスマスに日本酒か。しかもかなり度数が高くないか? 樹の姉ちゃん」
 ベルクはテーブルにある樹が用意した酒、銘酒「世界樹の雫」を手に一言。
「悪くないだろ。度数も飲み過ぎなければ何も問題は無い」
 樹はけらけらと笑いながら言った後、配膳をフレンディスに任せて他の者に宴会を始める事を伝えに行った。
 樹と入れ違いに
「……そうですよ。問題どころか好都合じゃありませんか、ウェルナートくん」
 がしりとベルクの肩を掴む章。ニタニタと笑みまで浮かべていた。

 一方、他の参加者。

 部屋の隅で賑やかなイベントそっちのけで緒方 太壱(おがた・たいち)はメールチェックをしていた。
「ツェツェ、明日退院って言ってたっけな。メール打っても返ってこねぇし、病院にいるせいか……それとも……あぁ、生きてるかどうか心配になっちまうぜ」
 いくら待っても入院中のあの人からのメールは来ない。それが余計に不安を増長させる。
「……気になるけど、入院している病院知らねぇんだよな」
 相手の入院先は知らされておらず色濃くなる心配を何とかする術はない。
「タイチ、もうそろそろ始めるぞ」
「……分かった」
 樹に呼ばれた太壱は沈んだ気持ちのまま立ち上がり、賑やかな輪へ。
「……(かなり心配しているな。となると……)」
 太壱の様子に樹はある事を思いつきながら別の参加者の所へ。

「コタロー、何してるんだ?」
 樹はコタローに宴会開始を知らせに来たが、緒方 コタロー(おがた・こたろう)は何やらごそごそと作業をしていた。
「こた、あきのナノ治療装置見てるれす。どんにゃぎじつれ作られてうか、しらべるんれす。 たいは、つぇちーしゃんが好きなんれしょ? つぇちーしゃんが元気じゃないれしゅからたいも元気がないんれしょ?」
 『コンピューター』を有するコタローは『ナゾの究明』とこたのくらーとPCを使って章が持参していたナノ治療装置を調査していた。自分なりの方法で太壱を元気にしたいから。
「太壱のためか。そうだな、早く元気になって貰いたよな」
 樹はコタローの優しさに嬉しくなると同時にこんなにも心配しているのだから何か発見出来ればと切に願った。
「らから、しらべるんれす」
 コタローは宴会そっちのけで調査の方に取り掛かる事を決めていた。
「そうか。一段落したら来いよ」
 樹は止める事はせず戻った。コタローは奇跡に導かれある物を発見する事に。
 樹が戻った頃にはフレンディスによって配膳は完了していた。

「さて、始めるか……どうやらあの二人はすでに始めてるな」
 早速、宴会を始めようとした所、ベルクと章がすでに始めている事、心無しか深刻な空気が支配している事を知った。話の内容は周知済み。
「マスター達、楽しそうですね。私達も負けずに楽しみましょう」
 ベルクの気苦労なぞどこ吹く風のフレンディスは呑気に宴会気分。自分の事が話題にのぼっているなど予想してなどいない。
「…………(大変だな)」
 樹は章相手に何やら話しているベルクに胸の内で同情していた。
「ところで、本日は本当にお誘いを頂きありがとうございます。樹さんご一家が葦原に引っ越してきて以来、こうして休日にお会いする機会がなかったので……私、この度は皆様方とご一緒できて嬉しく思います」
 フレンディスは改めて本日のお誘いの礼を述べた。
「あぁ、こっちもだ(それでいいのか? クリスマスだぞ)」
 樹は胸中でつぶやいた事は言わずにただうなずいていた。
「では、私達も食べましょう」
 フレンディスは目を輝かせ、目についた料理から次々と手を伸ばし、堪能していた。
「……飲む前に片付けないとな」
 樹は元気のない太壱の方を見ていた。

 樹が知らせに行っている間。
 用意された酒に問題無い発言をする章に
「つまり……」
 ベルクは何を意味するのか察しながらも先を促した。ちなみに章はベルクが尊敬出来る数少ない人物である。
「……酔っ払わせて床になだれ込むんですよ。介抱するとか言えば全く問題ありません」
 章は嬉しそうに料理を並べるフレンディスを一瞥した後、素敵なアドバイスをする。
「そうは言ってもな。今日は邪魔者が遊びに行ったからと思っていたが、この賑やかさ……」
 ベルクは遠い目をしながら愚痴で答えた。ポチの助が出掛け、幸運が舞い込んだと思ったらデート後回しのこの有様。
「……フレイも意識してくれているみてぇなんだが……一朝一夕に進展というのは」
 ベルクは嘆きめいた溜息をついた。この溜息の前に夫婦生活の初夢や未来薬によって子供二人設けた家族生活、結婚に触れた際のフレンディスの深刻な実母問題と結ばれるためのステップが山と谷ばかりである事を愚痴った。
「考えるだけでは難解でしょうが、動けば案外容易かも知れませんよ」
 章は樹とフレンディスが何やらお喋りしている様子を見つつ軽く助言する。
「それはつまり……」
「今日、最初に僕が言った事に集約されますね」
 章は酒の入った盃を傾けながら察したベルクに笑顔で言った。
「……」
 ベルクは章の笑顔に言葉では無く溜息で答えた。

 その時、
「……太壱、お前は呑むな、アキラ」
 樹が気を紛らわすために酒を飲もうとする太壱を止め、ベルクと飲み交わしている章に目で合図を送った。
「俺は? お袋、何企んで……」
 飲む前に没収された酒をにらみつつ、理由を問いただそうとした時、鍵が飛んできた。
「おわっと!?」
 鍵をキャッチした太壱は飛んで来た方向、章の方を見た。
「太壱君、ヘリファルテの鍵持って行きなさい。それで気になることがあったら何とかしておくこと、良いね?」
 章は樹の合図を受け、しっかり協力した。太壱達が上手く行って欲しいので。
「……親父、すまねぇ行って来る!」
 太壱は鍵を握り締め、外に出て行った。今一番何とかしたい事を何とかするために。

 太壱が退場した後、
「すでに始めているが、遅くなった引越祝い兼忘年会兼クリスマス会に乾杯!」
 樹が盃を抱えて改めて挨拶。
 皆それぞれ手に持つ飲み物で乾杯をした。
 この後、章はベルク達のためにと樹と飲み交わしに行った。

「太壱君、上手くいってると良いですね」
「そうだな。まあ、こっちは賑やかに酒飲み話に花を咲かせるか……って、アキラ、何をやってるんだ! 皆がいるんだぞ」
 章と樹は仲良く飲み交わしていたが、大人しくではなく章は樹を慌てさせ紅潮させるような事をしでかしていた。
「べっつに良いじゃない樹ちゃん、コタ君は装置に夢中であの二人も気にしていないみたいだし♪」
 章は全く樹の言葉を聞く気は無い。コタローは装置、フレンディス達は美味しく食事中で誰も自分達を気にする者いないという最高な状況。
「……だからって」
 呆れも加えつつ何とかやめさせようと必死になる樹。
 そんな時、
「ねーたん、来てくらしゃい」
 コタローの呼ぶ声が救った。
「どうした?」
「何かありましたか?」
 樹と章はすぐに駆けつけた。
「こえ、ここにょふちゃ! にゃんか紙がはしゃまってうれす!」
 コタローはナノ治療装置の蓋に挟まっている紙切れを示した。
「この蓋ならマイナスドライバーで開けられるだろ。ちょと待ってろ」
 樹はすぐに工具を取りに行った。

 戻って来て
「よし、取れたぞ。で、挟まっていたのは……手紙のようだが、この字はアキラだな。私には読めん」
 樹は。あっという間に蓋を取り紙切れを確認したが、覚えのある達筆過ぎて解読不能の文字を見た瞬間諦めた。
「こたもこにょ字読めまい。あきがしぇきにんとっれ、読んれくらさい!」
 手紙を覗き込んだコタローもお手上げ。
「僕の字ですか? 手紙を書いた覚えはありませんが……どれ」
 コタローに指名された章が書いた覚えのない手紙を読み始めた。
 それは、
「……科学技術と魔法技術を融合させるところまでは何とかなりました、然し僕の勉強が足らなかったため、魔法技術は不完全な部分が多いです……もしこの技術が過去の僕に渡るのならば、セシリア君の命は救われます……樹ちゃん、これって」
 太壱とセシリアに関わる重要な内容であった。
「……うまく行きそうだな」
 樹はほっと胸を撫で下ろした。
「こえでつぇちーしゃん元気になえうれす。ねーたん、しゃっしょくたいにれんらくすうれす!」
 コタローは急いで知らせなければとワタワタ。
「コタロー、連絡は後だ。今日はクリスマスだ。無粋な事はしない方がいい」
 樹が急いでコタローを止めた今頃、クリスマスを過ごしているだろう太壱とセシリアのために。
「分かったれす」
 コタローは大人しくうなずき、連絡はしなかった。
 この後、無事に連絡を入れた。

「マスター、このお料理、美味しいですよ。是非食べてみて下さい」
 フレンディスは食べたり飲んだりとぽやぽや。本日の美味料理にランクインしたおかずをベルクに勧めたり。
「……あぁ、貰おうか(章さんが言うようには……いいか、フレイが楽しそうだし)」
 ベルクは章の助言の実行など出来るはずはなくただ溜息を吐き出し、勧められたおかずをつついた。今日はいつものように恋人が楽しんでいる姿が見られて良しとするかと諦めていたり。

 忙しく宴会を楽しんでいたフレンディスの手が止まり
「……マスター、見えますか? あの透けているご婦人の姿」
 小首を傾げながらぼんやりと前方を見つめ、指さした。
「……ん? 見える。恐らく幻か幽霊だろう」
 ベルクはおかずから顔を上げ、示す先を見た。そこにはフレンディスが言うように肩までの美しい銀髪を持つ快活そうな女性の幻が立っていた。
「……」
 女性は楽しそうにこの宴会を眺めていた。
 ベルクは見えているのが自分達だけなのか気になり章達の様子を伺うも
「……今の状況から章さん達が見えているかどうか分からねぇな」
 奇跡な発見に夢中で幽霊どころではない模様で分からない。
「……レティシアさんに似ている気も致しますが……きっと同じ戦乙女さんだからかもしれませんね」
 ややレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)に似ている女性を観察しつつフレンディスは相手に聞こえないように声量小さくベルクに言った。
「……そうだな。何をしに来たんだろうな」
 ベルクもまたこそっと返す。
 二人がそんなやり取りをしていた時、
「……」
 戦乙女はくるりとこちらに振り向き、笑いかけたかと思ったら近付いて来る。
「マスター、こちらに来ますよ」
「敵意はなさそうだが、フレイ、一応警戒だ」
 フレンディスとベルクは得体の知れない相手に警戒。何かあればすぐに対応出来るよう心積もりもする。
 とうとう
「……」
 戦乙女は二人の前に立ち、警戒を吹き飛ばす程の優しい笑顔を向けた。
「マスター、悪い幻ではなさそうですね」
「……あぁ」
 フレンディスとベルクは同時に警戒を解いた。
 戦乙女は手振り身振りを交えながら表情豊かにフレンディスに優しく話しかけた。
「……温かな励ましを有り難う御座います」
 フレンディスは温かな気持ちにさせてくれた幻に丁寧に礼を述べた。
 戦乙女は次にベルクに向き直るなり、フレンディス相手の時とは違い、笑顔少なめの呆れと怒り顔で話しかけた。
「……何言ってるのか分からねぇけど、もっと努力しろって超怒られた気が(……それに何だ、この妙に懐かしい感覚は)」
 フレンディスとは違いなぜか声だけ聞こえないベルクは相手の動作と動く唇で何となく話の内容を読み取り、溜息を吐いた。同時に感じた懐かしさに疑問を抱くばかりで心当たりは思い出せない。
「マスター、どこかに行きますよ」
「用事が終わったんだろ」
 フレンディスとベルクは静かに戦乙女を見送った。
 この後、二人は再び楽しい宴会を満喫した。

 夕方、人気のない場所。

「……ここは静かだな」
 レティシアは仏頂面で静かに歩いていた。
 その時、
「……この声は」
 聞き覚えのある女性の声がレティシアの背中を叩いた。
「……やはりアリシア、お主であったか」
 振り返り相手を確認するなりレティシアは軽く口元をゆるめた。
 久しぶりというアリシアの挨拶に
「あぁ、久しぶりだ。しかし、かような場所でお主に再会するとは偶然……いや、今日はクリスマス故、クリスマスの奇跡というものか」
 レティシアは普段見せない笑顔で亡き妹との再会を喜んだ。
「いかなる理由で現れたのだ? 望むものが居ない奇跡と思うが……あやつが心配で奇跡に便乗し勝手に現れたのだろう? お主は世話好き故」
 レティシアが現れた理由を問いただすと相手は何でもお見通しだと感心し、ブラウニーの奇跡で皆の様子を見に来たのだと言った。レティシアが言うあやつとは、ベルクの事である。
「そう言う事か、それでお主の事だ、すでに様子を見に行った後なのだろう?」
 レティシアは口の端を歪め、アリシアがすでに一仕事終えた事も見抜いていた。姉妹であるためかは知らぬが。
 アリシアは、表情を豊かに緒方家での賑やかな宴会、フレンディスを励まし、ベルクに喝を入れた事を話した。
「……そうか。ご苦労であったな。まだまだ言い足りぬ事もあろうが、お主が見てきた通りあやつに心配はいらぬ。寧ろ我が未だ斬って棄ててない事に感謝するのだな」
 アリシアは姉の言葉に笑いつつ可愛い恋人もいるみたいだしそうかもしれないと思うが、やはり心配は尽きないと言う。
「やはり尽きぬか、仕方の無いことかも知れぬな」
 レティシアは笑んだ。これほどベルクを話題にするのは姉妹がベルクの義姉だからだ。特にアリシアは術師匠兼育ての母親兼恋人的存在だったのでレティシアよりも心配は強いのだろう。当然、この事をベルクは知らないというより思い出せないしレティシアは語る気は無い。呪術の病でアリシアが亡くなる前にに精神操作術にてベルクの記憶抹消・封印したからだ。ベルクが抱いた懐かしさはこれらによるもの。
「……こちらでは」
 レティシアはこれまでの出来事を亡き妹に話し続けた。時々、レティシアの顔から笑顔がこぼれていた。
 姉妹の時間は長くは続かず、それぞれの場所に戻るべき別れの時が来た。

 姉や義弟に再会出来た事、義弟を大切に思う人達に会えて満足したらしく別れの挨拶を口にした。
「もう行くのか。この先もあやつは何とかやっていくだろう。何せ、我らの義弟だからな。安心して還るがいい」
 レティシアは止める事はしなかった。引き止める事は出来ないと知っているから。アリシアは再会出来た事を喜び、これからの事を託して去った。
 妹と別れた後。
「……さて」
 再会で得た温かな気持ちを胸に抱きながら、レティシアはゆっくりと歩き出した。