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リアクション
夜、ヒラニプラの街。
ちらちらと雪が降り、カップルにとっては最高のホワイトクリスマス。賑やかなこの日定番の曲に紛れてあちこちから大騒ぎの派手な音が鳴り響いていた。
「リア充は爆ぜるでありますよ!」
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は『行動予測』でカップル共の動きを先回りし、『歴戦のダンボール術』で見事な偽装術でばれる事無くリア充相手のテロ活動をあちこちで成功させていた。吹雪にとってクリスマスはリア充狩りのお時間。
「……雪が降る中よくやるわね」
離れた場所にいるコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は溜息を吐きながら大暴れ中の吹雪を眺めていた。
この間にも吹雪は一生懸命に活動し
「一段落ついたのであの公園で少し休むでありますよ」
何度目かのテロを成功させてからコルセアに声をかけて近くの公園に入った。
「はいはい」
コルセアはゆっくりとついて行った。
公園。
「ふぅ」
吹雪は近くのベンチに腰を下ろし、一息入れる。
「吹雪、何かあるわよ」
後から入って来たコルセアは吹雪の横にちょこんと置かれている箱に気付いた。
「むむ、自分宛でありますな。何が入っているのか確認するでありますよ」
コルセアの言葉で気付いた吹雪は箱に注視。デカデカと書かれてある“吹雪様へ”という文字に警戒を示しつつ慎重に箱を開ける。
すると
「おおっ、クリスマスケーキでありますよ!!」
生クリームたっぷりの豪華なクリスマスケーキが出て来た。
「……何か落ちたわよ」
コルセアはケーキが出て来ると同時にはらりと地面に落ちた紙切れに気付き、拾い上げた。
「見るからに美味しそうでありますよ!」
吹雪は爛々とした目でケーキをじっと見つめている。
「これは手紙ね」
紙切れを確認したコルセアは一言吹雪に報告。
「手紙でありますか。何と書いてありますか?」
ケーキから目を離さないままコルセアに聞き返す吹雪。
「吹雪様へ、本日の活動お疲れ様です。このケーキで少しでもクリスマスの幸せを感じて頂ければ幸いです、ブラウニーより、と書かれているわ」
コルセアは紙切れに書かれている事を一字一句間違えずに読み上げた。
「つまり、クリスマスプレゼントでありますか」
吹雪はまじまじと改めて美味しそうなクリスマスケーキを見つめる。
「そういう事ね。もう雪も降った事だし家に帰ってそのケーキを楽しんだらどう?」
コルセアはケーキを貰い少し大人しなっている今がチャンスとばかりに何とか吹雪を丸め込んで帰宅させようと言葉を重ねる。
「しかし、これは聖戦でありますよ」
吹雪はケーキから顔を上げ、引き締まった顔でコルセアに言い返す。まだまだいちゃつく幸せカップルはボウフラのように湧いているというのに大人しく帰宅する訳にはいかない。
「まだやるつもりなの。本当、毎年よく飽きないわね」
コルセアは疲れた溜息を吐き出しながら肩をすくめた。飽きない吹雪も大したものだがそれ見守るコルセアもまた大したものだ。
「こうしている間もリア充はあちこちで湧いているでありますよ」
吹雪は丁寧にケーキを箱に戻しながら言った。
「……でも今年はこれまでにした方が賢明よ。手紙の最後にクリスマスの美味しさはクリスマスの内にと書かれてあるから。つまりこのケーキが美味しいのは今日だけと解釈出来るんだけど」
コルセアは注意書きとして手紙の最後に書かれてある文章を丁寧に読み上げた。これが吹雪を帰らせる一押しになるだろうと思いながら。
「それは無視出来ないでありますね」
吹雪は箱に目を落とした。テロ活動と気になるケーキについてどちらを取るべきかを改めて考える。
そして、結論が出たのか
「……」
吹雪は箱を丁寧に抱えてスクッと立ち上がった。
「吹雪?」
「今年はこれくらいにしてたまにはクリスマスを楽しんでみるでありますよ」
聞き返すコルセアに吹雪はケーキが入った箱を撫でながら答えた。どうやら本日のテロ活動はこれまでらしい。やるだけやったのでもう満足というのもあるのだろうが。
「それじゃ、帰りに飲み物を買って家でケーキを食べましょう」
苦労が報われたコルセアは、公園を出て行く吹雪について行った。
帰りにケーキにぴったりの飲み物を購入してから帰宅し、クリスマスケーキを食べた。
「これは最高に美味しいでありますよ!!」
「そうね。でもクリスマスの内にと言う事は今日中にという事よね」
吹雪とコルセアは奇跡としか言いようのない最高に美味しいクリスマスケーキの味を堪能した。コルセアは注意書きについてある事実に気付いた。クリスマスとは今日だけなのにケーキが割と大きく食べ切るには手こずるという事に。
「このしつこくない程よい甘さならいくらでも食べられるでありますよ!」
吹雪はそう言いながら新たな一切れを自分の皿に盛っていた。
「……そうね」
コルセアは飲み物で喉を潤しながらうなずいた。何はともあれ無事にクリスマスを過ごせてほっと胸を撫で下ろしているようであった。
夜、空京。
「雪が降ってすっかりホワイトクリスマスだね。イルミネーションも綺麗だし流れるクリスマスの曲も素敵で散歩に出掛けて何か良かったね。クリスマス気分を少しお裾分けして貰った感じで」
リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)はクリスマスで賑わう街をスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)とヴァルヴァラ・カーネーション(ばるばら・かーねしょん)と一緒にのんびりと散歩していた。
「確かにクリスマスのイルミネーションを見つつ雪の中を散歩するのも悪くないな」
スプリングロンドはクリスマス一色の通りを眺めながら静かな一言。
「……こんなに歩いているのにどこにもいないわね」
スプリングロンドの隣を歩くヴァルヴァラは不満。なぜなら、好みの渋い男ウォッチをしながら歩くも全く遭遇しないからだ。
素敵な散歩は三者三様の風景だけではなかった。
リアトリスが歩くと必ず
「あの、良かったら俺と付き合ってくれませんか」
「……実は私も前からずっとあなたの事が」
告白シーンに出くわすのだ。
「……」
リアトリスは気にせず、ただの通行人として素通り。
そして、
「……(告白成功、よかったね)」
背中から告白成功を耳にしては心の中で成功を祝う。
街の散歩を始めてから何度も告白シーンに遭遇しそのどれもが成功している。
「……さっきから何か妙にカップルの告白シーンに出くわす気がするんだけど。クリスマスだからというのを抜きにしても」
さすがにリアトリスは奇妙さを感じていた。悪い事ではなくむしろ自分も幸せな気分になるが度重なる偶然は気になる。遭遇は本当に偶然だが、告白が成功するのは偶然ではなく、カップルに力添えするブラウニーのおかげだ。
「確かに多いな」
スプリングロンドもリアトリスと同意見。
「つまらないわね。好みの渋い男がいないじゃない」
ヴァルヴァラは渋い男に出会えず相変わらずの不満。告白が成功しようがしまいがどうでもいい。そもそも男の娘やイケメン女子や女は自分の敵と思っているので。
その時、
「ふぁぁああぁん」
幼い少女の大泣きがリアトリス達の耳に入って来た。
「子供の泣き声……あそこで転んでいる子だ」
「保護者の姿が見えないな。という事ははぐれたのかもしれないな」
リアトリスとスプリングロンドはすぐさま駆けつけた。ヴァルヴァラは離れた場所で静かに眺めている。
「どうしたの?」
「……ママとパパが……」
リアトリスが転んで倒れている少女を起こしながら優しく訊ねると少女は泣きながら答えた。
「ほら、泣くな」
全長2mの日本狼化しているスプリングロンドは少女を落ち着かせようと顔を舐めた。
「……大きな犬さん……なでなでしていい?」
子供故、狼と犬の見分けが付かぬ少女はすっかりスプリングロンドを大きな犬と認識。しかも泣き止み懐いている。
「あぁ、いいとも」
子供好きで優しくてノリがいいスプリングロンドは狼である事は訂正せず、優しく相手をする。
「……」
少女はスプリングロンドを撫で撫で。撫でられたスプリングロンドは嬉しそうに尻尾を左右に振った。
すると
「……あれ……痛くない……」
膝小僧から感じていた痛みが消えていた。
「先程まであった怪我が消えているな」
怪我がある事を知っていたスプリングロンドも気付いた。
「もしかして犬さんが治してくれたの?」
「あぁ、この犬さんが治した」
少女の問いかけにスプリングロンドはしっかりと答えた。子供好き故に少女の期待を裏切らないためと自分の目で見たから。
「すごい、犬さんすごい」
少女はすっかり怪我した事も忘れスプリングロンドを尊敬の眼差しで見る。
その時、
「あぁ、こんな所にいたのね」
「捜したんだぞ」
少女を捜し回っていた両親が現れた。
「ママ、パパ。この犬さんすごいんだよ。なでなでしたら痛いのが治ったんだよ」
少女は息せき切ったように大きな犬さんについて喋るのだった。
「この子が迷惑を掛けたみたいで申し訳ありません」
「助けて頂きありがとうございました」
少女の両親はリアトリスとスプリングロンドに丁寧に頭を下げてから娘を連れて行った。はぐれないように手を繋いで。少女は振り返りスプリングロンドに犬さん、バイバイと手を振っていた。
少女達を見送った後。
「……凄いね。怪我を治すなんて」
「これこそ誰かの仕業だな」
リアトリスとスプリングロンドは改めて先程の出来事を振り返った。まさにスプリングロンドの言う通りブラウニーの仕業。
しかし、正体を追求する時間はなく
「うわぁ、日本狼だよね」
「ワンワン」
散歩する度に人が寄って来て撫でたり抱き付いたりして来るのだった。
すると
「あぁ、怪我が治ってる」
「風邪が良くなってる」
怪我や病気が治っているのだ。スプリングロンドは撫でられたら嬉しそうに尻尾を左右に振り相手が子供だったら顔や手を舐めたりしていた。
「凄いなぁ」
リアトリスはスプリングロンドの人気者ぶりを温かく見守っていた。
「そう言えば……」
リアトリスはヴァルヴァラも動き出した事に気付いた。
「クリスマスと言えば恋しい時期! そう男の胸板!!」
ヴァルヴァラはスプリングロンドの身に起きた奇跡を眺めていたが、せっかくの散歩を自分なりに楽しむために動き出していた。
「向こうから来ないのならこちらから行くしかないわ」
ヴァルヴァラは全く好みの男に出会わなかった先程までの散歩を振り返っていた。
自ら動き出した途端、
「あら、あそこにいるのは好みの渋い男。やっぱり、捜しに動いて正解だったわね」
すぐさま好みの男に遭遇。
「♪♪」
迷い無く男性の背後に接近しいきなり飛びついて首筋を舐める雌の黒豹のヴァルヴァラ。
「!!」
標的にされた男性はびくっと驚き振り向いた。正体を知って黒豹という事で青ざめるか獣人の獣化と見抜いて嫌悪を露わにするか。
しかし、反応はそのどちらでもなかった。
「……ん、なんだ、黒豹か。かわいい子だね」
男性は穏やかな笑みを浮かべヴァルヴァラを撫でてされた事を許してしまうのだった。これもまたスプリングロンドと同じ奇跡。
「グルルル」
撫でられたヴァルヴァラは喉を鳴らして喜んだ。
この後もヴァルヴァラは歩く度に好みの渋い男に遭遇し続けては手当たり次第に先程のように背後から攻めるだけでなく正面から抱き付いて胸板に顔をこすりつけたりするが、ことごとく可愛いと言われ、撫でて許されるばかり。
「今日は最高の日ね」
ヴァルヴァラは今日という日、ブラウニーの奇跡を大変満喫していた。
奇跡を貰った二人を眺めるリアトリスは
「……すごいな……あ、ケーキ屋だ」
驚きと感心が混じった感想を口にしたかと思ったらケーキ屋を発見し、ベリー系の果実がたっぷり入ったクリスマス用ケーキと赤ワインと子供用にとシャンメリーを買った。
「……帰宅したいところだけど」
リアトリスは帰宅どころではない二人に目を向けた。
「散歩を終わりにして帰ろうと思うんだけど」
まずはとスプリングロンドに声をかけるリアトリス。
「悪いが、先に帰っていてくれ」
何かの宗教の教祖のようになっているスプリングロンドは抱き付かれた状態で返答をした。
「分かった……ヴァルヴァラは」
リアトリスは笑みながら了承した後、ヴァルヴァラの様子を伺う。
「またまた発見。あの横顔なかなかじゃない」
遭遇する渋い男という男をおいしく食し、終わりにする様子は全く無かった。
「取り込み中だから先に帰ろうか」
リアトリスは先に帰宅する事に決めた。二人に先に帰宅すると言い残してからリアトリスはクリスマスを大切に手に持ち、のんびりと帰り道を楽しんだ。
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