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ブラウニー達のサンタクロース業2023

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ブラウニー達のサンタクロース業2023
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リアクション

 クリスマスの朝、自宅。

「とても賑やかで楽しそうですね」
 千返 ナオ(ちがえ・なお)は偶々つけたテレビに映った本日オープンした遊園地の特集に興味を向けていた。
「すごい人混みだね」
「こんなに人が多いと乗り物も何時間待ちだろうな」
 エドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)千返 かつみ(ちがえ・かつみ)もテレビを見ていた。
「……そう言えば二人の子供時代はどんな感じだったんですか? やっぱり遊園地に行ったりとかしました?」
 家族連れの様子を見たナオはふとかつみ達の子供時代が気になり何気なく訊ねた。
「……小さい頃から独りぼっちで大人に優しくされた記憶もこれと言ってないな」
 かつみは孤独であった幼い自分の姿を思い出しつつ答えた。
「……同じだよ。生まれた時間の事で色々あって独りで……かつみに会うまであの小さな館にほぼ幽閉状態でどこにも行けなかったかな」
 エドゥアルトも自身の過去を振り返る。生まれたのが“呪われた時間”だったというだけで一族から迫害され、普通の子供が持つ楽しい思い出などは与えられず一人で生きていた事を。
「……そうですか」
 素直なナオは子供時代のかつみ達の寂しさを想像し悲しくなっていた。
「ナオ、そんな顔をするな」
 かつみは笑みを浮かべ、少しぎこちない感じで泣きそうな顔をするナオの頭を小突いて朝食の準備に行った。
「かつみの言う通りだよ、ナオ」
 エドゥアルトも優しく微笑みかけ、かつみの手伝いに行った。
「……もし俺が小さい時の二人に会えていたらいっぱい遊んで、優しくして、絶対に寂しい思いなんてさせないのに……クリスマスの妖精さんが叶えてくれたら」
 残されたナオは小突かれた箇所に手を当てながら二人の後ろ姿に向かって小さくつぶやいた。寂しい過去を持ちながらも二人が笑んだのは、今が仲間に囲まれて幸せだからだろう。それでもナオは願わずにはいられなかった。むしろ大切な仲間だからこそ。
 この後、朝食を終えた三人はいつもと変わらぬ平和な一日を過ごした。
 そして夕食が終わるといつものように眠った。ブラウニーが窓の外でナオの優しい願いに人差し指をくるりと回している事も知らずに。

 ■■■

 クリスマスの朝。

「……」
 かつみによく似た幼い子供が警戒色の強い目つきでいつの間にか自分の隣にいる知らない大人と子供をにらんでいた。
「……(誰だこいつら)」
 胸中の疑問は口には出さずにらむばかり。挨拶をして一言訊ねれば答えを得られるのに。

 一方。
「……」
 にらまれているエドゥアルトによく似た子供は自分達を見て驚く大人とにらむ子供の様子を黙って見ていた。

 そして、子供に挟まれた大人、いやナオは
「こ、これはどういう事ですか。二人が小さくなって……確かに小さい時の二人に会えたらいいのにってお願いはしましたけど……」
 小さなかつみ達を見て仰天。似ている子供ではなく子供時代の本人なので驚きは尚更。
「……」
 ナオは二人を見て思い出す。自分がした質問に二人がどう答えていたのかを。ついでにズボンのポケットにいつの間にか財布がある事も確認。
「よし」
 自分が今したい事が出来ると確信するなりナオは気合いを入れた。大事な二人のために頑張るんだと。
 それから
「今日は俺が二人の保護者です! だから行きたい所があったらどこでも連れて行きます。どこがいいですか?」
 ナオは笑顔で両脇の二人に訊ねた。
「……」
 ナオを信用出来ぬかつみは真一文字に口を結んで警戒。
「……」
 エドゥアルトもじっと様子を見ているばかり。
「本当にどこでもいいですよ」
 ナオはリクエストが得られず、少し困り気味にもう一度訊ねた。
「……遊園地がいい。前に本で見て、どんな所か知りたい」
 エドゥアルトが静かに答えた。
「それじゃ、遊園地に行きましょう! たくさん遊びますよ!」
 目的地が決定するなりナオは二人の手を握って元気に歩き始めた。
「……(何だろうこの人)」
 エドゥアルトはじっと自分の手を握るナオの手を見た後、見上げた。
「……疲れたらおんぶもしますから思いっきり楽しみましょう」
 エドゥアルトの視線に気付いたナオは優しく笑いかけた。
「……(こいつ、本当に俺たちに楽しんでほしいと思ってるのか? それに……)」
 かつみはナオのエドゥアルトへの対応を見て警戒する必要は無いのかと思い始める。
 そして、
「……(こんなの初めてだ)」
 自分の手を握るナオの手を見る。初めて大人に手を繋いで貰った事に警戒とは別の感情、嬉しさを感じていた。
 とにもかくにも三人は遊園地に向かった。ここは現実ではないため少し歩くだけで目的地に到着した。

 遊園地。

「ここは今朝見た遊園地」
 ナオは目的地に驚いた。何せ今朝テレビで見た遊園地そのままだったから。ただしテレビで見たほどは人混みは激しくないが。
「まずは何に乗りますか?」
「……あれ」
 ナオの問いかけにエドゥアルトが小さな手で近くの乗り物を指さした。
「あぁ、メリーゴーランドですね」
 指の先を辿ったナオは顔を綻ばせ、二人を連れて行った。
 二人はそれぞれ離れて木馬に跨ってメリーゴーランドを楽しむ。ナオは遊ばず、外で二人の姿が見える度に手を振っていた。
 メリーゴーランドが終わると
「次はどれに乗りますか?」
 ナオはかつみに乗りたい物を訊ねた。
「……あれ、すごいな」
 かつみは敷地の半分以上を占めるジェットコースターに釘付けに。
「あぁ、ジェットコースターですね。大丈夫ですか」
 ナオは少しだけ心配した。何せ今のかつみは子供だから。
「乗れる」
 負けず嫌いのかつみはそう言い切った。
「そうですか。それなら俺も一緒に乗ります」
 心配なナオは一緒に乗る事に決めた。
「……あれがジェットコースター」
 本で見た物を体験したいエドゥアルトも加わった。
 三人仲良くジェットコースターに乗車した。ちなみに三人乗りの座席だったためナオは真ん中だった。
 これが終わった後、ナオ達はあちこち巡り歩いた。
 そのため時間はあっという間に昼近くとなった。
「もうお昼が近いですから何か食べましょう。たくさん、我が儘言っても大丈夫ですよ」
 ナオははぐれないようにと手を繋いで歩きながら両脇の子供達に言った。
 しかし子供達からの返答は無く、興味の視線は
「……」
 曲芸的な技でお菓子を売るスタッフに注がれていた。
「ご飯の前にお菓子というのもいいですね」
 ナオは笑いながら三人分お菓子を買った。
 そして、お菓子を食べながら昼食場所探し。
「美味しいですね」
「おいしい」
 お菓子を食べながら訊ねるナオに二人は同時に答えた。最初は警戒していたかつみも馴染んでいた。
 さらに途中で遊園地のマスコットキャラにも遭遇。
「……風船貰ったよ」
「貰った」
 エドゥアルトとかつみは頭を撫で撫でして貰った上に風船を貰っていた。
「良かったですね」
 嬉しそうな二人にナオの顔も綻ぶ。
 レストランなどを探しているはずがすっかり寄り道ばかりでもナオは何も言わない。かつみ達が楽しんでいる姿を見るのが一番だから。
 結局、昼食にありつけたのはかなり時間が経ってからだった。
 食事を終えるとまた遊びを再開しすっかり昼から夜になり名物の巨大ツリーを見に行った。
「……これは凄いですね。開園とクリスマスのおかげですね」
 ナオは遊園地の中央に立つ巨大なツリーのイルミネーションを見上げた。
「大きいな」
「綺麗」
 かつみとエドゥアルトも同じくツリーを見上げた。
 この後、クリスマス限定の賑やかなパレードを見学しに行った。

 パレード見学中。
「……雪が降って来ましたね。大丈夫ですか?」
 ナオは突然の降雪に両脇の二人の事が気になり振り返った。
 すると
「……」
 エドゥアルトは遊び疲れてウトウトしていた。頑張ってパレードを見学しようとしているが眠気の方が強敵の模様。
「遊び疲れたんですね」
 ナオはそっとエドゥアルトを背負った。
「……ん」
 背負われたエドゥアルトは大きくてあったかい背中に安心したのかあっという間に眠ってしまった。ただし大事な風船だけはしっかりと握り締めている。
「もう、帰りましょうか」
 ナオはかつみも少し眠たそうにしていたので二人のため帰宅する事に決めた。
「……帰る(こいつ、俺達にいっぱい優しくしてくれて悪い奴じゃなかった)」
 背負われているエドゥアルトを一瞥した後、かつみはうなずいた。沢山貰ったナオの優しさに最初に抱いた警戒はとっくに消え、胸中は温かなもので満たされていた。
 ナオはエドゥアルトを背負い、かつみと手を繋いで遊園地を出た。

 ■■■

 クリスマスの翌朝、自宅。

「そうそう、昨日面白い夢見たよ。 俺とエドゥが子供の時、ナオに遊園地に連れて行ってもらう夢」
 かつみは朝食を食べながら昨夜の温かな夢の事を話題にした。
「かつみもその夢を見たんだね」
 エドゥアルトは食事の手を止め、わずかに驚いた顔をした。
「も、という事は……エドゥも?」
 かつみもエドゥアルトの発言に驚き、聞き返す。
「見たよ」
 エドゥアルトは改めて答えた。
「俺も見ましたよ」
 一際嬉しそうにナオも会話に加わる。
「三人一緒に同じ夢を見たという事か」
 かつみは二人の顔を見回し、状況を確認。
「みんなで楽しめてよかったです。でもまさか夢でお願いが叶うとは思いませんでした」
 ナオは食事をしながら嬉しそうにしている理由を洩らした。
「お願い?」
「はい。昨日、二人に子供時代の事を聞いて……」
 訊ねるエドゥアルトにナオは昨日二人の後ろ姿に向かって洩らした内容を教えた。
「そうか。あの夢はナオのお願いのおかげか。楽しかったよ(……気恥ずかしくて言えないが、大きな手で子供の俺の手を握ってくれたのは初めてでとても嬉しかったな)」
 普通夢は目覚めたら霞のように消える物だが、かつみは繋いでくれた手の温かさやその時に感じた嬉しさを現実の出来事のようにしっかりと覚えていた。
「本当に楽しかったよ。ありがとう、ナオ」
 エドゥアルトは口元をわずかに綻ばせた。
「いえ、喜んでくれて俺も嬉しいです」
 ナオは嬉しそうに笑った。
 かつみとエドゥアルトにナオも感じていた。自分の幸せを願い優しくしてくれる誰かがいる事、相手の幸せを願い何かをしようと思う事、そんな事が出来る相手がいる事がどんな高価なプレゼントよりも代え難い最高の幸せである事を。

 かつみ達の一日が始まった。