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リアクション
夜、空京。
「……はぁ、何でこんな事になったんだろ」
綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)はとぼとぼと歩きながらちらりと隣を見た。いつもなら自分に笑顔を向けてくれる最愛の人がいるのに今はいない。その事がさゆみの後悔をますます深くさせる。
「よく考えたら些細な事なのに……何で意地なんか張ったんだろ」
実はクリスマスの数日前、さゆみとアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は些細なすれ違いから喧嘩をしたのだが、意地っ張りな所があるさゆみは意地を張る内に引っ込みが付かず、今も喧嘩中でろくに口も聞いていない。
「……今日はクリスマスで私の誕生日で……アディと楽しい時間を過ごしているはずなのに」
さゆみは悲しそうな顔で雪が降る空を仰いだ。気まずい雰囲気に堪らずアデリーヌに何も言わずに外出したのだ。
「……それにこんな事している暇はないのにアディと違って私は……人間でアディは吸血鬼。こうしている間も少しずつ一緒に過ごす時間が短くなっているのに……」
自分の何倍も生きる種族である最愛の人と違って自分は数十年しか生きられず、存在している時間全てが恋人と過ごせる大切な時間であり、本当はクリスマスを喧嘩で台無しにする余裕などないのだ。
「……アディ、今頃何しているんだろう」
さゆみは最愛の人の名前をつぶやきながらとぼとぼとイルミネーションやクリスマスソングで賑わう街を歩いていた。
歩きに歩いたさゆみは突然、足を止めた。
「……あれ……ここはどこ?」
後悔いっぱいで歩いている内に絶望的な方向音痴を発揮させ寂れた通りに入ってしまっていた。
「まさか……こんな時でも迷子になるなんて……そうだ……」
先程まで聞こえていた賑やかなクリスマスソングが聞こえない薄暗い周囲を困り顔で見回し何か見覚えのあるものはないかと探していたが、助けを呼ぶ事を閃きスマホを取り出そうとする。
しかし、
「無い。もしかして家に忘れて来た……あぁ、アディと喧嘩して誕生日を迎えて迷子になってスマホを忘れて……本当に踏んだり蹴ったり」
探ってもスマホはどこにもなくあるのは絶望だけ。踏んだり蹴ったりに弱り目に祟り目と散々な状態である。
「……どうしよう。スマホが無かったら連絡も出来ない」
助けを呼べない状態にさゆみは改めて今自分が独りである事を実感すると共に心細さが生まれ染み広がる。
「……アディ」
さゆみは今にも泣きそうな顔でうつむいた。降り続ける雪がいやに冷たく感じ惨めな気分にさせる。今日は素敵なホワイトクリスマスのはずなのに。
「……今日はクリスマスでさゆみの誕生日。本来なら……」
さゆみと同じく街を歩くアデリーヌはちろりと自分の隣を寂しそうに一瞥した。本当ならさゆみが隣にいて楽しく賑やかなクリスマスの街を歩いているはずなのに。
「……どうしてあんな些細な事で喧嘩なんか……しかも仲直りのタイミングを計り損ねてこの日を迎えるなんて……」
アデリーヌは後悔の溜息を洩らした。互いに仲直りをしたいはずなのに上手く出来ず大切な今日という日にまで長引いている。
「さゆみは結構意地っ張りな所があって言いづらいはずだから……こちらから」
アデリーヌは恋人の性格を知るため自分から仲直りのきっかけにプレゼントを贈ろうと決めて外出したのだ。
「……これ、さゆみにとても似合うかもしれませんわね。二人で一個ずつ付けて」
ふとショーウィンドーに飾られている素敵なイヤリングが目に入った。さゆみの耳に輝く様を想像して笑みがこぼれるアデリーヌ。
「誕生日と仲直りのきっかけになるはずですわ」
アデリーヌは入店し、迷わず購入した。
購入後。
「……後は帰宅してさゆみに渡すだけですわ。さゆみが帰っていればいいですけど」
アデリーヌは黙って家を出て行くさゆみの後ろ姿を思い出し、少しだけ顔を曇らせた。
「……いつまでもこのままはいけませんわ」
アデリーヌはそう自分に言い聞かせ、いつも利用している交通機関へと急いだ。
しかし、
「……こんな事は……滅多にない事なのにどうして」
事故があり不通となっていた。
「タクシーを拾って帰るしかありませんわね」
アデリーヌは即座に行動。
タクシーを拾い、一刻も早く恋人の元に戻るために通りに出た。
通り。
「……」
通りに出たアデリーヌはタクシーを拾うのかと思いきやなぜか脇の通りが気になり、何かに導かれるかのように足を進めた。その何かがブラウニーの奇跡とは知る由もないが。
「……あれは」
アデリーヌは気になった通りの先で見つけた。今にも泣き出しそうな顔でうつむいている人物を。自分が贈り物を贈る相手、最愛の人。
「さゆみ」
頭で誰なのか認識するよりも早くアデリーヌはさゆみの元に駆けた。
「アディ!」
聞き覚えのある声にさゆみは勢いよく顔を上げ、こちらに来るアデリーヌを迎えた。
そして、
「ごめんなさい……意地を張ったりなんかして……ごめんね……アディ……喧嘩なんかしている暇なんて……ないのに……」
さゆみは安心から涙を流しつつアデリーヌに抱き付いた。アデリーヌは黙ってさゆみの言葉を聞き、返事の代わりに抱き締めた。
二人はしばらくの間そのままだった。
その後、無事に仲直りをした二人の耳には一個ずつ付けたアデリーヌが購入したイヤリングが輝いていた。
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