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ブラウニー達のサンタクロース業2023

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ブラウニー達のサンタクロース業2023
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リアクション

 夜、レーン家。

 ペトラが遊びに行った後、
「ああ、アルクにシルフィア。私今日はちょっと出かけてくるから。ペトラも出掛けて丁度二人きりになるんだからうまくやんなさいよ。ちなみに私も朝まで帰って来ないかもしれないから……そんじゃね」
 エメリアーヌ・エメラルダ(えめりあーぬ・えめらるだ)は何か言葉を挟まれる前にそう言ってさっさと出掛けてしまった。
 残されたのは、
「今夜は二人だけになりそうね。ゆっくりと過ごそうね」
「そうだな」
 シルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)だった。
「さて、折角だし私も少しばかり気合を入れて料理をするとするかね」
 アルクラントは恋人と二人きりという事で自然と気合いが入る。
「アル君のクリスマスご飯かぁ。期待すごくしちゃう」
 シルフィアは料理を目にする前から期待大。何せ、『調理』を有しているため食べなくとも美味しいのは予想済み。さらに腕を振るうとなると自ずと期待値も上がるというもの。しかも自分達だけとなるとムードも最高。
「存分にしてくれ」
 大いなる期待を背負いアルクラントは料理をするべく台所に立った。料理下手なシルフィアは食器を並べたりと料理以外で手伝いに精を出した。

 アルクラントが最後の料理を作成している時、来客の知らせが入った。
「……あれ、お客さんみたいね。誰かしら?」
 シルフィアは小首を傾げた。なぜなら、本日来客の予定は無いからだ。
「悪いが、シルフィア頼む」
「分かったわ」
 調理で動けぬアルクラントに代わりシルフィアが玄関へ来客の確認に向かった。
 その間にアルクラントは料理を完成させ、テーブルに並べた。

「アル君、お客さん! 何かアル君の知り合いでアシュトールさんっていう人なんだけど」
 シルフィアが客を上げるかどうか確認するために玄関から戻って来た。
「……アシュトールだと……?」
 来客の名を聞いた途端、アルクラントの表情が懐疑的なものに変化した。
 その変化にただ事ではない物を感じたシルフィアは
「どうかした? 帰って貰った方がいい? いい人そうな感じだったけど」
 恐る恐る訊ねた。
「いや、上がって貰ってくれ」
 アルクラントは表情を元に戻し、来客を招き入れる旨を伝えた。
「分かった」
 シルフィアは待たせている客の元へと急いだ。
「…………一体、どういう事だ」
 アルクラントは来客の分を準備しながら不審に満ちたつぶやきを洩らしていた。アシュトールという名に何かあるのは明らかであった。

「アル君、連れて来たよ!」
 シルフィアはすぐに来客を連れて戻って来た。
「よー、アルク。元気してるか?」
 シルフィアの後ろからひょっこり片手を上げて挨拶する客が姿を現した。
「見ての通り、上手くやってるよ」
 アルクラントは一瞬だけ驚きを見せたかと思ったら笑みを浮かべ再会を喜んだ。
「だろうな。こんな美人を捕まえるとはお前も隅に置けないな。出て来た時は驚いたぜ」
 アシュトールはシルフィアを横目にニヤニヤとアルクラントをからかった。
「やだ、美人だなんて……それほどでも、あるけど、なんちゃって」
 シルフィアは可愛らしい反応。褒められて喜ばない女子はいない。
「……おいおい。とりあえず、座ったらどうだい?」
 この場で困っているのはアルクラントだけ。これ以上友人のからかいに付き合えないとばかりに適当な席を勧めた。
「あぁ、しかし、悪かったな。今夜は二人で楽しむつもりだったんだろ?」
 アシュトールは申し訳なさそうに言った。誰がどう見ても分かる。アルクラント達が恋人とのクリスマスを過ごそうとした事、自分が邪魔になっている事は。
「……気にするな。こういうイベントは人数が多い方が楽しいものさ」
「そうだよ。それより、二人はお友達?」
 と言うアルクラントとシルフィアによってアシュトールはこのまま参加する事に。
「そこまで言うなら……あぁ、アルクとは地球にいた頃からのな」
 席に着きながらシルフィアの質問に答えた。
「最後に会ったのは私がパラミタに来る1月前だったか。となると2年ぶりになるか」
「それぐらいになるか……おい、アルク。あの物凄く見覚えがあるコートはもしかして……」
 振り返るアルクラントに適当にうなずくアシュトールは友人のコートを発見した。その顔に多少の驚きがあった。
「そうだ。あの後貰った君の物だ。サイズが丁度だったんでね」
 アルクラントは感慨深そうにコートを見ながら事情を話した。
「……そうか。と、折角来たからには楽しませて貰うか。特別な日を無駄にするのはもったいからな」
 アシュトールはしんみりしたかと思いきや明るい表情で場を和ませた。アシュトールには今日を無駄にしたくない理由があったから。
 ずっと二人の話を静かに聞いていたシルフィアが
「あの、良かったら昔の話とか聞かせて欲しいなぁ。アル君、昔の話とかあまりしてくれないから」
 アシュトールに話しかけた。友人なら自分の知らない恋人の姿を知っているのではと興味津々。
「いいぜ」
 アシュトールはシルフィアのリクエストに応え、料理を楽しみながらあれこれと語り出した。時々、アルクラントやシルフィアが言葉を挟み賑やかであった。
 長々とした思い出話が終わると
「で、そっちはどうなんだ?」
 次はアルクラント達の番。
「あぁ、あれから色々あって」
 アルクラントはパラミタに来てからの出来事を語った。当然、シルフィアとの事も含まれていたり。
 聞いたアシュトールの感想は
「おいおい、色々って幸せ満喫じゃねぇか」
 呆れと羨望を含んだものだった。
「そうやって存分に羨ましがるがいいさ。約束を破ったお前にそれ位の意趣返しはしてもいいだろう?」
 アルクラントは喉を潤しながら口元に軽くからかいを浮かべた。
「意趣返しか、性格わりぃな」
 アシュトールはやってられないとばかりに溜息を吐いた。
「言いたくもなるさ。ここに来るまでは……君に引っ張られてばかりだったからな」
 アルクラントはアシュトールとの思い出を昨日の事のように思い出し、口元に少し嫌味を含んだ笑み。
「……ったく。でも安心したよ。お前はちゃんと俺のやれない事をやって……やっぱお前はお前の道を行くべきだったんだな。というか、やっぱり正解だったろ? 俺がパラミタに誘ったのは。まぁ、俺は行けなかったけどさ」
 アシュトールは先程とは打って変わりアルクラントを気に掛ける友の顔に。
「……確かにな」
 アルクラントが発したのはその一言だけ。相手にはそれで十分。
「さぁてと、安心もした所でぼちぼち帰るわ」
 アシュトールはここに来た目的、友人の顔を見るを達成した所で椅子から立ち上がった。
「もう行くのか?」
「もっとゆっくりしていけばいいのに……」
 アルクラントとシルフィアは引き止めた。まだクリスマスは終わっていない。
「あぁ、これ以上長居しちゃ、悪いからな」
 アシュトールはお邪魔虫は退散とばかりに軽く笑みを浮かべた。
 アシュトールを引き止める事は出来ないと知ったアルクラント達は玄関先で別れる事にした。

 玄関。

「今日は楽しかった。またいつか会おうぜ、相棒」
「あぁ、その時はもっと沢山の素敵な話をしよう……いつか、また」
 アシュトールとアルクラントは惜しみのない気持ちの良い別れを交わす。
「またお話を聞かせてくださいねー」
 シルフィアは笑顔で別れの挨拶を口にする。
 アシュトールはシルフィアに顔を向け
「アルクの事もこれからも頼むな」
 いやに真剣な表情で友の事を頼むのだった。
「えぇ、アシュトールさんも元気で(アル君を心配してとてもいいお友達ね)」
 シルフィアは返答しながら内心では二人の友情に笑んでいた。二人の間に辛い現実があるとも知らず。
 アシュトールは二人に背を向け、ゆっくりと去った。

 アシュトールが去った後。
 玄関から部屋に戻るなり
「今日は賑やかなクリスマスになったね」
 シルフィアは思いがけない来客と過ごした時間を思い出し、にこにこしていた。二人で過ごすのもいいがやっぱり賑やかなクリスマスもいいものと言わんばかりに。
「……シルフィア、実はあのコートはあいつの形見分けなんだ」
 アルクラントはコートに視線を向けつつ唐突に言った。
「……形見分けって、亡くなった人の……それじゃ……でも」
 シルフィアはアルクラントの言葉に驚き、目を見開いき、先程の事を思い出す。どう見ても幽霊ではなく生者に見え、信じられなかった。
「来たのが本物かどうかは分からないが、気持ちのいいあいつに似ていた」
 アルクラントが友人の顔を見て一瞬驚いたのがこの事である。外見だけではなく中身も自分が知る友人だったが、彼が故人である事も確かで本物とは言い切れなかったり。ブラウニーの奇跡で呼ばれた本人とは知る由もないので。
「……パラミタに来られなかったって言っていたのは」
 シルフィアはようやく納得した。
「そうだ。私がここに来る1月前に事故で死んだんだ」
 コートに眼差しを向けつつアルクラントは思い出していた。アシュトールが亡くなった時の事、コートを形見分けとして貰った時の事を。
「……事故でって……約束を破ったって……」
 シルフィアは信じられないと驚きのまま。
「その通りさ。 一緒にパラミタに行って名を上げようなんて誘った本人が約束を破りやがったんだ……今日は、会えて良かったよ」
 アルクラントは先程まで友人が座っていた席に視線を向けながら続けた。そこに悲しみや辛さはなかった。再会出来た事によるのかもしれない。
「……(……アル君、辛くはなさそうで……むしろ元気になったみたいで良かった)」
 語るアルクラントの様子に耳を傾けるシルフィアはほっとしていた。辛い顔を見るのはこちらも辛くて堪らないから。
「さて、賑やかな奴が行った所でどうするかな」
 再び二人だけになった室内を見回した。
 そんなアルクラントの様子を眺めていたシルフィアは
「それなら続きをしましょ。ほら、アル君の親友に、乾杯! ってね」
 まだ中身が残っているグラスを片手に笑いかけた。
「……ありがとう」
 アルクラントはそっと自分のグラスを取った。
 そして、
「乾杯!」
 アルクラントが亡き友と再会出来たクリスマスを祝った。