First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
Next Last
リアクション
【痛みと共に伝わる想い】
その場所は草木が生い茂り、鳥や動物たちの鳴き声が響いていた。その鳴き声を聞きながらいつも思う。
(あいつなら、どの鳴き声がどんな動物か、分かるのかな)
自分は動物についてあまり詳しくない。だからもしもここにいたのなら、教えてくれるだろうか、と。
「なぁ、お前はどう思う?」
生い茂った木々を抜けた先にある、不自然に開けられた空間。他よりも地面が高くなっている――いわゆる丘の上に、友はいた。
冷たく硬い石に刻まれた名前を指でなぞる。冷たいはずなのに、懐かしい、温かい感じがした。
あの柔らかな毛並みの感触が思い起こされ、泣き叫びそうになるのをぐっとこらえた。今日は友に甘えに来たわけではなかったから。ぐっと、ぐっとこらえて言葉を紡ぐ。
「明日からあいつと……あいつらと旅行に行くんだ。それで」
それで。
ぎゅっと、いつの間にか握っていた拳が痛みを伝えてくる。爪が手の平に刺さっている。
痛い。
痛い痛い痛い。痛いけれど、どれだけ念じても力を緩めることはできなくて、諦める。
痛みを諦める代わりに、友へ告げた。
「もう……今回で最後にしようと思う」
***
深い森を、その入口でじっと見つめている男がいた。ドブーツ・ライキの秘書だ。……彼はほとんどドブーツの傍にいる。少なくともブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が知っている彼は、いつもドブーツの傍に控えていた。
一人佇む背中をしばし珍しげに見てから、声をかける。
「メソド、すまない。遅れた」
秘書、メソド。アンラ・メソドは、ブルーズと黒崎 天音(くろさき・あまね)の姿を確認し、微笑を浮かべながら綺麗にお辞儀をした。
「いえ。私の方こそこのような場所まで来ていただいて申し訳ありません」
ここはドブーツの私有地で、森以外には何も無い場所。天音はそれこそ気にしないで欲しい、と告げた。
「僕がいいだいたことだから」
天音は微笑み、森を見た。メソドは何も言わなかったが、この先に彼が。彼らがいるのだろうと察せられた。わざわざメソドがそんな時を選んだのは、おそらく彼の傍にいないのがこの時しかないからだろう。
「……ああ、そうでした。こちらです」
「いつもすまないな」
「いえ。こちらこそお世話になっておりますから」
メソドが懐から取り出した輪っかを天音が受け取る。ブルーズとメソドが会話している中、天音は意識を集中させた。
輪っか――犬の首輪に向けて。
しばらくそうしていた天音の身体が、大きく揺れ動いた。誰かに殴られたかのような。電撃を浴びたかのような衝撃が彼の身に襲い掛かっていた。
「っ、大丈夫か?」
「……こういう事があるから、サイコメトリはあまり好きじゃないな」
身体を支えてくれたブルーズに礼を述べてから、天音はそっと首輪をなでた。
甲高い声が、彼の名を呼ぶのを、天音は聞いた。
「そうか。君の名前は……」
First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
Next Last