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君と妖精と銀世界

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「あ、そっちは行っちゃダメ!!」
 学校の隣に生えているオークの巨木。その樹上に建てられたこども園から、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)の声が聞こえてくる。
「ウッドデッキは雪がつもっていて、落っこちるから出ちゃいけないからね!!」
 年少の妖精たちに注意している彼女も、見た目はとても幼く見える。傍から見たその姿は、さながら子どもたちのリーダーと言ったところだろうか。
 少しだけ木の香りがする室内は、薪ストーブでほんのりと暖められている。
 ネージュはあらかじめ用意していたゆずシロップやハーブシロップをお湯に溶かして、休憩用のホットドリンクを作っているところだった。甘くてホッとするような飲み物は、子どもたちにもウケが良いだろう。
 一方、大人やちょっぴり渋い嗜好の子ども向けには、湯浅 忍(ゆあさ・しのぶ)が温かいお茶を用意していた。
「寒さでちょっぴりブルブルってときも、学校のお手洗いが使いにくいって子はこっちに来てね!」というネージュの言葉のためなのか、こども園の周りは妖精たちで賑わっている。その中でたまに木登りに苦労している子どもがいると、忍がひょいと身体を持ちあげてやるのだった。
「よっ、と。ほら、こっちだぞ」
 恐らくは集落の中央付近という立地も、休憩所となったこども園が盛況であることと無関係ではないだろう。 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は休憩所で温かいお菓子でも作ろうと、そのオークの樹に近づいていく。
「やめておきなさいって」
 しかしセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が追いすがるように、セレンの歩みを止めようとする。なぜなら彼女の料理の腕前はといえば、「教導団公認BC兵器」「ナラカ人殺し」「食物ブラクラ」「食糧安全保障の敵」「見た瞬間に自動的にモザイクがかかる」等々、数々の誇れぬ謂れを持つほどなのだ。
「いいから、いいから。全部この天才料理人セレンに任せておきなさい。なんたって私の料理は食べた人が気絶するほど美味しいんだから!」
「よりによって子どもたちが気絶しちゃったらマズいでしょ」
 恋人が食物テロを起こさずに済むよう、セレアナは冷静かつ懸命に説得を試みる。
「うーん、それもそうだけど……でも美味しくて気を失うなら本望じゃない」
「全然本望じゃないでしょ。いいからほら、雪像作りにしておきなさいって」
 言いながら、セレアナは少し強引にセレンの腕を引いてこども園から遠ざかる。そうして引きずられたまま、セレンはなおも料理がしたいと駄々を捏ねたが、セレアナは全く聞く耳を持たなかった。
「何だったんだアレ……」
 その様子を樹上から見ていた忍は、よく分からないといった表情で溜息を吐いた。