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「なんだぁ、村の中でも雪は取れるわよ」
 リトの話を聞くと、ルカルカはそう言って笑った。
「今からでも沢山雪をとってさ、カイをビックリさせてやらない?」
学校を出て集落の隅の方へやって来ると、彼女はリトにパートナーの夏侯 淵(かこう・えん)を紹介する。外見だけの話をすれば、淵はリトより小柄で幼く見えた。
「まずは自己紹介をするか。俺は子供ではない、女の子でもない、そこは訂正するぞ。それに男の娘でもない……ぞ」
 そうは言うものの、淵の見た目はとても可愛らしい。
 さて、ルカルカの雪降らし作戦の概要はこうだった。まず空に向かって水銃をバンバン撃つ。すると水が大量に落ちてくるので、スキルを使って水温を氷点まで下げる。次いで【ホワイトアウト】で吹雪を起こし、出来上がった雪を会場に配達。残りの雪は【雪使い】の技で会場周辺に降らせる。なお、配達には「サンタのトナカイ」を使うことにしていた。
 早速リトは指示通りに水銃を放つ。落ちて来た雫はルカルカと淵のスキルによって急速に冷やされ、もはや水でなくなる。その様が面白かったのに加え、自分でも手伝いが出来るという高揚感から、リトは夢中になって水銃を撃ち続けた。
 だが、それがまずかった。
 リトが作業に没頭すればするほど、周囲の気温が下がっていく。そうとは気付かないまま彼女は周りの熱を奪い、空気を凍らせ始めた。水銃から放たれた雫も、リトの寒気に触れると瞬時に凍てついてしまう。
 異変に気付いたルカルカが作業を中止しなければ、どうなっていたか分からない。そういえば洞窟の奥に居たときにも、同じような冷気を感じた気がする。
「ごめんなさい……」
 無意識だったとはいえ、自分の過失で雪降らしが中断されてしまったことに、リトはひどく落ち込んだ。
「大丈夫! もう結構雪も集まったわよ。そろそろこれを広場の方に持って行きましょ」
 二台あるうち片方のトナカイソリにはルカルカが、もう片方にはリトが乗り込む。淵はリトの隣で操縦の指導をすることにした。風は冷たいが、空の散歩はなかなか気持ちが良い。
「リトはスキーはできるか?」
 雪の運搬を終えると、次は遊びの時間だ。リトも木の板を足裏につけて滑る遊びはしたことがあるが、本格的なスキーは初めてである。しかしルカルカに教えて貰いながら滑るうちに、大分上達した。これも転ばないように淵が掛けてくれた【幸運のおまじない】のおかげだろうが、もともとリトはハーヴィと異なり、そこそこの運動神経の持ち主であるらしかった。
「楽しかったな。俺もちょくちょく村に遊びにきてもよいか?」
 淵が問うと、リトはほんの少しだけ微笑んで「うん」と頷いた。
 彼らがスキーに興じていると、そこに洞窟から帰って来たダリルが合流して、手にしたホットチョコレートを差し出す。
「体調はどうだ?」
 機晶医師らしくリトの問診をしてから、ダリルは機晶音叉を取り出して調律を行う。特に異常はなさそうだ。
「リトはこの村が好きか?」
「え……?」
 前置きのない質問に、リトは小首を傾げてダリルを見た。そういえば、今日はこういった話題を振って来る人が多い気がする。
「……ハーヴィが頑張って作ったところだし、優しい人も多いから……好き、かな」
「じゃあ、この村にずっと住んでいたいか?」
「……村は私にとって、新しい場所だから……だから、よく分からない。でも、ハーヴィたちと離れるのは嫌だし、この森を追い出されたら私、他に行くところが無いから……」
 少し顔を曇らせて、リトはそう答えた。
 その時、ダリルから視線を外したリトの瞳に、三つ編みお下げの雪像が映った。デフォルメされたために大分等身は下げられている上まだ未完成のようだが、あの造形は間違いない。
 リトはルカルカたちに一言断りを入れてから、広場でその雪像を作っているグループの傍へ行ってみることにした。それは自警団のメンバーたちであった。
 夜月はリトの姿に気が付くと、「ぜひご一緒に」と言ってハーヴィの雪像作りに誘う。団員の妖精たちとゲストの雪女さん――雪が足りなくなった場合に備えて夜月に連れて来られていた――にも快く迎えられて、リトは照れくさそうに笑った。


 宿泊施設の名を「スミレの宿」に決めてしまってから、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はパートナーのコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)と共にゆっくりと温泉を堪能していた。ちなみに、この温泉には「水仙の湯」と命名してある。
 温泉からは雪化粧した木々なども見ることができ、なかなかに風流であった。湯船にはお盆が浮かび、その上には熱燗らしきものまで乗せられている。
「温泉にサウナとか、マダマダ作りたいものが有るであります」
 吹雪はお湯の質感を確かめながら言う。
「そしてマダマダ『秘密の何か』も作りたいでありますね」
「だから余計な物作ろうとしないの!」
 コルセアのツッコミは、今日も無駄がなく的確である。だが、吹雪の一々他人を気にしないスタイルもいつものごとくといった感じであった。
「そういえば例の『煌めきの災禍』の件でありますが、どうなるのでありますかね?」 
 湯煙りは白く立ち昇り、寒空の中へと消えていく。
「離れた場所に隠れ家やシェルターを作っても、場所が知られて襲撃を受ければ助けが間に合わないかも知れないであります……ならばいっそのこと、族長宅の地下にでもシェルターを作って、皆で守れるようにしてもいいかもしれないであります」
 珍しく筋道を立てて真面目な話をした吹雪だったのだが。
「すでに集落の地下には地下室やら地下通路が出来てることでありますし」
「あんたが勝手に作ったんでしょうが!!」
 最後の一言に、やはり強烈なツッコミを入れられたのであった。