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「ところで、これくらいの大きさの毛玉を見かけなかった?」
「お前達は本当に暇だな」
 訪ねて来たリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の問いに、巨人アルゴスは言った。
 だがその言葉に棘はなく、呆れているのか、飽きられているのかは解らないが、とりあえず諦められてはいるようだ。
「失礼ね、私はそれほど暇じゃないわよ。
 ただ、フィス姉さんを野放しに出来ないじゃない。特にアルゴス君のところに行くって時に。
 むしろ感謝して欲しいくらいなんだけど」
 リカインの言葉に、アルゴスは、傍らのシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)を見て、納得したように頷いた。
「そうだな」
「そうじゃない!」
 シルフィスティが肩を怒らせる。
「仕方がないでしょ。
 フィスは探求の人なの。謎の答えがここにあるのに、放っておけるわけがないでしょ。
 対巨体。それを極めるのがフィスの使命なのよ」
 じろ、とシルフィスティはアルゴスを見上げる。
 対巨体というよりは、フィスが嫌う本当の相手はイコンなのだが。
「大体ね、フィスの攻撃を殺気で躱せるのはまだ解るとして、遠距離からの背後攻撃を難なく防いでいたのはどういうことなの?」
「お前は、易々と己の手札を晒すのか」
「うぐっ……いいじゃないそれくらい教えてくれても。
 言わないなら喉に手を突っ込んで吐き出させるわよ。鼻からでもいいけど」
 その言葉に、アルゴスは心底嫌そうな顔をする。
 表情も豊かになったわよね、と、のんびりそれを眺めながら、リカインは思った。
 面会の申請を出した時も、すっかり馴染みとなった監視の騎士と、少し世間話をしたのだが、普段は淡々としているアルゴスが、自分達が来ると、少し機嫌がいいという。
 慣れって怖い、と正直リカインは思ったが、アルゴスにしか興味の無いシルフィスティは、そんな騎士の話は聞いていなかった。
「確かに貴方の身体ってすごく硬いけど。人間の剣なんて簡単には通らなそうよね」
 シルフィスティは近くにあるアルゴスの脛を拳で叩いてみるが、まるで生き物の皮膚という感じがしない。
 生半可な攻撃では、痛くもないのだろう。
「まあ、隠すほどのことではないから言うが。魔法防御もしていたからな」
「魔法防御!?」
「気付いていなかったのかという感じだ」
 ふん、とアルゴスは笑った。
 確かに、彼はイコンとの戦いで、火炎球を放っていた。彼は魔法も使えるのだ。
「ずっるい!」
「何がだ」
「フィス姉さんて、本当アルゴス君が好きよね……」
 そんな二人のやりとりを眺めるリカインが、ふっと遠い目をして呟いた言葉に、シルフィスティは驚いて振り返った。
「ちょっと、怖い冗談はやめてよ!」
「ねえところでアルゴス君、あの事件より前って、そのでかい図体で一体何処で何してたの?」
 シルフィスティをスルーして、リカインはアルゴスに訊ねる。
「主にエリュシオンやコンロンにいた。
 別に隠れてはいなかったが、敢えて人と同じ所にいる必要もなかった」
 世界には、人が未踏な場所の方が多いのだ。
 更に、滅亡した国であるシャンバラで、探している仲間を見つけられる可能性は低かった。
 それでも、千年以上前に訪れてみて、その時に、オリヴィエ博士と出会ったのだという。
 成程ね、とリカインは頷く。
 そして再び始まるシルフィスティとアルゴスのやりとりを耳半分に聞きながら、ふと呟いた。
「……それにしても、何処に行ったのかしら……」

 ケセラン・パサラン(けせらん・ぱさらん)の行方は杳として不明である。




―――――――――――――――――――――――――――――――――― 本日のご挨拶