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 三倍返しを期待しているわよ、と言って渡したら、トオルは、「質で? 量で?」と訊ねてきた。
「勿論、質に決まっているでしょ」
 ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)は笑顔で即答する。
「バレンタインは、先行投資のイベントなのよ」
「ちぇー。一瞬すげえ喜んだのに」
 トオルは苦笑したが、
「ま、いいや。それは来月考えるとして、今はニキ姐の手作りチョコを堪能することにしよっと」
と、礼を言った。
 ニキータは、ヨシュアにも、似たようなメッセージをつけてヨシュアにもチョコを送っていた。
 パートナーと一緒に作った、ミルク、ビター、ストロベリー、ホワイトの、四色の一口サイズのハート型チョコの詰め合わせ。
 どんな反応をするか、楽しみだ。

「さて、後は……」
 チョコを、半ば強引に配り歩いて、渡したい相手は、あと一人となった。
「あら」
 アルベリッヒ・サー・ヴァレンシュタインの姿を見かける。
「ハァイ」
 呼び止めたアルベリッヒにチョコを渡すと、彼は怪訝そうな顔をした。
「何の下心ですか?」
 ふふ、とニキータは微笑む。
「あたしの、この熱い想いを受け取ってくれるイイ男を、絶賛探してるところよ!」
「目がギラギラしてて本気っぽくて怖いんですが」
 引き気味のアルベリッヒに、ニキータはすぐに元に戻って肩を竦めた。
「今日までに、都築中佐が戻って来たらと思って作っておいたんだけど、まだみたいなのよね。
 どんな任務なのかしら、何か知ってる?」
 世間話ついでに訊ねてみれば、そのことか、というような表情になる。
「何か心当たりが?」
「いいえ。私にそちらの事情が知らされるわけはないでしょう。
 ですが、ながそね中佐に、彼の義手の具合を訊いた時、返答がなく、難しい顔をしていたので」
 何かあったのか、と。
「…………」
「あくまでも、私の単なる予測ですが」
 ニキータは思案にくれる。
 何か、思わしくない方にことが進んでいるのだろうか。
 それでは、と歩いて行こうとするアルベリッヒに、ニキータは顔を上げた。
「別にそれ、余り物じゃなくて、ちゃんとあなたの分だから。
 あたしのイイ男になるつもりがないのなら、三倍返しでよろしくね」
 引きつった表情になるアルベリッヒに、ニキータはくすくすと笑いかけた。




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