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百合園女学院の進路相談会

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百合園女学院の進路相談会
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 レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)は入って来るなり、
「お姉様。結婚してください。ポッ」
 ――頬を赤らめた。
「……は?」
「雪山で一夜を共にした仲ですもの……お姉様のおみ足、そして身を寄せ合って過ごした熱い夜……」
 進路相談だろうが何だろうが、早速妄想を爆発させているレオーナに、アナスタシアは思わず叫んで否定する。
「ひ、人聞きの悪いことを言わないでくださいませ! 皆さんと、一緒に、遭難で暖を取るため、仕方なしに、ですわ!」
 レオーナの背後でいたたまれそうにしているクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)の存在だけが百合空間へと変わった相談室を現実へと押しとどめていた。
 握ろうとしてくる魔手を回避し、アナスタシアはレオーナをソファに何とか座らせた。
「とにかく、今は進路相談の時間ですわ! た、確か個性が欲しいというお話だったようですけれど……」
「そうなんです」
 レオーナは濡れてもいない目元をハンカチで押さえた。
「まだまだ個性が足りないあたし。このままでは尻すぼみ的に終盤を迎えるのではないかと毎日不安で……お姉様の特別になりたい! 尻はすぼむより……おっと。
 ……だから! 個性を! お姉さま方の記憶に残る個性を! それが進路、進むべき道です!」
 泣き真似なんてどこへやら、レオーナは拳をぐっと握りしめて力説する。
「今のままでは来年の今頃には、<あの芸人は、今……>的な番組のオファーが来ることすらないレベルで忘れ去られているのではないか。
そう……あたかもあたしの存在は最初から無かったかのように!」
 今度は白目になっておののくレオーナ。もはやアナスタシアは彼女の独壇場を聞いていることしかできない。
「……やはり両手をロケットパンチやドリルに改造……」
 レオーナがそれ以上言う前に、クレアがわざとらしい咳をする。
「ごほんごほんっ! レオーナ様、落ち着いてください」
 パートナーを諌めつつ、口には出せないので眼力でアナスタシアに訴える。
(ただひたすら何事もなく平穏の日常ッ!! そのためにはレオーナ様にまともな人間になって欲しいッ!!!)
 アナスタシアはクレアの必死さに気圧されたように僅かにのけぞった。
(もしも口にした日には、あの長大極太なゴボウを突き刺されそうで……そんなことされて「アッー!」とか言ってしまった日には、私の清楚キャラが崩れてしまう……!)
 アナスタシアがそんな必死の願いが込められた眼力に気圧されていると、めげないレオーナがぽんと手を打った。
「……おっといけない、本題を忘れるところだったわ。とにかく新しい個性よ!
 ゴボウの代わりにネギとか、百合の代わりにGLとか……何か新しい良い個性を教えて欲しいの!」
「……新しい個性ですのね……」
 アナスタシアは考え込むと、席を外して廊下に何か声を掛けた。少しして、春佳から受け取ったのは一冊の植物図鑑だった。視線を逸らせる対象が一つ増えたことにより気持ちに余裕ができたのか、パラパラとページを繰るとひた、とレオーナを見据える。
「……レオーナさん。……ゴボウというのは、何故選びましたの?」
「え?」
「私には、これは適当とは思えませんの。レオーナさんはゴボウを武器にもされてますわよね? 偶然の出会い、それをモノにされたのはレオーナさんが何かしら、意味を見出したからですわ。
 たとえば……ある日のこと、レオーナさんが森を歩いていると、泉にそのゴボウを落としてしまった。すると泉の中から女神さまが現れて、両手に一本ずつゴボウを持っていた。
 金のゴボウ、銀のゴボウ、どちらがあなたの落としたゴボウですか?」
「それは勿論、お姉さまとの出会いが落ちてたのですわ! と、女神さまに飛びつきます」
「……。……それで金のゴボウと銀のゴボウどちらを選びますの?」
「それは、金や銀だと突き刺せないので普通のゴボウを……」
 もごもごと答えるレオーナに、アナスタシアはびしっと指を突きつけた。
「それですわ! 普段のゴボウが好き。金のゴボウも銀のゴボウも、もうゴボウではないのですわ。ゴボウにもネギにも薬効がありますけれど、もし最初にゴボウを選んだのなら何か感じるものがあるはずですわ。金のゴボウも銀のゴボウもゴボウとして扱えるだけの技量を……まずはゴボウを極めてからでも遅くはありませんわよ!」
 三人とも何を言っているのか、もう自分たちでもわけのわからない状態のまま……相談の時間は過ぎて行った。