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特別なレシピで作製された魔法薬

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特別なレシピで作製された魔法薬

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 妖怪の山前。

「フレンディス達は友愛会の方で動いているみたいだな。ポチの助の協力も得られた今情報収集やまとめが楽になる」
 つい先程、ポチの助からの連絡を受け腕輪型HC犬式で自分は現場にはいないが、情報面で協力するからというポチの助の言葉を受けたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)。ちなみにポチの助の家出については、家出先に下宿して勉強していると思っている。
「しかし、薬の礼もあるから来たが、あの特別なレシピの改良か。興味あるな。それに今後どう活用するかも気になる。どちらにしろ通常の物では手を入れる箇所は多そうだったが」
 グラキエスは依頼し受け取った魔力を消す薬の礼と黒亜作の魔法薬や今後の活用が気になるここに来ていた。前回依頼品の受け取りなど諸々の事で通常の魔法薬を見て知っていた。
「そうですね。しかし、記憶を指定して素材化する事が出来れば……(そうすれば私の”記録”もどうにか……)」
 同じく興味を持つロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)は記憶素材化薬についてあれこれ考えていた。手を入れたら一部データが破損した記録媒体が元になった自分の破損データの修復が出来るのではと。
「あれこれ考えるのはいいが、厄介事は増やすなよ、キープセイク。エンドロア、お前は大人しく手伝いをする。分かったな?」
 ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)はロアと体調の悪い時に当たったグラキエスを目的に引き戻した。
「……心配無い。体調が悪い時に無茶はしない」
 グラキエスは無茶はしないと言い張るが、
「それならいいが(注意はしとかねば)」
「そうですよ。無茶はしないで下さいね。さて、私も考えるのはやめて……」
 これまで無茶をするのに遭遇しているウルディカとロアは易々とグラキエスの言葉を信じはせず目を離さないようにせねばと心積もりをする。ロアは『根回し』で前回特別なレシピを見学した時にいくつか貰った解除薬を取り出した。
「あぁ、入る前にそれを飲んでからだったな」
 ウルディカのこの言葉で解除薬を服用後、山に入った。シンリを捜し合流して手伝いをするために。『捜索』を有するウルディカの力とこれまでシンリと関わった経験を使ってグラキエス達は捜索を開始した。

 捜索の道々。
「?」
 突然、グラキエスは足を止めて草むらに向かって首を傾げた。
「どうしました、エンド?」
 おかしな様子を見せるグラキエスに気付いたロアが何事かと訊ねた。
「向こうの草むらから何か聞き覚えのあるような声が聞こえて来た……確認して来る」
 グラキエスは草むらを指し示してロアに答えたと思ったら気になるのか確認しに行ってしまった。
 自分達からはぐれ興味のままに行ってしまうグラキエスに
「おい、待て(無茶はしないと言ったそばから無茶をしやがって)」
「確認は私達がしますから、エンドは……」
 ウルディカとロアの制止の声が飛ぶも相手には届かず、追いかける事に。
 草をかき分け
「エンドロア」
「エンド」
 ウルディカとロアはグラキエスの元へ辿り着いた。
 心配する二人に対して
「ほら、やっぱり聞き覚えのある声だった」
 グラキエスは以前宿で知り会った雄と雌のシーサーといた。当然二匹は素材まみれである。
「あぁ、以前両調薬会が参加した親睦会に現れたシーサーですか」
 ロアはグラキエスへの懐き具合から以前出会ったシーサー達だと分かり、有する『コンピューター』で素速く症状をノマド・タブレットに入力し情報収集役を務めた。
「被害を受けているな。早く解除薬を飲ませた方がいい」
 ウルディカは再会に喜ぶグラキエスにシーサー達の状態を指摘した。
「分かった。ほら、解除薬だ」
 グラキエスは急いで通常解除薬をシーサー達に飲ませ記憶素材化の進行を遅らせた。
「やはり、こちらの魔法薬に対応していないせいか、めざましい効果は見せませんね」
 ロアは通常解除薬使用後をノマド・タブレットに入力。
「進行は遅れているからしばらくは心配無いはずだ……そう言えば、ポチの助とも仲が良かったな。心配しているかもしれない」
 グラキエスはポチの助もシーサー達と仲良くしていた事を思い出し、連絡を入れた。
 すぐにポチの助に繋がり
『グラキエスさんですか。何かありましたか?』
「シーサーに会った」
『会ったのですか。どうしてるのですか? これは別に心配している訳ではないのですよ』
 シーサーの状況を伝えたついでに
「記憶の素材化はしていたが、解除薬を飲ませたから心配無い。ほら」
 ポチの助にシーサーの声を聞かせたりする。
『……元気みたいですね。これは無事を確認しただけなのですよ』
「あぁ、分かっている」
 ツン気味のポチの助とツンの中にある優しさを知るグラキエスの会話はここで終わった。
 そして、付近にいた避難途中の妖怪に二匹を託してグラキエス達はシンリの捜索に戻り、すぐに発見する事が出来た。

 再会後。
「あれからどうだい?」
 シンリは依頼品を渡してからのグラキエス達の案配を訊ねた。
「それが、肉体の衰弱が進行し魔力がなければ短時間で生命活動が停止しそうな勢いなのでまだ使えずにいます。しかし、一応魔力に関しては解決策が見えた点においてはひとまず安心です。今後は合法非合法問わず肉体面や機能を復活、強化させる医薬的な面での活動を予定しています」
 代表としてロアが自分達の状況を説明した。
「……それは大変だね」
 シンリはグラキエスの方に顔を向け、励ましの言葉を三人にかけた。
「あぁ、問題は山積みという訳だ。そのため今後ともそちらと交流出来ればと思っている」
 と、ウルディカ。調薬探求会の方が非合法な魔法薬が入手可能なため友愛会ではなくこちらと親しくしようと考えているのだ。
「……ただの依頼者と請負という関係ではなくという事かな」
 シンリは二人の口振りからこれまでとは違うと察した。
「そうですね。以前にお話したかもしれませんがこちらには抜き差しならぬ事情がありまして……」
 ロアは魔力により蝕まれ、同時にその魔力で生命維持するグラキエスの事情、特異な被験者の実験検証を行える事、探求会の事を承知しているので問題になりにくい事、契約者で危険な場所、危険な生物の素材やデータ収集も可能である事を伝えて『説得』を試みた。
「……今後ともよろしく」
 シンリはあっさりとロア達と友好を結んだ。なぜなら依頼を通して何度も交流が有りグラキエス達が友好を結ぶに値する者達だと知っている上に他のメンバーもその気持ちが同じであるためだ。
「ありがとうござます。今回は作って頂いた薬の礼にと協力しに来ました」
 友好を結んでくれた事に安堵し、改めてロアは作ってくれた魔法薬の礼を話題にした。
「前にも礼はいらないと、貴重なレシピを調薬出来た事がこちらにとっての礼だと言った思うけど」
 シンリは穏やかな笑みで断った。
「それではこちらの気が済みませんので」
 引かぬロアに
「そっか。それならありがたく頂くよ」
 シンリは相手の厚意を無駄にしてはいけないと受け取った。
「ところで今後、特別なレシピはどう活用するんだ?」
 グラキエスが好奇心から特別なレシピの今後を訊ねた。
「そのまま活用はしないよ。改良しようと考えてる」
 シンリは警戒無くあっさりと答えた。
「改良、ですか」
 促すロアに
「素材化する記憶を写し取る形にして回収しても記憶は消えないようにして効率を上げようかなと。その他に時間経過で素材化した記憶が現れ消えるようにして今回のような解除薬云々の手間を省こうと思ってる」
 シンリは現在考えている改良について明かした。
「そうですか。記憶を指定したり破損した物を修復したりはどうでしょうか」
「それも面白そうだね」
 ロアは思わず自身の考えを口走るもシンリは興味深そうにしていた。
 そこに
「……一つ聞きたいが、この騒ぎを起こした者は……」
 気掛かりを抱くウルディカが会話に加わった。
「これだけの事をしたからね。おそらく囚われて調薬とは縁遠い事になるだろうな。大人しくはしないだろうけど」
 シンリは客観的に黒亜の今後について語った。仲間だからと庇う様子は一つもなかった。薄情という感じではなくむしろ冷静。
「そうなった場合、調薬に関する影響はどうなんだ?」
 ウルディカが危惧するのはこの騒ぎ後に調薬探求会が受ける影響である。
「君達も知っていると思うけど以前、二つになる時に彼女は両調薬会のメンバーを実験台にして騒ぎを起こした」
 シンリは以前妖怪宿で話に出た黒亜の事を口にした。
「確か負傷者だけで死者は出なかったとか」
 以前親睦会にて聞いた話の内容を思い出したロア。
「そう。元々多くのメンバーは彼女を敬遠していたけど、その事件でますますね。腕が良いから彼女をこちらに引き取ったんだけど……監督不行届かな。とにかく想定はしていたから影響については心配無いよ」
 ロアにうなずきシンリは想定内の今後を話すと同時に多少の責任を感じている様子であった。人道を優先するヨシノと対立はしているが話の分からない冷徹な人物ではないのだ。
「そうか」
「起こるべくして起こったという事ですか」
 ウルディカとロアは影響無しという事で安堵。
「特別なレシピの新たな改良か」
 グラキエスはシンリが口にした新たな改良が気になる様子であった。

 この後、ポチの助と情報交換をしたり救助者やイルミンスールで解除に挑む者達などから情報が入って来てグラキエスは『考古学』、『資料検索』でロアは『博識』とノマド・タブレットで情報を整理しまとめ、ウルディカは先を歩き被害者を捜索し症状の進行具合や花の様子を伝えグラキエス達にデータとしてまとめて貰い、シンリを手伝う。被害者の運搬は付近にいる者達に任せてひたすら情報収集をするのだった。
 しばらくして完璧な解除薬製作にシンリを必要とする者に捜し出され、宿に行く事となった。
 解除薬作製の際、グラキエス達が収集した情報は存分に活用されたという。