天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

特別なレシピで作製された魔法薬

リアクション公開中!

特別なレシピで作製された魔法薬

リアクション

 イルミンスールの街、風上。

 魔法中毒者確保が開始の知らせが入ってすぐ後。
「……風上のここなら多少大丈夫だとは思うけど。魔法薬は気体化して漂っているといううから少しは……」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は事情を知るやいなや解除薬を服用した後、人命救助のため動いていた。
「騒ぎが起きたと聞いて来てみればとんでもない事になってるねぇ」
 解除薬を服用済みの清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)が登場。
「……少々危険を感じますから漂っているのは正しいと思いますよ」
 『禁猟区』で警戒するクナイはすぐにこの場が少し汚染されている事を見抜いた。
「わずかだけど妙な匂いもするし。ただ粒子が小さいから普通のマスクじゃ役に立ちそうに無いけど」
 北都は、『超感覚』による鋭い嗅覚によりわずかな匂いを感知し『薬学』に照らし合わせて考えていたマスクで対応が無理だと知った。
「すぐ命に関わるという事はないそうですが、治療の場ではまずいでしょう」
 『医学』を有するクナイはここでの治療に警告を示した。
「……人には感知しにくいほどの匂いかぁ。ここが一番マシな所なんだけど」
 同じく『医学』を心得るローズは溜息を吐いた。他に比べて高台で風上という事でここが一番治療に適していると思ったのだが。
「ここが一番適した所なら風で魔法薬の粒子を人のいない方に吹き飛ばすよ。他を探す時間は無駄だから」
 北都は『風術』ですぐさま魔法薬の粒子を人の居ない所に吹き飛ばした。
 その後。
「助かったよ。後は、足りない分の解除薬と汚染された空気を清浄化しないと被害が拡大する。吹き飛ばしたからといって魔法薬が消える訳じゃないからね」
 治療場所を確保した所でローズは表情を引き締め、やるべき事を列挙。
「調薬と救助を手伝うよ。だから、被害拡大防止を頼むよ」
 元々、人命救助予定の北都は手伝いに名乗りを上げ、
「レシピと素材の方は大丈夫ですか?」
 クナイは必要道具が揃っているかを訊ねた。
「そこは大丈夫だよ。調薬探求会の方からレシピや素材とか完成している解除薬をあるだけ貰ったから。調薬友愛会にも声を掛けたから後で来るから大丈夫。調薬探求会は独自に被害者治療に行動するみたい」
 ローズは事情を聞いた途端、すぐさま人命救助に転じたのだ。少しでも迷えばそれだけ被害者増えるから。
「では問題は無いという事ですね」
 クナイはひとまず安心した。
 その時、
「ここが治療兼避難所だと聞いて来たんだけど。避難者を連れて来たわよ。受け入れは大丈夫?」
「汚染された空気の清浄や被害者の治療など諸々解決の見通しは立っているのかしら」
 セレンフィリティとセレアナが登場。ついでに避難者達も一緒だ。
「その事については問題無いよ。すぐに対応するから」
 ローズがすぐにセレンフィリティ達にこの先の方針を話し始めた。
 話を聞いた後。
「そういう事ね。それならあたし達は解除薬配布を中心にするわ。余分に貰った物は使い切ったから補充したいんだけど」
 と、セレンフィリティ。
「どうぞ。治療を終えたり解除薬が尽きた場合、速やかにここに被害者を連れて来て。解除薬の量産と空気清浄はなるべく早くするつもりだけど、その間にも被害者は増える一方だと思うから」
 ローズはセレンフィリティ達に大量の解除薬を手渡した。
「任せてちょうだい。行くわよ、セレアナ」
「えぇ、早くこの騒ぎを解決しなければね」
 セレンフィリティはセレアナを促し、人命救助に繰り出した。
 セレンフィリティ達と入れ違いに
「避難場所はここでよろしいでしょうか」
 治療済みだが目覚めぬ少年を背負ったフレンディスが多くの避難者と共に現れた。
「……ここで間違いありませんよ。そのまま寝かせておけばすぐに目覚めるでしょう」
 クナイが対応した。
「……これだけ被害が多いと犯人の中毒者も被害者になっているかもしれないねぇ。確か確保に向かっていると聞いたけど。中毒者がここに来たのはやっぱり昔自分が住んでいたあの遺跡があって懐かしくなってかなぁ」
 北都がここに来る途中で仕入れた情報を思い出した。一応犯人を気に掛けてはいたが別の者が動くとあって被害者に集中する事にしたのだ。
「はい。被害に遭っているのは確実です。治療が終わり、この騒ぎが解決したら今後こんな事が起きないように対処してくれればと思います」
 良心のヨシノは大層この騒ぎに胸を痛めている様子であった。
「……懐かしさ、か」
 ベルクは少々考え込んだ。そこに何か名も無き旅団についての手掛かりがあるのではと。
「だとしても記憶を素材にするなんて……嫌な薬だね。しかも何も知らない人を実験台にして多くの犠牲者を出している。これは許されない事だよ。だから皆で頑張ろう!」
 ローズは作業を始めながら対応を続ける。
「えぇ、本当にありがとうございます。その作業はもしかして……」
 ヨシノは協力に礼を言うと共にローズが何を生み出す作業をしているのか見抜いた。
「空気汚染を清浄にする魔法薬の作製中。錠剤の解除薬よりも効果を上げた物にしようと思っているんだけど」
 『薬学』を持つローズがてきぱきと作業をしながら答えた。
「魔法薬作製なら手伝うさ。ヨシノちゃんも手伝いたいさね?」
 マリナレーゼは協力を申し出ると共にヨシノが協力したがっているのも察した。
「えぇ、皆さんを助けるために出来る事があるなら……」
 ヨシノはこくりとうなずいた。これによってヨシノと『薬学』を持つマリナレーゼが調薬に参加。
「出来るまで時間が掛かるよな。空気が汚染されている限り解除薬で治療しても意味がねぇからなるべく早く頼むぜ」
「頑張って下さい。私は避難誘導の方をしますね」
 ベルクはこちらに流れて来る魔法薬の粒子を『風術』で吹き飛ばし、フレンディスは周辺で避難誘導を手伝う事に。北都は足りない分の解除薬製作を始めた。クナイはフレンディスが続ける避難誘導を手伝う。魔法中毒者確保の連絡が入ってすぐに魔法中毒者ミモラを連れたシリウス達が現れ、北都達は入れ替わりに人命救助に街の方へ。

 その後、彼女の協力を得ての空気清浄薬は完成し
「……無事に完成だね。あっ、怪我人。後の事は任せていい?」
 ローズはほっとするも魔法薬で意識喪失した際に怪我をした男性の相手のため後の事をマリナレーゼに託した。
「任せて構わないさ。後は街全てに行き渡るようにどこで使用するかだけさね。となるとここは……」
 マリナレーゼは今の問題を解決するに最適な人物を思いつきすぐに連絡を取った。
 相手は当然、
「ポチちゃんの出番さ。実は……」
 ポチの助。空気清浄薬の効果範囲や効果などを詳細に説明した後、街のどこで使用するべきかを腕時計型携帯電話で問うた。
『空気清浄ですか。もそこそこ揃っているのなら……』
 『防衛計画』を有するポチの助は街の構造を把握し地図をマリナレーゼに貸した端末に写しつつ適切な使用場所を指示した。
「ポチちゃん、ありがとう。早速、ポチちゃんの指示通り薬を使うさね」
 マリナレーゼは連絡を切った。
 その横ではシリウス達がもたらした情報を基に停止した推理を再開するベルクがいた。
「……記憶を集める旅か(集めるだけなのか集めて誰かかまたはどこかに渡したりするのか。集めるからには何かあるだろ。それに関わるのが近くて遠い目的地。しかし、集めた記憶がどんな形をしているのかも気になるな。やはり手記か、それとも別のものか)」
 集まった情報を頭の中で整理し推理するが答えは当然迷走中であった。

 マリナレーゼとポチの助の相談が終わるなりフレンディス達とヨシノは空気清浄薬散布を担当し、ローズはここで治療に専念する事にした。ちなみに先程の怪我人はローズの『ヒール』で無事に治療された。ミモラもここに残り入って来る改良薬の情報を基に打ち消す解除薬のレシピを製作していた。その情報はシリウス達が妖怪の山に連絡した。

 空気清浄薬散布時。
「まずはここか(しかし、中毒者の協力を得て作り上げるとはな)」
 ベルクは大きめの錠剤を地面に落としながらまさか追っていた中毒者の力を借りるとはと皮肉に思っていた。
「そうさね、それはベルちゃんに任せるさ。空気清浄薬は対象が空気で体内に入った物は対象外だから私達は被害者の治療をするさね」
 マリナレーゼは空気清浄をベルクに託し、自分達は周辺にいる被害者の元へ。
「はい。マリナさん」
「急ぎましょう」
 フレンディスとヨシノは解除薬を準備し、被害者の元へ急いだ。
「早速、効果を見せて貰おうか」
 ベルクは二人を見送りつつ錠剤を踏み潰し、霧があふれ空気清浄を開始した。
「もう大丈夫ですよ」
「治療するのは薬だけじゃないさね」
 フレンディスが解除薬を使用し、マリナレーゼが二次被害で負った怪我を『ナーシング』で治療した。
「……空気が変わりましたね」
 ヨシノは空気から有害物質が取り除かれた事を感じ取りほっとしていた。
「確かにな。だが、清浄していない場所にある粒子がこっちに流れてきたら最初からやり直しだ。急ぐぞ」
 ベルクは安堵せず、次の現場へと急ぐ。それにフレンディス達とヨシノも続いた。
 無事に空気清浄と被害者救助は成功した。

 シリウス達と入れ替わる形で
「もう大丈夫だよ。この解除薬をどうぞ」
「すぐに平和に戻りますから」
 人命救助に戻った北都とクナイ。
 次々と被害者を救い、避難誘導をしていたが中には
「クナイ、どう?」
 目覚めぬ者もいたり。そのためクナイの『歴戦の回復術』で体力を回復させ抵抗力を高めたのだが
「目覚めません。体力を回復して抵抗を高めたのですが、やはり素材化進行が深刻でしたから。もしかしたら……」
 なかなか効果は見られない。
「……治療所に運んだ方がいいかもしれないねぇ」
 北都は治療所に任せるのが一番だと判断を下した。
 その時、
「だったら俺が運んでやろうか」
 黒猫に獣化した獣人がやって来た。
「君は探求会の……」
 北都は黒猫に見覚えがあった。ただし、読み取った記憶でのこと。
「そうだ。ヴラキだ。治療所にあの女がいるんだろ」
 名乗るなりヴラキは獣人化した。
「確か魔法薬をかけられて脱毛したんだよね。お気の毒だったけど、治ったみたいだねぇ」
 事情を知る北都は当然ヴラキの災難を話題にした。
「解除するのに手間取ったけどな。その間にどんどん毛は抜けるし、仕返ししねぇと気が済まねぇ。居場所突き止めたのは俺なのに確保役は別になって」
 ヴラキは忌々しそうに言うなり目覚めない少年を抱えた。
「行ってもその暇は無いと思いますよ。今頃、空気清浄薬の製作で忙しくしていると思いますので」
 クナイが現場が荒れて騒ぎ収集が遅れてはいけないと言葉を挟んだ。
 しかし、
「それでもいい。このガキは俺が連れて行く」
 ヴラキはよほど魔法中毒者を恨んでいるのか少年を抱えたままさっさと行ってしまった。
「随分、根に持ってるなぁ。まぁ、揉め事が起きても何とかしてくれるかな」
 北都は見送りながら苦笑していた。どれだけ恨み持ってるんだと。
 この後、二人は救助活動を続けた。途中、目を離した隙に連れが素材化した者や同じ救助者に会ったりと忙しくした。