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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第3章 イルミンスールの祭典 Story1

 テスカトリポカについて話し合いが始まる前。
 出店のメニューを決めたベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が、エリザベートとラスコット・アリベルト(らすこっと・ありべると)を呼び止める。
「先生方ーーーーーっ、メニュー決めたのですよ!!」
「はぁ〜い。何にしたんですかぁ?」
「プリンを手配りで売ることにしたのです!」
「ひんやりデザートですねぇ、とーっても楽しみですぅ〜♪」
 暖房のきいたカフェ内にはピッタリのスィーツが出ると聞き、年相応らしく大はしゃぎする。
「―…っと、そろそろ時間みたいですぅ。私は別件の話し合いがあるので、これで失礼しますねぇ」
 携帯の時刻に目を落とし、エリザベートは特別訓練教室へ駆けていった。
「わたくしはまだ決めてないわよ?」
「大丈夫です、テスタメントの決定に間違えないのですよ」
「ねぇ、テスタメント。あなた真面目に授業受けてたのに、すっかりプリンに毒されてない?」
「人生、それはプリンなのです」
 テスタメントはハイリヒ・バイベルを開いて聖女のように微笑んだ。
「わけがわからない…。もう自由にやったらいいわ」
 理解不能なセリフを堂々と言うパートナーに、もはや道を修正してやる手段はなかった。
「―……店を出す理由がいまいちよく分からないわ。多分店の配置に封魔術的に大切なことがあるとか、直ぐに動ける人員が必要ってことなのかしら?」
 店の件はすっかりテスタメントに任せきりにし、ノートを眺めながらぶつぶつ言いつつ考える。
「封魔術の陣となる外側を作る必要があるからね。これを見てもらえば分かると思うよ」
「この通りに設置するということは…。もしかして天井の飾りつけとかですか?」
 テーブルに広げられた図面へ目を落とすと、照明に使うであろうコードの位置が、カフェの壁の端から四方に大きく囲んだ形になっていた。
「そうだね。本体となる内側が発動するために、術力を集中させる必要があるからね」
「へぇー…。わざわざ2重的に作る意味ってあまりない気が…」
「もし、外側が破壊されても内側だけでも無事なら、能力の一部は封じることが可能なんだ。けど今年は、オレたちの手元にいるテスカトリポカがいますからさ。取り戻そうと襲撃してくるかもしれないし。それで、術をここで行っていることを知られる可能性もあるからな」
「わたくしも、常に警戒する必要があるってことですね…」
 ボコールたちが取り返しにやってくることも可能性が高く、一瞬でも気が抜けない状況なのだと説明される。
「まぁーそうなるよね」
「ところで先生。お祭りで店をする事にどんな術的な意味が?」
「祭りをしてるだけと思わせておけば、どこで何やってるかって探りにくいから…って、校長がね…」
「ははは…校長の指示でしたか」
 美味しい食べ物や楽しいこと大好きな校長ならありえるかと、乾いた笑いを漏らした。
「確かに、大勢で遊んでいるだけと思わせておけば、他の人が何やってるかなんて調べにくいでしょうね。追跡したら、ただ食材取りに行ってた人でハズレだったとかありそう…」
 校長の趣味もあるのだろうが、それなら相手の目を欺くためにありかと考える。
「わたくしたちは楽しんでいるフリしながら、そっちの存在に気づくの遅らせればいいんでしょうか?」
「あぁ、よろしく頼むよ」
「ほほー。カフェでお祭りするのは、そんな理由があったんだね♪」
 出店の材料を倉庫に取りに行っていた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が通りがかり、日堂 真宵(にちどう・まよい)たちの会話を耳にした。
「つまり、ワタシみたいに出店をやっているだけの人間に、彼らがついてきたとしてもさ。目的の場所から遠ざかるだけってことだよね?」
「うん、そういうことだよ」
「もし見つけたら連絡したほうがいい?」
「内側の陣付近なら一輝に、地下へ向かってそうなら和輝か樹に連絡してあげて」
「了解、他の人にも伝えておくよ。陣を作る人は、この通りに配置するんだね♪」
 テーブルに広げられている祭りの図面を軽く用紙にメモを取り、弥十郎は自分の店へと戻っていった。



 出店では、賈思キョウ著 『斉民要術』は農業専門書がメニューの材料が届くのを暇そうに待っていた。
「まだかな…。あ、戻ってきた!」
「途中で薄力粉とか足りなくなると思って、持ってきたよ」
「ありがとう、それじゃあ…」
 さっそくお菓子の材料をテーブルに並べると…。
「斉民、ちょっとだけ先に作っててよ。簡単に作れる焼き菓子でいいからさ」
 またもや店を離れると言い出されてしまう。
「えーー!?」
「ごめんよ、急ぎの用事なんだよ。後よろしくー♪」
 それだけ言うと弥十郎はさっさと店を離れてしまった。
「ん〜…終夏さんどこでお店出しているんだろう…?」
 メモさせてもらった祭りの図面を、五月葉 終夏(さつきば・おりが)にも見せようと探す。
「そうだ!いつも花の魔性を召喚しているから、アークソウルで探せばいいか」
 魔性なのだから大地の宝石を使えば簡単に見つかるだろうと考え、エレメンタルケイジに精神を集中させた。
「あっ、いた♪」
 弥十郎のイメージに赤い色が浮かび、すぐに位置を把握する。
「やっぱりいたね」
 気配を辿っていくと小さな少女の姿をした花の魔性であるスーの姿を見つけた。
「おはよう、弥十郎さん!」
 流し台で湯のみやヤカンを洗っていた終夏が振り返った。
「うん、おはよう♪さっきそこで真宵さんたちを見かけてね、お祭りの図面見せてもらったんだ。メモに取ったのがこれね」
「へぇー…結構大掛かりだね。照明の配線とかを、封魔術の陣にするんだ?」
「そうみたいだよ。担当の人が作業してたら、“分かっちゃう”ように話さないほうがいいかも」
「あー…うん、了解!」
 ボコールたちに悟られては、せっかく作った陣を破壊されてしまう。
 それを示す言葉はNGなのだとすぐに理解した。
「じゃあお互い、お店頑張ろうね♪」
「頑張るよ!…よーし、私も準備しなくっちゃ」
 店へ戻っていく弥十郎を見送り、出店のメニュー作りに取り掛かった。
「一品ものだけどお店だし。看板っぽいのくらいはほしいよね」
 和紙風の硬めの紙に、筆で“桜の花の塩漬け”と丁寧に書き込む。
「スーちゃん、看板にお絵かきしよう!」
 カウンターの前に立てかけ、スーと一緒にピンクのペンで花びらの絵を描いてみる。
「うぅー…、おりりみたいにかけないー」
「えーそんなことないよ?すごく可愛いと思う」
「ん〜でもなんかちがうー…」
 召喚者である終夏の血の情報で桜がどんなものか理解できても、実際に上手くかけるわけではく、眉をハの字にして首を傾げた。
「スーちゃんって他の花も出せる?」
「うん、できるよー」
「じゃあね…八重桜の七分咲きくらいのって、咲かせてもらいたいな」
「わかったー!」
 大好きな終夏のために手の平の中いっぱいに、ポポンッと桜を咲かせてみせた。
「ありがとう、スーちゃん」
「なんかしょっぱいの作るんだねー?」
「お塩を使うからね。出してもらったばかりだから、洗わなくてもよさそう」
 枝に2輪だけ花つけ切り、手の平で優しく塩をなじませる。
「ねーねー、おりりん。たいくつー!!」
 スーは終夏の背中によじのぼり、遊んで欲しそうに言う。
「あっ、そうだね。お手伝いしてもらえると嬉しいな」
「やってみたいー!おしおぺたぺたー」
「そうそう、上手だね」
「てがしろーくなったよー?」
「あらら、お塩まみれだね。桜になじませたら、これに入れておいて」
 手が届きやすいように、プラスチックの入れ物の前に踏み台を置いてあげる。
「うんしょ、よいしょー。えいっ」
「投げちゃいけないよスーちゃん」
「どーして?」
「こうやってね。並べていくんだよ」
「うー…そっかー」
 小さな身体を抱えてもらい、枝を摘んで並べ直す。
「なんとなくわかったかもー」
 教えてもらいながら塩をなじませた桜を入れ物の中に並べていく。
「ふぅ、これだけあればいいかな。スーちゃんが手伝ってくれたから、もう終わっちゃったよ」
 桜に霧吹きしながら、肩で休んでいるスーの頬を指先でちょんとつっつく。
「まだたべられないんだよねー?」
「うん。2日以上は漬けなきゃいけないんだよ」
 ラップをした上に漬物石をゆっくりと乗せ蓋をして、粗方の準備を終えた。
「スーちゃんも手洗ってあげるね」
 塩まみれの手を流し台の水道で洗い、スーの小さな手も洗ってあげる。
「きれーになったー」
「控え室でお休みしようか」
 たまにはゆっくり休もうかと、スーを腕の中に抱えて畳み部屋へ向った。