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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第9章 イルミンスールの祭典 Story5

 封魔術の外側エリアを担当する者たちは、エリザベートの後をついて足早に進んだ。
「皆さん〜、図面をお渡ししますので〜。そのポイントごとに敷いてくださいねぇ。第一手順を教えますので〜、どなたかその通りにやってみてください〜」
「は〜い、オイラやりたい!メシエもやろうにゃー」
「やれやれ…仕方ないね」
「クマラたちがやるなら俺もかな」
「まずは〜。エリシアさんが持ってきてくれたコードを、その図面の通りに伸ばしてくださいねぇ」
 エリザベートはビニール袋から電飾コードを取り出して3人に渡す。
「本当に飾りつけするみたいだにゃ?」
「校長、ただのコードにしか見えないのだけど…」
 何か特殊な力でも施されているのかと、エースは渡されたものをじっと見つめた。
「えぇ、その通りですけどぉ?」
「ん…よく聞こえなかったね」
 聞き間違えかと思い、小首を傾げる。
「ふつーのコードですぅ♪」
「え……えぇえ!?」
 にっこりと微笑んで言う校長の言葉に、思わず大声を上げてしまう。
「魔術といっても、全て特殊ものを使うっていうわけじゃないんですよぉ〜。そんなの使ってたら、相手にも知られるリスクがあるんですぅ」
「確かに……。厳重に取り扱うものを運んでいたら怪しまれてしまうね」
「まぁ、そのままだとハサミでも簡単に切れてしまいますからぁ、コーティングはちゃんと行いますよぉ。リングを通したコードを天井付近のほうへ設置した後、そのリングに火、氷、光、大地、風の宝石を取り付けるんですぅ」
「なるほどね、よく分かったよ」
「天井まで届かないのにゃ〜。メシエ、空飛ぶ魔法お願い!」
「まったく人使いが荒いね」
 “まだ何もしてないじゃないか…”というエースの言葉をスルーし、空飛ぶ魔法を彼とクマラにもかける。
「氷の宝石というものがあったのね?」
「あたしも初めて知ったよ」
 天井で作業する3人をセレアナとコレットが見上げる。
「もっとしっかり伸ばすにゃ、メシエ」
「いやもう、たわみそうだよ」
「間に留め具をつけたらいいんじゃないか?」
「あぁ、図面の工程に書いてあったね。…おや、箱の中にないみたいだよ」
「ちょ、ちょっとメシエ何を探してるんだ。こっち使うんだって」
「ほう…?」
 エースから宝石をはめこむリングと同質の金属の止め具を投げ渡される。
「あ、あれ、ネジみたいなのはないのか?校長ーーっ、これはどうやって止めたらいいのかな?」
「止め具のほうは、重力の術で天井にとめられますよぉ!!」
「―…重力?もしかして、ハイリヒバイベルの章の術のことか」
 3人の中で唯一本を扱えるクマラのほうへ視線を当てるが、少年は“持ってない!”とかぶりを振った。
「上でなんか困っているみたいね」
「ルカルカさん、章のページが足りないようなので〜。手伝ってきてあげてください〜」
「おっけー♪…メシエさん〜、ルカにも空飛ぶ魔法かけてー!」
 作業中のメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)に呼びかけると、ふわりと床から足が離れた。
「何か困ったことでもあった?」
「この止め具を止めるには、重力の術がいるようなんだよ」
「陣を敷くには魔道具の力が必要て言ってたから本の章がいるのね。ふぅ、気を落ち着かせて…っと」
 ルカルカは軽く深呼吸をし、悔悟の章のページを開く。
 重力の術でがっちりと止め具と天井に取り付ける。
「宝石はリングにはめるだけでよいのかな?」
「ううん。衝撃ではずれちゃうと思うから、それも接着的にやっておかないと♪」
 止め具と同じく簡単に取れないよう、リングを灰色の小さな球体で囲んで固定する。
「なんとも細かい作業だね」
「あまり派手なことしてたら、ボコールどころか知らない人も注目しちゃうからね。はい、チョコバー食べて頑張ろう♪」
 ため息をつくメシエの肩を指でつっつき、元気の元を分けてあげた。
「とまぁ、初日の手順はここまでですぅ〜。私はちょっと特別訓練教室のほうへ行くので、何かあったら呼んでくださいねぇ」
「トラちゃんの件かな…了解♪」
 ルカルカはメシエたちの作業を手伝いながら片手をひらひらと振った。



 時は少し戻り、エリザベートが祓魔師たちに封魔術の手順を教えていた頃。
 魔法学校の最上階では、ラスコットも説明を始めていた。
「初日はカフェで教えていることと、だいたい同じ手順だね。下では天井に敷いているけど、こっちは床に敷いてもらうよ」
「ラスコット先生。ここは僕たち以外に立ち入る人はいないよね?」
「それはないはずだから、もしいたとしたら入らないようにお願いしないとね、北都くん」
「うん、分かった。(…ボコールたちに気づかれるといかないからね、言葉で言えばいいかな?)」
 “立ち入り禁止”などと看板を立てたりできないだろうから、言葉で注意すればよいかと頷く。
「まずは、コードを四方に敷いてもらうところからやってもらおうか」
「案外、普通のものを使うんだね」
 見た目だけでなく触れただけでも、どこにでもある市販のものだった。
「そんなに不思議なことかな?これから、簡単に切られないようにするんだけどね」
「普通なら電気って掴めないわだし。それを通すものだから、魔力を流すものとして扱いやすいってこと?」
「まぁそんなところだよ」
「ならば、インターネットの回線などでもよいのでは?」
 触れられないものを通すなら、電飾コード以外でも使えそうだとジュディ言う。
「こらジュディ!んなこといったら夢も希望もなくなるやないか」
「あぁ、毎年変えているから、どっちもでいいんだよ」
「―…マジか!!?」
 へらっと笑いながらさらりと言うラスコットに、陣は目が飛び出しそうなほど驚く。
「同じものばかり大量に取り寄せると、かえって目立つからだと思うよ?」
 他者からすれば古くなったから交換するためとしか思えない。
 そのために毎年、媒体を変えているのではと北都が説明する。
 実際にネットを使うためでないのだし、扱いやすいものならなんだってよいのだろう。
「んまぁ、そりゃそうなんやけどね…北都さん」
「なんとも意外なものが媒体じゃのぅ」
 魔術もやけに文明的なものを使うものになったのかと肩をすくめる。
「やつらの目につきやすいものは、選べないというわけか」
「手順の手間が増えるけどリスクを考えればそうなるね。媒体の話しはそれくらいにして、敷く方法を教えるからやってみてよ」
 そう告げるとラスコットはチョークを手にし、床にポイントをつける。
「使うものを置いておくからやってみてよ」
「んな無茶やろ…」
「どんなふうにやるからセンスも見てみたいからね。じゃあ、とりあえず陣くん」
「はっ、とりあえずオレって何!?」
 リーズに“早く♪”と促され、しぶしぶとりかかるが嫌な予感しかしなかった。
「コードが媒体やったな」
 とぐろを巻いているコードをポイントの4つ角へ伸ばす。
「長すぎやな。流すだけなら切ってもいいんかな?」
「陣くんー、おっかなびっくりやらないでー」
「うっさいリーズッ。ったく、なんだってオレがこんな目に…」
 きゃっきゃと楽しげにはしゃぐカノジョを睨みつつ、ハサミでコードをブチッと切る。
「止めるやつはどれや?つーか、ネジが見当たらん」
 それをはさむように金具を置いてみるが…。
「おあっ!?」
 すぐにカタンッと倒れてしまう。
「それじゃ無理だね♪」
「ムカッ…。んなこと言っても、オレ1人やったし!?」
 講師は背を向けていたが、あきらかにプッと笑わっていた。
 ついにイライラの限界にきた陣が怒鳴った。
「誰も1人でやってなんて言ってないよ?」
「うむ、我らもそう聞こえたのぅ」
「どんまいだね、陣くん。…頑張って?ぷははっ」
「ちょ、リーズおまっ!?オレのカノジョやろ!!」
「えっと、もう1回ね」
「あんた鬼か〜…」
 答えをくれず再チャレンジしなさいと言われ、泣きそうになる。
「無理だってもう、ヒントプリーズッ」
「仕方ないね。ネジがないなら、圧しとめればいいんじゃない?封魔術には魔道具を使うって、校長が言っただろ」
「あ…そうやった!ジュディ、悔悟の章でとめてみてくれんか…?」
 壁際に控えているパートナーの見て助けを求める。
「本当に我でよいのか?ファイナルアンサー?」
「あーもう、ファイナルアンサー!」
「だがな、磁楠が寂しがっておるぞ?」
「小僧。私を無視する気か…」
「どっちでもいいから早くっ」
 一刻も早くぼっち状態をどうにかしようと必死に手招きする。
 結局最初に呼ばれたジュディが手伝ってやり、重力の術で固定してやる。
「うーむ、時間経過で取れたりしないのかのぅ?」
 何時間も保てるのだろうかと首を傾げる。
「祓魔術の影響を受けやすいものを使っているからね。その辺の心配はいらないよ」
「ほう、なら安心じゃのぅ♪もしもの戦闘の時は、他の祓魔術をぶつけないようにすればよいか」
「なんでネジとか使わないんや?」
「元々、普段は別の人が使ってたりするし。跡を残さないためでもあるんだよ」
「あー…床にあちこち傷を残すと、気になって調べる人もいそうやね。他にも問題がありそうやし…」
 探究心の強い者も多いだろうし、それを外部に知られて招かざる者を寄せないためかと頷く。
「ん、この指輪はどこにつけるんや?」
「はて、コードに通すのでは?」
「んーーーもぅ、また初めからやないかっ」
 道具箱の中のものを、もはや見なかったことにしたくなった。
 せっかく止め具をつけたのに、1からやり直しになってしまう。
「じゃあ、手順通り進めようか」
「あんたさ…、オレの前置きいらなくないか?」
 ぐったりと床にへばりながらラスコットを睨みつける。
「ん?魔道具を使わないと、うまくできないっていうことは分かったじゃないか♪」
「酷い、…酷い。鬼がいる鬼がっ」
 陣はモルモットのように扱われ、しくしくと床を涙で濡らした。