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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第10章 イルミンスールの祭典 Story6

 封魔術の内側担当の祓魔師たちは、宝石のついてない指輪をコードに通し、悔悟の章の術を行使して止め具できっちり固定していく。
「愛さん、止め具を押さえておいてくださいね?」
「うん。……すごい!一瞬で床にくっついたわ」
 見ているだけなのも暇だしフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の頼みで設置を手伝う。
 ハイリヒ・バイベルによる術は愛にもしっかりと見え、灰色の渦が止め具に纏わりつき、がっちりと床に接着した。
「ネジとか使わないのに、こんなにしっかりつくなんて驚きね…」
 重力の術の影響を受けたそれは、力いっぱいひっぱってもまったく取れなかった。
「先生、指輪に何もついていないけど。私たちのを使うんですか?」
 くぼみの中に、手持ちの宝石をはめるのだろうかと歌菜が聞く。
「ううん、そこの箱の中にあるだろ?それを使ってよ」
「あっ!エリザベート校長が言ってましたね。いつも使っている宝石のほうがキレイだけど、こっちもキレイ…」
「歌菜、見惚れてないで作業してくれ」
 ぼーっとしている彼女の頬を月崎 羽純(つきざき・はすみ)がつっつく。
「う、うん、羽純くん」
「うふふ、一生懸命に作業してる歌菜も可愛いわね♪…きゃっ!?」
 床で作業している様子をじっくり観察していると、カティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)の指がビタッと床にはりつく。
「カティヤ、笑顔が邪悪だ」
「―……磁楠〜っ」
 声の主を探してその先を見ると、向かい側にいる仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)にフッと失笑されていた。
「章の力は、悪い魔性だけに使うのよ!?」
「あぁ、だが邪悪だったからな。さて、今日の仕事も忙しいな」
 抗議の声を上げるカティヤから視線を外し、術を解かないまま作業を続ける。
「向こうは何かもめてるね?止めなくていいのかな…」
「あはは……気にしないほうがいいわ、北都さん」
 巻き込まれないように、遠野 歌菜(とおの・かな)がかぶりを振る。
「はて……、この宝石は?」
 ジュディは深い青色の宝石をつまみ、不思議そうに首を傾げる。
「それは氷のだね」
「ほう?たしか、何も能力はないんじゃったな。陣たちは持ってないようじゃが…、永遠に未実装なのかのぅ」
「こんなあるんだからもういいやろ」
 考え込むジュディに、さすがに十分すぎるほどあるだろうと陣が言う。
「ラスコット先生、宝石をはめる順番ってある?」
「扉のほうから時計回りに光、大地、風、火、氷の順番でお願いね、北都くん」
「分かった。…ソーマは大地、リオンは風をお願い」
「これってエレメンタルケイジに入れても、使えないんだったよな」
 手のしたものは能力をもたないものの、普通のものとは違う輝きを持っていた。
「ソーマが使うようなものは持ち主限定ですからね。限定されていない宝石しか、媒体として使えないんですよ!」
 彼よりも先に学んでいるリオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)が、得意げな顔をしてみせた。
「限定されてたら私たちみたいな章使いは特に、本の力を送っても通り抜けてしまうでしょう?」
 アイデア術のように魔道具を扱う人を通し、能力を元に発揮するものとは仕組みが違うのではと説明した。
「理屈はなんとなく分かるけどな…」
「それぞれ合ったものにしか反応がないため、狭く限定されない媒体を選んだのかもしれませんよ」
「詠唱で反応させて変化させる点を考えると…。魔科学と共通するところはあるかな」
 物質を変化の詠唱で新たなものを作り出していた魔女たちの研究を思い出す。
「今回はたぶん、詠唱で1つの術として発動するんだろうね」
「頭で分かっていても、理解するのが大変よね。あ、私は火のほうを…。羽純くんは氷ね」
「ここまではまだ楽なほうなんだろうな」
 ラスコットが床につけたチョークの色で、どの宝石をつけるか判別しやすくスムーズに作業が進む。
「わたくしたちは何をすればいいんですの?」
「大唱石を彼らに運んでもらって」
「分かりましたわ。陣、磁楠。それを部屋の中心に運んでくださいな」
「こりゃ女子じゃ厳しそう…つーか、めちゃ重っ」
「文句を言う暇があったら動け小僧」
「そこっ、踏みそうですわ。気をつけて運びなさい!」
 敷いたコードを踏まないよう、エリシアが誘導する。
「大きな宝石だね、おねーちゃん」
「あらまぁ高そうな…。いえ、今はそういうこと考えてられませんわね」
 これだけあれば新たなレールを設置できそうだが、かぶりを振って煩悩を打ち消した。
「そんな顔しても、原価はかかってないよ?」
「な…!?」
 “安物”だとさらりと言う言葉に、魔法学校は金銭感覚がおかしいんじゃないかと驚く。
「はめてもらってる宝石と違って安価だからね。ただ、物質を上質なものへ変化させる必要があるけどね」
 媒体とするためには無論、これもなんらかの魔力を秘めた石ではあるが、魔道具の元となる指輪の石と違い微量だった。
 それを祓魔師の術により、上質なものへと変えていくのだと言う。
「1度使ってしまえば、また微量な質に戻ってしまうけどね」
「ふむ…。ともあれ、コードのほうが先のようですわね」
 保管するためにも1つあれば十分なのだと理解して頷いた。



 カフェのほうでは着々と封魔術の準備が進められていた。
 コードがたわまないようにセレアナたちが支え、悔悟の章を使えるルカルカたちが止め具を固定している。
「広いから手分けしなきゃね。カルキは向こうのほうをお願い」
「へいへいっと。淵は2人きりがいいんだろ?」
「なっ!?俺は別に…」
 思い人と2人のほうがいいんじゃと言われ、夏侯 淵(かこう・えん)は顔を真っ赤にする。
「オメガ、ちょっとこっちきて♪」
「はい?何でしょうか、ルカルカさん」
 何事かと小首を傾げ、にこにこしながら手招きするルカルカ・ルー(るかるか・るー)のほうへ行く。
「うちの淵をよろしくね」
 自分のほうへ寄せると、そっと彼女の耳元で言う。
「え……?」
「こ、こら、ルカ!オメガに何をっ」
「べっつにー♪ルカしらなーい、作業しよっと」
 耳聡く聞いた淵に背を向け、さっさと作業へ戻ってしまう。
「さきほど校長に名前を呼ばれていなかったが、カフェのほうへ来てしまってよかったのか?」
「初日はこちらのほうが大変そうでしたから…。それに、涼介さんやミリィさんもいらっしゃいますわ」
 離れたところで黙々と設置している親子へ目を向ける。
「あ…あぁ、そうか」
 まだ一緒にいられそうかとほっと息をつき、この日のために準備しておいたものを後ろ手に握り締める。
「オメガにも手伝って貰えぬか頼む」
「え?はい、喜んで」
 彼の言葉に1つ返事で小さく微笑む。
「淵さん…、後ろに手を組んだままでは作業できませんよ?」
「そ、そうだな」
 オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)に不思議そうな顔をされ、気づかれないように隠しているものを慌ててポケットに隠す。
「祭典の出店には顔を出すのか?」
「いえ、当日は上の手伝いをしているかと…」
「うーむ…」
 カフェでの担当なら祭典で遊ぶ時間もあるかと思ったが、上のほうでは無理があるかと断念した。
 コードをオメガに支えてもらい、重力の術で止め具をとめるというまだ単純作業段階。
 特に会話もなく黙々と作業だけで時間が経っていく。
 “いかん!せっかくルカたちがくれた時だというのに”
 今日という日が過ぎてしまえば、彼女は別のエリアへ去ってしまう。
 “何か話さねば…”
 心の中で話題を必死に探していると…。
「淵さん、…難しい顔をして、どうしたんですの?」
 眉を寄せて何やら悩んだような表情をしている淵に、オメガが声をかけた。
「は…、いやっ。……そのオメガ」
「少し、休みましょうか」
「う、うむ」
 必死に思いを告げようとした瞬間、言葉を遮られてしまい、しょんぼりと項垂れた。
「本をずっと使っているようですから疲れてしまったのですか…?」
「そのようなことは…」
 心配させるつもりはなかったため、これではまずいと必死に言葉を探す。
「わたくしも、少しだけ手が……」
「大丈夫、すぐに治るはずだ」
 赤くなった手を擦り合わせるオメガの手に、ポケットに隠していた白い華を乗せる。
「この華は?」
「だいぶ早いがプレゼントだ。4月1日はオメガの誕生日であったな、おめでとう」
「わたくしに…」
 手の平の鈴なり輝雪華を、まじまじと見つめる。
「俺はオメガが好きだ。俺と付き合ってほしい」
 突然のことに目を丸くする彼女を手を握り、じっと見つめる。
 いったいどういうことなのか、頭の整理がやっとついたオメガが口を開く。
「―…今は、人を助ける祓魔師として、学ぶことがいっぱいで…。その、答えはまだ出せませんわ」
「懸命に学ぶことはよいことだ。うむ、返事はまた今度で良いよ」
「今度のことが終わったら、その時は…」
「あぁ、いつまでも待っている。今は俺たちが出来ることをしよう」
 彼女の手を握ったまま立たせてやり、封魔術設置の作業へと戻った。