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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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 同時刻 ジャタの森
 
 その頃。また別の場所で同じような邂逅を果たしていた者達がいた。
 
「ッ……。どんどん無茶になっていきやがるな。ジーナ」
 コクピットから這い出した航は、すぐ前に擱座したザーヴィスチを見つめる。
 ややあってコクピットが開くと、腕を押さえながら富永 佐那(とみなが・さな)が現れる。
 
 佐那と航。
 幾度に渡って空で激闘を演じた二人のパイロット。
 その二人が、今ここで遂に相対したのだ。
 
 常に通信機越しだった関係。
 その二人が初めてここに相対した。
 その筈であるが、二人の反応は違ったものだった。

「……どこかで見た顔」
「お前……どこかで……?」
「あなたがヴォロナーチカ(鴉)だったとは、ね。貴方は、ベルリンの――やっぱり、か」
 
 佐那の放った一言を聞き、航も弾かれたように得心した顔になる。
「お前……あの時の!」
「思い出してくれたようね。ゲーセンでは世話になったわ」
 かつての邂逅を思い出し、二人はしばし無言になる。
 過ぎ去りしとある日、互いに敵と知らず言葉を交わし。
 そして、ゲームとはいえ一時的に共闘した相手であることを思い出したおかげだろうか。
 今の二人の間に殺気はなかった。
 
 しばし無言で見つめ合う二人。
 ややあって先に口を開いたのは佐那だ。
「ジャタの森の真ん中で身一つ。互いにこんな状況だしね――」
 そう言って佐那はかいつまんで互いの状況を確かめ合う。
「やっぱりここは協力すべきね」
「一時休戦か。しゃあねえな」
 
 存外にあっさりと了承した航。
 彼に頷くと、佐那は森の奥を指さす。

「ひとまず水と食料を確保しましょう。それに薪も。大丈夫だとは思うけど、怪我の有無も確認しておかないとね」
「おうよ。とりあえず薪から確保すっか。火ぃ焚いとけば獣の類は寄ってこねえだろ。それじゃ、行こうぜ。ジーナ」
「ええ。そうね、“鳥(フォーゲル)”――」
 そこではたと気付き、佐那はポケットからあるものを取り出した。
 取り出したのは聖・エカテリーナアカデミーの学生証。
 佐那はそれを航に投げ渡す。
「いつまでも“鳥”じゃあれだものね。そろそろ本当の名前を聞いておこうかしら。ちなみに、私の名前は見てのとおりよ」
「ジナイーダ・バラーノワ……長ったらしくてめんどくせぇ。今まで通りジーナにしとくぜ」
 そこで一拍の間を置き、航は答えた。
「航だ。羽鳥航。ったく、世界に喧嘩を売ってるテロリストがこうも本名を名乗ってちゃしゃあねえぜ。これで二人目だ」
「ありがと、航。それで二人目って?」
「……うさぎみてえな女がいてよ。ジーナより前に、そいつに一度名乗ってる」
 それだけ聞いて佐那は察したのか、それ以上詮索することはない。
 
「それよりいいのかしら? 薪にしろ何にしろ、探しに行くなら機体から目を離すことになるわ。私はパートナーがいるからいいとして」
 そこで言葉を切ると、佐那は航の機体――漆黒の“フリューゲル”を目で示す。
「貴方はいいのかしら? そういえば貴方のパートナーの姿が見えないけど、まさか単座式なんてことはないわよね?」
「ソイツは機密事項だ」
「そう。別にそれでも構わないけど、誰も乗っていない機体から目を離して困るのは貴方ではなくて?」
 すると航は小さく笑う。
「なら留守番を頼むだけだ」
 航が言うが早いか彼の身体、正確には彼の纏う漆黒のパイロットスーツが僅かに光を発する。
 次の瞬間には、航のいでたちはパイロットスーツからフライトジャケットに変わっている。
 
 驚くべきはそれだけではない。
 更に航の傍らに一人の若い女性が現れたのだ。
 
 ショートヘアの髪型とその下にある顔立ちは可愛らしく、それでいてどこか艶やかさも感じさせる。
 整った顔立ちは控えめに見ても美人と言うには十分なレベルだろう。
 
 トップスは、もはやノースリーブに近いような短い袖で、バストがかろうじて覆えるほどの丈しかない白いTシャツ。
 同じく丈の短い黒色のスカートは光沢を放っているあたり、レザー素材なのかもしれない。
 それと同色、同素材と思しき黒のロングブーツに包まれた脚は、組まれている状態で見ても長いことがわかる。
 加えて特徴的なのは、Tシャツとスカートそしてブーツがクリップ付のベルト――サスペンダーを思わせるパーツで繋がっていることだ。
 Tシャツの裾からスカートのウエスト部に、スカートの裾からブーツの腿部分にベルトが繋がっている。
 そのおかげで、良く言えば開放的、率直に言えば扇情的な服装がより艶やかに見えた。
 
「つーわけで、理沙。留守番頼むわ」
「わかったわ。速く行ってらっしゃい」
 
 二人のやり取りを見つつ、佐那もコクピットにいる相棒――エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)に声をかける。
「エレナ。貴方も留守番をよろしく」
「はい。承知しました」
 今いる相棒はエレナのみ。ソフィア・ヴァトゥーツィナ(そふぃあ・う゛ぁとぅーつぃな)足利 義輝(あしかが・よしてる)の二人は留守番だ。
 
 佐那と航は揃って軽く手を振ると、森林の奥へと進んでいく。
 やがて完全に姿が見えなくなり、足音も聞こえなくなれば後は静寂が支配する。
 
 それを破ったのはエレナだ。
「こうして直にお会いするのは初めてですね、私達も。特に貴方は今の今までいらしていることを知らなかったのですから」
 とりあえず声をかけてみるエレナ。
「そうね。まさかこんなことになるなんて、私も思わなかったわ」
 
 それきり途切れかける会話。
 エレナは務めて平和的な声音で再度言葉を投げかけた。
 
「エレナ・リューリクと申します。今は佐な……ジナイーダさんと一緒に聖エカテリーナアカデミーに在籍。貴方は?」
「一文字理沙よ。職業はテロリスト、って言えばいいかしら?」
 真面目とも冗談ともとれる言い方をすると、理沙はエレナをちらりと見やる。
「航のライバルが二人ともこんな美人だったとは驚いたわ。まあ、一番驚いたのは航でしょうけど」
「それはどうも。貴方……理沙さんも美人ですよ。それに外見はもちろん、声もとても綺麗です」
 
 微笑みとともにエレナが言うと、理沙も微笑みを見せた。
「ありがと。前職の商売道具だったの。そう言ってもらえると嬉しいわ。たとえ敵でも、ね」
 
 しばし親密な空気が流れた後、今度は理沙から切り出した。
「さて、じゃあ本題に入りましょうか? 貴方が聞きたいことは、もっと別にあるんでしょう?」