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リアクション
ジャタの森 某所
「あァ……! やってくれやがったぜ、あの女ァ!」
不時着した“ヴルカーン”bisのコクピットで法二は毒づいた。
モニターがブラックアウトしているせいか、周囲の状況はわからない。
しばし考えた後、コクピットから飛び出した法二はすぐさま周囲を確認する。
ひとまず安全であることを確かめ、慣れた動きで機体の手足を伝い地面に降りる法二。
地面に降り立つと、すぐ前には不時着した禽竜の姿がある。
禽竜が動き出す気配はない。
警戒しつつ見守ってみたが、禽竜が動き出す気配ない。
「そういうコトかよ、Gにやられてあン中でヘバってるってワケか」
ややあって法二は警戒を保ったまま、ゆっくりと禽竜に接近する。
そして、閉じられたままのコクピットハッチ――その近くにある緊急開閉ハンドルに手をかけた。
もっとも、電子的にロックされたハッチはハンドルを回したくらいではビクともしない。
落ち着き払った様子で法二は“ヴルカーン”bisのコクピットに戻ると、手の平サイズの機械を手に戻ってくる。
その機械から伸びたケーブルをハンドル近くのコネクタへと繋いだ法二は、機械のキーを二、三押した。
「……彩羽のヤツからコイツをもらっといて良かったぜ」
法二の呟きに重なるようにして響くハッチの解錠音。
驚くべき速さでロックは解除されていた。
鍵の開いたハッチを持ち上げようとする法二。
だが、ハッチは何かに引っかかったように開かない。
少し考え、法二は一旦機体へと戻り、必要な機材を取り出す。
「亜美、手伝え」
法二の言葉に呼応し、彼の漆黒のパイロットスーツが僅かに光った。
次いで彼の傍らには一人の女性が現れる。
トップスが黒いタンクトップのみという大胆な格好。
そういった格好のおかげか、彼女の豊満な胸が強調されている。
更にはポニーテールのおかげでよく見える首筋もより強調されていた。
だが、彼女から感じられるのはセクシーな印象よりも逞しい印象の方が強い。
なにせボトムが迷彩色のカーゴパンツにコンバットブーツという組み合わせなのだ。
それ以上に、彼女の体格はとにかく大柄だった。
ざっと見ただけでも180cm以上あるかもしれない。
「で、でも……法二くん……。開けたりなんかしたら、中から敵がいきなり出てくる……かも……だし……」
大柄な身体に似合わぬ小さな声で呟きながら、彼女――亜美はおどおどしたように落ち着きなく目線をさまよわせる。
「あァ……。しゃあねえな。大丈夫だから心配すんな。考え過ぎだっての。もし敵が飛び出してきたら、そン時は――」
八重歯を覗かせる特徴的な笑みを浮かべると、彼はカーゴパンツの後ろ腰に直接挿した二挺のサブマシンガン――イングラムのうち一挺を抜いてみせる。
「――コイツでハチの巣にしてやらァ」
「……う、うん……わかったよぅ……」
法二と亜美の二人はハッチに手をかけ、息を合わせて引き開ける。
そのまま法二は中を覗き込んだ。
「ほう……コイツぁ」
中にいたのはパイロットの朝霧 垂(あさぎり・しづり)とライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)。
二人はまるで燃え尽きたように動かない。
その寝顔は、むしろ安らかであるとさえ言えた。
強烈なGを受けて心身ともに疲弊しきったのだろう。
今の二人は無防備以外の何物でもない。
「丁度イイ。この機体、ここで持ち帰――」
法二が言った瞬間、彼の頭上で凄まじい擦過音が聞こえる。
擦過音は何かが這う音と枝葉の擦れる音だ。
「……ッ!」
法二が気付くよりも早く、擦過音の正体――今まさに樹上から襲かかろうとしていたアナコンダが大口を開けた。
咄嗟にイングラムを向ける法二だが、それよりもアナコンダが牙を剥く方が速い。
大蛇の大口に彼が呑み込まれようとした瞬間――。
「……ン……だと……?」
アナコンダは頭部に狙撃をくらって動きを止め、そのまま地面へと落下する。
驚いた様子で法二は銃弾の飛んできた方を振り返る。
そこにいたのはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だ。
「その機体、“ヴルカーン”bis……ということは、あなたが“蛇(シュランゲン)”ね」
油断なくSR―25狙撃銃を構えながら問いかけるローザ。
「その声……テメェ、ローザだな」
スコープとレティクル越しのコンタクトしかなかった二人のスナイパー。
その二人が今、ここに邂逅を果たしたのだった。
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