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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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 ジャタの森 某所
 
「エクス、無事か?」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は剣竜のコクピットで相棒に問いかけた。
 墜落の寸前、イコンの機体で咄嗟に受け身を取るという離れ業をやってのけたおかげで最悪の事態は避けられていた。
 とはいえ、撃墜に近い形で落下したせいだろう。
 唯斗はともかく、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は怪我を負っていた。
「大丈夫だ……少し、痛めただけで……」
 彼女が言うほど大丈夫ではないのを一目で見て取った唯斗は、細心の注意を払って彼女をコクピットから出す。
 そして、平坦で柔らかい地面を探すと、布を敷いて彼女を寝かせた。
 
「……大丈夫だ。これから応急手当をする。だから少――」
 穏やかな顔で話しかけていた唯斗の表情が一気に引き締まる。
 聞こえてきた僅かな音。
 忍者として鍛えられた聴覚でなければ聞き逃していただろう。
 
 その音の発信源は剣竜からさほど離れていない場所に鎮座した漆黒の機体の陰。
 剣竜と数々の死闘を繰り広げた“ドンナー”bisの向こうで何かが動く音がする。
 
 無駄のない動きで構え、唯斗は立ち上がる。
 唯斗が拳を握るのと、機体の影から何者かが現れたのはほぼ同時だった。
 
 現れたのは黒のベストとスラックスに白いワイシャツ。
 そして顎のラインまでの黒髪という格好の青年だ。
 何より目を引くのが太刀を佩いていることだろう。
 
 彼は唯斗と出くわすなり、太刀を抜き放ち、戦いの構えを取る。
 その瞬間、唯斗はあることに気付いた。
 
「その構え……名伏流! ……もはや間違いない。お前が“鼬(ウィーゼル)”か」
「その声……! 成程。貴方が紫月唯斗――」
 
 一触即発の状態で睨み合う両者。
 そんな中、唯斗が口火を切った。
 
「刃を納めてはくれないか?」
「貴方こそ拳を引かれては?」
「そうだな。だがそれは――」
「生憎と、私にもそれは――」

「「できない相談というもの!」」

 重なり合う二人の声。
 直後、二人は相手に向けて拳と刃を繰り出していた。
 もっとも、互いの武器が捉えたのは互いの身体ではなく。
 その背後から襲いかかろうとしていた獣であったが。
 
 双方ともに獣を一撃で倒し、やはり双方ともに残心する。
 
「助かったぜ。“鼬”」
「身に振る火の粉を払っただけのこと」
 
“鼬”は太刀を納めると、唯斗に背を向け、漆黒の機体の元へと戻ろうとする。
「本来ならばここで貴方を斬るべきなのでしょうが、今はそれどころではありません。決着はまたの機会に」
 彼の行動に何かを感じ取った唯斗は、彼の後を追った。
 
「――!」
 咄嗟に振り返る“鼬”。
 既に抜き放っている太刀の切っ先を“鼬”は唯斗に突きつける。
 だが、唯斗は落ち着き払った様子で拳を下ろして無抵抗の意を示し、“鼬”の肩越しに向こうを見やる。
「なるほどな。俺と同じか」
 
 得心がいった様子で頷く唯斗の視線の先。
 そこには布が敷かれ、一人の若い女性が寝かされていた。
 胸が上気しているのを見る限り、命は無事なのだろう。
 だが、何らかの怪我を負っているのは間違いないようだ。
 
 彼女の服装は“鼬”に輪をかけて場違いだった。
 綺麗な柄ではあるが、かと言って派手過ぎない和服。
 背中まである黒髪は絹糸のようで、色も烏の濡れ羽色だ。
 
「そうとわかれば話は早い。ここは一時休戦して協力だ」
「協力……貴方とですか? 紫月唯斗」
「ああ。どちらにせよ、まずは安全を確保することが先決だ。さっきみたいに獣がいつ飛び出してくるかもわからないからな。それに、相棒の手当ても必要だろ?」
「……いいでしょう。この状況では仕方ありません」