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夏最後の一日

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夏最後の一日

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 昼食後の昼下がり、フォレスト宅。

「……」
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は昨日から用意しておいた抽出に専用の機械で一晩かかる水出しコーヒーを飲みながらのんびりと読み慣れた時代小説を読んでいた。
 その隣には
「……」
 にこにこと編み物をするミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)と生まれたばかりの愛娘ミリィがいる。ちなみに大きい方のミリィは友人の家に遊びに行って不在である。
 本日たまたまお互いの休日が重なったため特に出かける事もせずに家でのんびりと自分の好きな事をして過ごしていた。
 ここで涼介は本を閉じ
「そう言えば、こうやってゆっくり出来るのは本当に久しぶりだよね」
 コーヒーを飲みながら隣のミリアの話しかけた。
「そうですね。お互い仕事で忙しかったですものね」
 ミリアも少しだけ編み物の手を止めた。ここ最近、ミリアはカフェテリア、涼介は主に資料作成や補習の監督などのイルミンスールの講師と仕事で互いに忙しかったのだ。
「もうそろそろ良い時間ですから、何か作りますね」
 ミリアは立ち上がりお菓子を作るために台所に立った。

 その間、
「……ミリィ」
 涼介は可愛い娘の相手をする。忙しいだけでなく第一子であるミリィが生まれたのもあって二人で出掛ける事もめっきり少なくなっていたが、愛する娘と過ごす時間と思えば夫婦だけの時間が減ろうとも夫婦にとっては幸せな時間である。
 しばらくして、台所から良い匂いが漂って来た。
「ん、この匂いはパウンドケーキかな」
 覚えのある匂いに涼介は口元をゆるめた。
 すぐに
「パウンドケーキが出来ましたよ。おやつにしましょう」
 食べやすさでチョイスした出来立てのおやつを持ったミリアが現れた。

 おやつの時間。
「味はどうです?」
 ミリアはパウンドケーキを食べる涼介を見ながらお味を訊ねると
「美味しいよ」
 涼介は頬張りながら答えた。
「夏最後の日をこうして家族と過ごせて今日は良い日だなぁ」
 涼介はミリィの頭を撫で、ミリアにほわんと幸せそうな顔を向けた。夏最後だからと言って何か特別な事がある訳でもない日だが、家族で過ごせる時間とあってフォレスト夫妻にとっては愛おしい時間であった。
「それは私もです」
 ミリアもにっこりと笑顔で返した。
 すっかりと幸せな家族団らんである。
「そう言えば、もう編み物をしているんだね」
 涼介は編み物に視線を向けながら話題にした。
「はい、もうそろそろ肌寒くなりますから、みんなのために何かをと思いまして」
 ミリアは編み物を手に取り見せた。優しい彼女は秋に冬と次第に寒くなる季節に向け家族のために何かをと思っているのだ。
「という事は私の分もあるのかな?」
 涼介はちょっぴり大好きな妻に甘えてみる。
「もちろんですよ。楽しみにしていて下さい」
 ミリアは笑いながら答えてまだ途中の編み物を置いた。こうして貰ってくれる誰かがいる事がとても幸せな事で嬉しいようであった。
 それは
「あぁ、楽しみに待ってるよ」
 涼介も同じ。大好きな人に編んでくれた物なら肌寒い季節も大した事無い。心がこもっているなら尚更である。
「でももう今日で夏が終わるんだよね。本当季節が去るのは早いねぇ」
 涼介はしんみりと窓から降り注ぐ夏の日差しに視線を向けた。しばらくすれば紅葉や雪景色が見えるだろう。
「そうですね、ミリィが生まれてからは特にそんな気がします」
 ミリアはミリィが生まれてからの事を振り返りながら答えた。
「忙しいからね。でも悪くないよ。大変さは昔より増えたけれど喜びも増えたからね。きっとこれからも」
 ミリアの言葉を受けて涼介も振り返った。
 まだまだミリィは小さいため大変は続くがその事がフォレスト夫妻はとても愛おしかった。
 この後、パウンドケーキを食べたりお喋りをしたりと時間を過ごす内に
「……」
 日頃の疲れが出てきたのか涼介はウトウトし始め、体がゆらりと傾いた。
「あらあら」
 ミリアは傾いた涼介の体を受け止めるなり自分の膝に涼介の頭を載せて寝かせた。
 すぐに気持ちよさそうに眠る涼介の寝息が洩れ
「……」
 ミリアは優しい眼差しを夫に向け
「……いつもお疲れ様、そしてありがとうございます」
 涼介の頭をくしゃりと撫でながら労いと感謝の言葉を送った。
 涼介が昼寝から目を覚ますまでミリアはずっと膝枕をしたままであった。