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パラミタ・イヤー・ゼロ ~ALIVE編~(最終回)

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パラミタ・イヤー・ゼロ ~ALIVE編~(最終回)
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リアクション

 金 鋭峰(じん・るいふぉん)空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん)を目がけて、零の枝が振り下ろされようとしていた。
「危ない!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が咄嗟に【ロイヤルドラゴン】を飛ばす。具現化した竜がその両翼で鋭峰とたいむちゃんを包み込んだ。
 ドラゴンの具現化は数秒しか持たないが、ルカはすぐに『神顕』で特殊な力場を発生させる。
「この結界は攻撃を相手に跳ね返します」
 最大級の忠誠を込めて、ルカは鋭峰に告げた。鋭峰は彼女に対し無言で頷いただけだが、その双眸には最大級の信頼が込められていた。
「私達や団長の遺伝子があっても、訓練していない者は敵じゃないわ」
 自身のDNAが組み込まれたセルフィッシュジーン・ウォーカーと戦うルカ。一切の容赦も油断もなく、巨大な両手剣『創世』を横薙ぎしてふっと飛ばす。
 体勢を崩した相手に、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が二丁銃『天破』の弾幕を浴びせた。セルフィッシュジーン・ウォーカーの身体は穴だらけになり、まるで破裂した水道管のように血液を噴き上げている。
 鋭峰が認めた、最強の矛と、最強の盾。ルカやダリルの強さはDNAに刻まれたものだけではない。パラミタの歴史のなかで培ってきた様々な経験が、今の強さを築いているのだ。
「――みんな、零の顔を狙って!」
 これまでの観察から“零の顔にならダメージが入る”と判断したルカは、他の契約者たちにその旨を伝えた。自らも『創世』の砲撃で零の顔を撃つ。
「永遠樹が対消滅するまでに、出来るだけダメージを入れるの!」



 リネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)は、激しさを増すオーロラを不安げに見上げていた。目がくらむ光の向こうにぼんやりと見えるのは、パラミタ大陸の幻影を目指して空を駆ける、仲間たちのイコンだ。
 光輝属性を持つオーロラのダメージはミュート・エルゥ(みゅーと・えるぅ)による『護りの翼』で軽減しているものの、胸騒ぎは拭えない。
(八紘零……。永遠樹を消滅させた位で諦める奴じゃないわ。いったい、何が彼をそこまで駆り立てるの?)
――アトラスの傷痕に赴く前。
 リネンは最愛の伴侶、フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)に連絡を入れていた。
『フリューネ。付き合ってほしいところがあるの』
 それはオーロラが見える場所への誘いだった。まるでデートに行くようだが、その実情はかけ離れている。
 因縁のある零との、おそらく最後になるであろう戦い。
 フリューネと共に歩くリネンの手に握られているのは、絆を育んだタマ・ロスヴァイセ(たま・ろすう゛ぁいせ)。大好きなお姉ちゃんを抱きしめるように絡みつくタマは、かつて三種のギフトとして零に運命を支配されてきた。
「妹分を弄んでくれた礼はきっちりつけてやるぜ」
 ペガサスの『ナハトグランツ』に乗ったフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が意気込む。
「今のうちに零の顔をぶん殴ってやる! いっそのこと、殺しちまってもいいんだよな?」
 半ば冗談めかして言うフェイミィ。
 数々の因縁を背負うリネンもまた、なりふり構わぬ覚悟で殺す気だった。
 しかし。リネンの前に、フリューネと自身のセルフィッシュジーン・ウォーカーが産み落とされる。
 艶やかな黒髪に、青い瞳。その麗しい少女を見たリネンの顔は、とたんに強張る。
「……戦えないわ」
 愛するフリューネの面影を残した相手は、殺せない。
 それにリネンは自身の経験から“子を捨てる”ことに拒否感があった。フリューネとの子供を前に、過去を重ねて躊躇するリネン。
「さっさと行きな。ここはオレが喰っておく」
 胸中を察したフェイミィが、リネンとセルフィッシュジーン・ウォーカーの間に入る。
『その感情は自然なもんだ。嫌いじゃあねぇ』
 荒っぽい口調で告げたのは、フェイミィが駆るナハトグランツだ。
 その後ろには護りの翼で仲間たちを庇うミュートもいる。
「ここはワタシたちに任せてぇ……ご主人様たちはぁ、零を殺っちゃってください」
 頼りになるパートナーたちを見て、リネンの顔から緊張が解けていく。最愛のフリューネに目配せをすると、ふたりは短く頷き合い、零のもとへと駆け出していった。

 彼女たちの接近を察し、零が枝を振り乱す。リネンは走りながらタマのギフト効果『マジカルファイアワークス』を発動。色鮮やかな炎が、オーロラのなかを突き進んでいく。
 乱舞する光と炎。まるで、太陽が見る夢のなかにいるみたいだった。
 マジカルファイアワークスを上乗せしたリネンの一撃で、零の顔周辺を覆っていた枝が焼き落とされていく。
 零の顔を捉えたリネンが、再びフリューネに目配せした。ふたりは身体を密着させ、高く舞い上がると、きりもみしながら己の武器を零に向ける。
 ふたりの連携スキル――『コークスクリュー・ピアース』。
 空中を回転する彼女たちは、互いの体温を感じていた。肌が火照る。それは摩擦によるものだけではなく、もっと心からこみ上げてくるような熱だった。
「隷属させる愛なんて……悲しいだけよ」
 零の顔に聖剣を突き刺して、リネンは告げる。
「そんな世界……“自分以外”に愛してもらえない世界なんて!」
 深いダメージを負った零は、地面が割れるような雄叫びを上げた。迎撃を警戒し、いったん離れるリネンとフリューネ。
 零に視線を向けたまま、フリューネはリネンの言葉を反復する。――自分以外に愛してもらえない世界。それがどんなに悲しいものかは、フリューネにもよくわかる。
 先ほど感じたリネンの体温をたしかめながら、フリューネは小さく呟いた。
「リネンと愛し合えない世界なんて――。私には、考えられないもの」


 彼女たちと少し離れた場所では、フェイミィとミュートがセルフィッシュジーン・ウォーカーと戦っていた。
 ナハトグランツを駆るフェイミィは、空中でいったん分離し、二手に別れて攻撃してから再び騎乗する、というアクロバティックな戦闘を繰り広げる。
 空を自在に飛び回り、複雑な軌道で敵を幻惑するフェイミィ。
 またしても空中で分離した彼女に向かって、ナハトグランツが発破をかけた。
『一気に攻め立てるぞ。――来い、フェイミィ!』
「いや、お前が命令すんな!?」
 ナハトグランツに騎乗しながら、思わずつっこみを入れるフェイミィだった。
 そんな彼女のもとにタマが駆け寄る。
「フェイミィお姉ちゃん! ミュートお姉ちゃん! お手伝いに来たの!」
 ギフト形態を解除し、リネンからいったん分離したタマは、ふたりの助太刀にやってきたのだ。
 フェイミィから贈られた【ルツェルンハンマー】をぐっと構えるタマ。その小柄な体型からは想像つかないほど並外れた膂力で、巨大な槍槌を振りおろす。とっさに射程距離から外れたセルフィッシュジーン・ウォーカーを、打ち出した衝撃波でふっ飛ばした。
 ふだんは引っ込み思案なタマだが、いざ戦闘になれば果敢である。その姿は、彼女に新しく冠された“ロスヴァイセ”の名に恥じない戦いぶりだった。
 だが、相手はリネンとフリューネのDNAを受け継ぐ強者だ。そう簡単には倒れない。
「しぶとい奴ですねぇ……他人事じゃないですけどぉ?」
 いちど肉体のほとんどを失いながら、機械化されて復活をとげたミュートが不敵に笑う。
「お邪魔虫はお邪魔虫同士という事でぇ……ぶち殺しますよ?」
 サイバーアイで敵を完全にロックしたミュートは、地形ごと粉砕する勢いで【レックレスファイア】を射出した。穿たれた地面に、なおも立ち続けるセルフィッシュジーン・ウォーカー。
 ミュートはとどめとばかりに、【調律改造】した対イコン弾の銃口を向けた。

 ドンッ!

 ひとつの細胞も残さず、セルフィッシュジーン・ウォーカーは爆散した。
 しかし。
 脅威はまだ去らない。
 零の狂気が増しているためだろうか。アトラスの傷痕を覆うオーロラが、激しくなっているのだ。
 ミュートはすぐに護りの翼で防壁――というより、肉壁となって仲間たちを防御した。
“光のカーテン”と形容させることが多いオーロラだが、今アトラスの傷痕に発生しているのは、そんな生易しいものではなかった。もはや、光のギロチンである。
 オーロラが、ミュートの身体を切り裂いていく。
 手足が跳ぼうが、頭を吹っ飛ばされようが、仲間を守り抜くミュート。
「あぁんっ……。じ、実にイイ、イイですよぉ……」
 彼女の切り落とされた頭部には、恍惚の笑みさえ浮かんでいる。
 やがて、オーロラは元の勢いに戻っていった。オーロラの激流を耐えぬいたミュートの身体は、むしろまだ物足りないといわんばかりに、微かに疼いていた。


 そんなミュートを、及川 翠、サリア・アンドレッティ、ミリア・アンドレッティ、ナターシャ・トランブルがじぃっと見ていた。いつもであれば、これほど究極なマゾヒストを、変態ハンターの翠やサリアが見過ごさなかっただろう。
 しかし、ミュートはなにもマゾプレイを愉しんでいたわけではない。仲間を守るために身体を張ってくれたのだ。
 それに彼女はいっしょにタマを説得した仲である。変態センサーは、反応しなかった。
「あっ、タマちゃんだ! 元気にしてた?」
 翠がタマのもとに駆け寄っていく。他の三人も続いてタマのそばに寄り添った。
 彼女たちを見回したタマは、はじけるような笑みでこたえた。
「うん! みんな、ありがとうなの」
 四人にぺこりと頭を下げるタマ。友だちとの再会して和やかなムードになる彼女たちだったが――。
 翠、ミリア、サリア、ナターシャに加え、さらにタマのDNAを織り交ぜたセルフィッシュジーン・ウォーカーが、彼女たちの前に現れたのだ。
 五人はすぐに臨戦態勢をとる。先ほどはもふもふに興味がなかったため、子供とは認めずぼっこぼこにやっつけた翠たち。
 今回もためしに、サリアがわたげ大隊を解き放ってみる。
 するとどうだろう。今度のセルフィッシュジーン・ウォーカーは、ぱぁっと笑顔をうかべ、わたげうさぎに飛びついたではないか。
「そうだね」
「そうだもん」
「そうだわ」
「そうですね」
 もふもふに興味があったため、めでたく子供として認知されたようだ。
 タマも交えた六人で、わたげうさぎにじゃれあう少女たち。戦場における束の間の安らぎを楽しむ。
 わたげうさぎを撫でながら、ミリアはふと、こんなことを考えていた。
――遺伝子なんか操作しなくても、皆がもふもふを愛せば世界は平和になるんじゃないかしら、と。


         ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「私は必殺の透破裏逝拳を叩き込み続けるよ。――零が死ぬまでね」
 透乃が、ピンク色の闘気をまとう左拳を握りしめた。彼女が考えているのはただ零を殺すことのみだ。パートナーの陽子と泰宏もまた、透乃が攻撃に専念できるよう周囲を警戒しつづける。
 その洗練された裏拳を、透乃は零の顔面めがけて振り下ろした。
 ドゴン! という、轟音とともに大地が震動する。すさまじい破壊力だが、この技がなにより恐ろしいのは、打撃の衝撃を全て攻撃対象へ叩き込んでいることだ。これだけのダメージを受け続ければ、さしもの零もいずれ死ぬだろう。
 透乃は容赦なく透破裏逝拳を繰り出していく。こういうとき、殴るたびに「これは誰々の分!」と言ったりするが、透乃にはそれがなかった。
 零を殺すため。そして、己の技を磨くため――。
 これは私の分! これも私の分! これも私の分! とばかりに透乃は殴りつづけた。
 サンドバッグならぬ、ツリーバッグとなった零。
 透乃の拳が振り下ろされるたび、アトラスの傷痕が揺れる。