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 Episode2.ザンスカールウォーターパーク占領計画
 
 
「フハハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!

 ククク、このザンスカール・ウォーターパークは、我等オリュンポスが制圧した!
 人質共よ、痛い目にあいたくなかったら、全員大人しくするのだな!」
 人々を見渡し演説するのに丁度良い高さだからか、子供用ウォータースライダーのスタート地点の櫓の上から、高らかにそう宣言した、水着に白衣姿の男。
 何だ何だ、と、近くを歩いていたハルカ達が足を止める。
「あの方は……」
 颯爽と白衣をひらめかせる男を見て、アイシャが目を見開いた。
「さあ、戦闘員達よ、愚かな一般市民共を拘束せよ! 逆らう奴には容赦するな!」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)は、ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)を始めとする部下達に命令を下す。
「はいっ!」
 ペルセポネ達、櫓の下に控えている戦闘員達がわらわらと走り始めた時、

「――そうは、させません!!」

 アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が立ちはだかった。
 何故か水着に大剣装備といういでたちだが、プールなので仕方がない。
 ちなみに、勿論アルテミスや戦闘員達も水着である。プールなので仕方がない。
「む、邪魔が入ったか……」
「アルテミスお姉ちゃん……!」
 ペルセポネは悲痛な表情を浮かべる。
 びし、とアルテミスはハデスに対峙した。
「ハデス様……いえ、悪の科学者ドクター・ハデス!
 あなた達オリュンポスの悪事は、この正義の騎士アルテミスが阻止してみせます!」
 主にキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)と恋仲になるなど色々あって、悪の秘密結社から足を洗ったアルテミスは現在、正義の騎士として、オリュンポスの悪事を防ぐ為に戦っている。
「ククク、いいだろう。
 アルテミスよ、我等を裏切った報いを受けるがいい!
 行くのだ、ペルセポネよ!」
 ばっ、と大きく腕を払って、ハデスがペルセポネに命じる。
「アルテミスお姉ちゃん……。オリュンポスに戻って来てくださいっ!」
「ペルセポネちゃん! ハデスの悪事に手を貸してはダメです!」

 かつて、姉妹のように親しい仲間同士だった二人が今、悲しく対決する――


「……あのこれは……」
 おろおろと成り行きを見守るアイシャが、ハルカに訊ねた。
 見物客が周囲にどんどん集まっているのだが、誰も彼等に手を出さない。
「ヒーローショーなのです!」
と、手に汗握りながら、ハルカが笑って説明した。
「………………そっかなぁ」
 ぽつり、とトオルが呟くが、まあ否定はしない。確かにそれにしか見えない。本人達の意向はどうあれ。
 ハルカはすっかり見物の姿勢だし、アイシャも興味津々の様子なので、暫く様子を見ておこう、とトオル達も付き合う。
 見えやすいように、と、磯城(シキ)は腕に抱いていたぱらみいを肩車した。


 ハデス至上のペルセポネは、説得に耳を貸さない。
 というより、純粋で天然なので、ハデスが悪事を働いているという認識が無い。
「アルテミスお姉ちゃん、家出はダメです! 力尽くでも連れ戻します!
 機晶変身っ!」
 ペルセポネのビキニの水着が光の粒子となって消え、変身用ブレスレットによって、パワードスーツを装着する。
「お姉ちゃんを傷つけないよう、最低出力で!」
 ペルセポネは、構え持つビームブレードを、水着が破れる程度の威力に抑える。
 これなら全力で戦っても、アルテミスの被害はぽろり程度だ。
「仕方ありません……。ひとまず、気絶させるしかないですね!」
 二人はそれぞれ剣を構え、そして正面からぶつかり合った。
 装備の薄さは龍鱗化でカバーして、アルテミスはファランクスで護りを固める。
「くらいなさい、正義の鉄槌!」
「む、いかん、ペルセポネよ、リミッター解除せよ!」
 力勝負では、ペルセポネが不利だ。
 ハデスは素早く判断して、ペルセポネにパワードスーツのリミッター解除を命じる。
「はいっ!」
 ぐん、とペルセポネの動きが鋭くなる。
 しかしこれは、時間制限のある、危険な賭けでもあった。

 そして――

「きゃああああっ!」
 遠距離攻撃重視で行くも、アルテミスの猛攻を捌ききれず、決定打を与えることもできず、制限時間は過ぎて、突然ペルセポネの武装がパージされた。
 装甲は景気良くはじけ飛び、一糸纏わぬペルセポネは、あちこちを隠しながら座り込む。
「ぺ、ペルセポネ、大丈夫?」
 敵とはいえ、同じ女として可哀想で、アルテミスは思わず声を掛ける。
「おのれアルテミス、よくもペルセポネを辱めたな! 仕方が無い、戦略的撤退ッ!」
 相変わらず逃げの判断は早い。
 待機していた戦闘員達が、一気にペルセポネに群がり、衆目からペルセポネを隠す。
「愚民共よ、貴様等に暫くの猶予をやろう。だがいずれまた改めて、この地を制圧させてもらう!」
 捨て台詞を残しながら、ハデス達は、怒涛の勢いで走り去った。
「……ハデス様……」
 後には、佇むアルテミスが残される。
 きっ、と虚空を見つめ、決意を新たにするアルテミスに、見物客から拍手が送られた。


「楽しかったのです!」
「これがヒーローショーなんですね」
 和気藹々と語る二人の後ろで、一人トオルが、
「保養施設にでもするつもりだったのかなぁ……」
と呟いている。

 何はともあれ、今日も平和だ。