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【第十一話】最終局面へのカウントダウン、【第十二話(最終話)】この蒼空に生きる命のために

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【第十一話】最終局面へのカウントダウン、【第十二話(最終話)】この蒼空に生きる命のために

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 一時間後
 
「ありがとう。あなたの作ったデータ、見せてもらったわ。実装を急ぎましょう」
「頼むぞ。これが対スミス戦の要となるやもしれぬからな」
 廊下で会ったエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)からデータディスクを受け取るイーリャ。
 エクスはというと、ディスクを渡し終えるなりどこかへと走っていった。
 大方、パートナーである唯斗の所か、何かと気に入っている断竜の所だろう。
 
 イーリャは各所の改修状況を見て回っていた。
 機動兵器のスペシャリストである彼女は、迅竜はもとより、迅竜機甲師団が保有するすべての機動兵器の改修作業を統括する役目を任されていた。
 ゆえに彼女が六機の“竜”のもとへと足を運んでいたのは当然。
 
「ドクター・アカーシ」
 呼び止められて振り返るイーリャ。
 彼女に駆け寄ってくるのはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だ。
「クライツァール少佐、どうしました?」
 イーリャに向けて敬礼した後、ローザマリアは一枚のデータディスクを手渡す。
「盾竜……もとい艦竜の整備状況について相談と提案が。よろしいでしょうか?」
 小さく頷くと、イーリャは受け取ったディスクをHCに挿入する。
 すぐさま目を通したイーリャは、次いでローザマリアの後ろに控える機体へと目を向けた。
 
 彼女の見つめる先では今も大勢の作業員がひっきりなしに動きまわっている。
 彼女の仲間であるフィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)の二人はもちろん。
 ローザマリアのとある計画の為に必要物資を集め、走りまわってくれたエールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)アルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)も整備に参加してくれている。
 
 それだけではない。
 大量の銃弾やミサイルのカートリッジを吊り下げたクレーンも縦横無尽に動き回り、弾薬を受け取ったロボットアームもまた片端からそれを装填していく。
 一個師団かそれ以上はあろうとかという大量の弾薬。
 それはすべて一つの機体へと収められていく。
 
 もっとも、正確には機体というよりも艦体という方が近いかもしれないが。
 ――艦竜。
 大破寸前までいった盾竜が生まれ変わった姿。
 
 盾竜をコア・ユニットとし、小型の飛空戦艦をベースにしたウエポン・モジュールを装備したこの機体。
 かつての姿よりも内蔵弾薬量は増え、更には大容量電源の搭載によりかつては外部電源頼りだった装備も自立使用が可能となった。
 ゆえに戦闘力は申し分なく、輪をかけて破格。
 
 だが、その一方。
 整備性の劣悪さもまた、輪をかけてひどくなっていた。
 
 単純な巨体の巨大さと武装の多さからくる整備コストの増大だけではない。
 その巨体さゆえ、通常サイズのイコン整備用スペースでは収まらず。
 結果として、今この機体が整備を受けているここは大型艦用のドックだ。
 
 飛空艇の造船において大きな力を持つレティーシア家の私設ドックであったことが意外な形で幸いした。
 大型艦用のスペースが豊富にあるこの場所でなければ、場所の確保からして難儀しただろう。
 
「――クライツァール少佐。あなたの提案、早速実行に移させてもらうわ。もしもの時があってからでは遅いもの」
 イーリャに返答に敬礼で応えるローザマリア。
 挨拶して踵を返すと、イーリャは次いで別のブロックへと向かう。
 
 そこでは漆黒の機体が立ち並んでいた。
 その数七機。
 ――“グリューヴルムヒェン”・シリーズのシュバルツタイプである。
 
「あ、アカーシ博士」
 イーリャに気付いてかけよってきたのは、ティー・ティー(てぃー・てぃー)だ。
「シュバルツタイプの整備も順調そうで何よりよ。私からは、あれを――」
 イーリャが指さす先では、彼女の指示に応じて何らかの装置が漆黒の機体達へと組み込まれている。
「あれは……?」
「こんなこともあろうかと開発を進めていたの。シュバルツタイプは本来、専用の魔鎧を纏ったパイロットとの二人乗り方式。そして、あの魔鎧は『SSS』――専用のコクピットシステムとのリアルタイムな連携を行う、言わばウェアラブルコンピュータ。というより、文字通りの意味での『着るコンピュータ』ね。けど、あの機体に搭載されている『SSS』が無効化されたから、通常規格のコクピットに換装した」
「はい。だから、航さんと理沙さん以外にも、私達の誰かが乗る必要があるってことですよね?」
「ええ。でもあの後、解析に成功したの。だから、あれを開発できた。あれはね、エミュレータのようなものなの」
「エミュレータ……?」
「簡単に言えば機械に別の機械の動作を真似させる装置……のようなものかしら。たとえばPCのエミュレータだったら、本来ならば対応していないOSのソフトでも使えるようになるのよ。真似をする……あるいは別の言い方をすれば、『PCに対応しているOSの端末』だと思わせることでね」
「それはわかりました。なら、あれも何かを真似してるんですか」
「ええ。擬似的にだけど『SSS』を搭載している状態だと認識させてる。だから、本来の乗員――専属パイロットとパートナーの魔鎧の二人だけでも、当時と同じパフォーマンス……即ち、乗員フルの状態と同じ力を発揮できるはずよ」
「なるほど! さすがはアカーシ博士ですね!」
 感嘆するティー。
 それに微笑みを返すイーリャ。
 彼女に背に、また別の声がかかる。
 
「あら、高天原博士。どうしました?」
 振り返ったイーリャに高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)は携帯端末の画面を見せる。
「あなたの機晶アナライザーのおかげでやっとハーティオンの解析が終わったわ。大事な仲間のあいつをこんな風に言うのも何だけど、ずっとブラックボックスだったからね。おかげで助かったわ。ありがとう、アカーシ博士」
「いえいえ。同じ研究者としてお役に立てたなら幸いです。もちろん、それだけではないでしょう?」
「わかってるじゃないの。実はね、前からハーティオンのやつが言ってた案があるんだけど、ほら、まあ……そのプランのキモがあいつのブラックボックス部分だったおかげで実現が難しかったんだけど、例のものの解析が終わったから、めでたく実現可能になったってわけ」
 鈿女の見せる設計図に目を走らせ、イーリャは感心したように声を漏らす。
 そんな二人を見ながら、ティーは声を弾ませる。
「準備はばっちりですね。これならみんなを守れます」
 
 その言葉に微笑みを返してみせると、イーリャはレティーシア家の屋敷がある方を見つめた。
「後は、あの人達さえ回復すれば……」