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リアクション
「お邪魔します」
「こんにちは」
「まあ、理沙さん、雅羅さん、ようこそお越しくださいました」
白波 理沙(しらなみ・りさ)と雅羅・サンダース三世はチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)の屋敷に招かれた。
「あら、ノアさん。お菓子を持ってきてくれましたの?」
「ふふっ、今日のお菓子は結構美味くできました」
ノア・リヴァル(のあ・りう゛ぁる)が手作りのマフィンを差し出した。
「ノアさんのお菓子は美味しいから大好きですわ♪」
「いつもより自信作ですよ〜♪」
たしかに、今にも湯気をあげんばかりに膨らんだ可愛らしいマフィンはバスケットの中で夢見るように理沙たちを誘う。
「このお菓子もお土産に持ってきたので、是非食べてくださいね」
更にノアが差し出したのは、手作りのクッキー。
目の前に広げられたそれを、理沙はひとつ摘んで口に入れる。
雅羅も、それに倣ってみる。
さくり。
「美味しい……!」
「うん、美味しいわね」
2人の声に、ノアはふふっと微笑んで見せた。
「紅茶が入りましたわ」
鼻をくすぐる香りと共に、美麗・ハーヴェル(めいりー・はーう゛ぇる)が紅茶の入ったポットとカップを持って来た。
「まあ、美麗さん、すみません」
「いえいえ、お菓子作りはノア様に敵いませんからね。紅茶くらい、私にご用意させてください」
慣れた手つきでカップに紅茶を注ぎながら、美麗は優雅に微笑んだ。
「ではわたくしは、今日も何かピアノで演奏しようかしら」
そう言うと、チェルシーはピアノの前に座る。
「何かリクエストはございますか?」
「そうね……雅羅は?」
「うーん……」
温かく幸せな光景の中、理沙と雅羅は言葉を交わす。
それは、いつもと全く変わらぬ日常の光景だった。
――この日、世界が終る事を除けば。
最後の日とは思えぬほど、普通で、楽しい時間。
お菓子と紅茶の香りが漂い、ピアノの音が流れる空間。
今この時が本物で、終わりだなんて嘘だとさえ思えてしまう程に。
「……最後が独りじゃなくて良かったですわね」
ピアノを奏でながら、チェルシーが呟いた。
「最後の日と言っても、特に何も変わりませんわね」
ノアは歌を歌いながら頷き、美麗もそれに続ける。
「美味しい物を食べたり美しい音楽を聴いたりしながら皆でゆったりと過ごせる事は素敵な事だと思いますの。心残りはやはりこういう時間がもう無くなってしまう事くらいですわね」
「そうね」
理沙も同意する。
「もっと皆と一緒にいて、沢山の楽しい時間を感じて――」
ほろり。
理沙の瞳から、涙が零れ落ちた。
「終わりたくない……」
それは、後から後から溢れ出る。
「終わりたくないわよ……」
「……あ」
零れる涙と共に、理沙は目を覚ます。
「……夢?」
現実感を取り戻すと共に、安堵が心の中に広がっていく。
「行かなくちゃ」
涙を拭うと、理沙は起き上がり身支度を始める。
今日は、チェルシーの屋敷に招待されているのだ。
雅羅と共に。
ピンポーン。
「はーい」
チャイムの音にドアを開け――理沙は微笑んだ。
そして訪れた大事な人を、理沙はそっと抱きしめる。
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