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終りゆく世界を、あなたと共に

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終りゆく世界を、あなたと共に
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 ……世界が終る……いや、僕が捨てようとしているだけだ。
 高峰 雫澄(たかみね・なすみ)は重い体を引きずりながら、歩いていた。
 水を飲もうと泉を覗きこんだとき、己の姿が見えた。
 傷だらけの体、灰のような髪色、そして虚ろな瞳。
 どこかで見たことがある。
 誰かに似ている。
 自分ではない、誰か――そう、思った。
「ナスミ! 覚悟するぎゃ!」
 不意に殺気を感じ、振り向くとそこには親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)がいた。
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)が雫澄を倒すため差し向けた尖兵だった。
 何故……雫澄には直ぐ、その理由が分かった。
 罪を犯したからだ。
 いや、これから犯すのかもしれない。
 あるいは、そのどちらも。
 理解する前に、夜鷹は飛び掛かって来た。
 それを軽くいなすと、雫澄は夜鷹を切り捨てた。
「ぎゃ……! わ、わしは……オメーよりも、強い、はずだ……ぎゃ……」
 一言を残して、夜鷹は崩れ落ちる。
「やっぱり強いのね、ナスミは」
 聞き覚えのある声がした。
 箒に乗ったパピリオ・マグダレーナ(ぱぴりお・まぐだれえな)だった。
 警戒も攻撃する様子も見せず、パピリオは雫澄に近づいて行く。
「んふ、壊れたヒトって大好き……ほれぼれしちゃうかも〜」
 するりと、雫染みの首に手を回す。
 それでも、雫澄に反応はない。
 パピリオから、殺気は感じられなかったからだ。
「分かってくれる? ……殺しにきたんじゃないの、血がいっぱい流れてヒトが死ぬのをみたら昂ぶってきちゃったダケ」
 甘い息が、雫澄にかかる。
「……ねぇ、犯して? 『英雄色を好む』っていうでしょ?」
「……」
 無言のまま、雫澄はそれに従った。
 そして荒い息のまま行為を止めず、同様に息を荒げているパピリオに、その首に手を伸ばす。
「……ん」
 息を止められたパピリオが喘ぐ。
 しかし抗うことなく、パピリオの反応は弱々しくなっていく。
 その時だった。
 ぐさり。
 世界が赤く染まった。
 パピリオの生体反応が微弱になった時に動き出すようプログラムされていたブーストソードが、雫澄とパピリオに止めを刺したのだ。
(――とても、幸せよ)
 どさりと倒れる物体二つ。
(……だって、ナスミがいない世界は、なんだか、面白くなさそうなんだもの)
(だからナスミ…思い切り迷って、思い切り悩んで)
(ナスミの揺らぎは、あたしが、ぱぴちゃんがぜーんぶ観ておいてあげるから)
 雫澄の周囲には複数の骸。
 しかしそれらは片付けられることなく、そのまま世界の終りに飲み込まれ――

「う……あぁああっ!」
「どうした雫澄。汗だくだぞ」
 叫び声とともに目覚めた雫澄に、ホロウ・イデアル(ほろう・いである)が声をかける。
「あ……夢、だったのか……?」
「夢?」
「酷い……夢だった」

「雫澄、お前が見た悪夢。それは、俺の過去に限りなく近いモノだ。……差異はあるが」
「……え」
 雫澄から夢の内容を聞いたホロウは、そう告げた。
「解るか? 高峰雫澄。俺の言いたい事が……守りたい者がいるのならば、命を賭けて守れ。遠ざける事で守れるモノなど、ないと知れ。……絶対に、絶対に守り抜けよ」
「……何を言っているのか解らないよ……」
 そう答えながらも、雫澄にはそれがもう、分かっているような気がした。
「でも……きっと、大丈夫」
 だから雫澄はそう宣言した。
「僕は絶対に、大切な人達の手を離したりしない。それに、あの時にはいなかった“ホロウ”って言うパートナーが僕にはいるんだし、ね?」
 静かに微笑んで見せる。
「……にしても、何で夢の中にパピリオさんが……わぁ!?」
「あ、ナスミ、気がついた?」
 いつの間にか、雫澄のベッドの中にパピリオが忍び込み、雫澄の首に手を回して添い寝をしていたのだ。
「ど、どうやってここに……」
「んー……実力行使?」
 歪んだ窓枠を指差し、パピリオは笑う。
「おいパピ! アルが探してるぎゃ!」
 その窓の外から、夜鷹が呼ぶ声がする。
 その声には答えず、パピリオは雫澄を見つめ続ける。
「弱いわね、ナスミは……でも、何か恐ろしい強さもあるみたい」
「……ぎゃー? 強いのに弱い? ヨワイけどツヨイ? それが、パピがこの人間に執心する理由だぎゃ?」
 質問しようとして、夜鷹はぎょっと驚く。
 パピリオの顔に、微笑みが浮かんでいることに気付いてしまったからだ。
「異常気象だぎゃ! 天変地異だぎゃ! 明日は血の雨がふるぎゃ!」
 騒ぐ夜鷹を無視して、パピリオは誓う。
(……だからナスミ、ずっと迷って、ずっと悩んで……)
(ナスミが歩く道を、ぱぴちゃんはずっと観ていて、からかってあげるから♪)