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【2020修学旅行】欧州自由気ままツアー

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【2020修学旅行】欧州自由気ままツアー

リアクション


ルーブルに住む美女
 アスカたちは、美しいピラミッドの前に立っていた。
 ガラスのピラミッドは、日の光を反射して、まるで巨大なダイヤモンドのように光り輝いている。
 目を細めなければ、直視することができないほどの、それは強い輝きだった。
 四人は、ルーブル美術館にやって来たのだ。
「さっ。行きたい所を言ってちょうだい。作品の位置は全部覚えてるから案内兼解説してあげるわぁ」
 アスカは、軽く飛び跳ねながらルーツ、鴉、オルベールに言った。
 逆に、目的を持って作品を見に行かないと、広大なルーブル美術館は、一日ではとても全てをじっくり見て回ることができないだろう。
「はしゃぎすぎだろお前ら……。俺はメシのほうが楽しみだ」
 鴉は、やれやれといった様子でひとつ伸びをした。
 語尾に小声で「まあ付き合ってはやるがな」と付け足したが。
「結局来るなら、いちいち冷めたこと言わないで」
 そんな鴉に食ってかかったオルベール。
 だが。
「ま、今日は時間が貴重だから、やめとくわ」
 意外にも早くオルベールは引っ込んだ。
 そして鴉も、ふんと言ったきり黙っている。
 鴉とやり合うより、アスカとルーツに少しでも早く美術館を見せてやりたいと思ったオルベールだった。
 そして鴉も、内心では似たようなことを思っていたのである。
「じゃあ行き先は我が決める! 我はモナリザが見たい! パンフに載ってるコレ!」
 鴉とは陰と陽ほど対照的な様子で、ルーツはアスカにリクエストした。
「OK! じゃ、モナリザさんのところに行くわよ!」

 四人は、まっすぐモナリザの展示室にやって来た。
 その部屋は、ひんやりとした空気に包まれ、他の部屋とは違った雰囲気をまとっていた。
 そしてその部屋の中央に、彼女はいた。
 ガラスケースと、それを囲むロープに阻まれてはいるが、三人は正真正銘本物の、モナリザの前に立った。
「ほう」
 さすがの鴉も、少し感心した様子でうなずいた。
「お〜……これがモナリザ。不思議な絵だな……」
 はしゃいでいたルーツも、モナリザを前におとなしくなった。
 そう大きな声は出していないのだが、この部屋は声が反響する。
 ちょうどすいているタイミングだったため、他の客がいないことも原因だろう。
 それがまた、この部屋の不思議な雰囲気を演出する。
「モナリザはね、色彩の透明な層に上塗りするスフマート技法を用いてるの〜」
 さっそく解説を始めるアスカ。三人が聞いていようがいまいが、そんなことは関係ないのだろう。
 実際、鴉はほとんど聞いていない。
 一応オルベールがふんふんと相づちを打っている。
「だからこういった深みのある色の混合が生み出せるのよ♪」
 なんともいえない色の深み。
 パンフレットなどの印刷物では分からない、実物だからこそ見える表面の凹凸。
 じっと見ていたら吸い込まれそうになってしまう。
「この女性は、何を想って笑っているんだろう」
 おそらく、この絵画を見たほとんどの者が抱く疑問を、ルーツが口にした。
「彼女の笑顔についても、研究者の間では色々な解釈があるの〜」
「研究して、わかるものではないんじゃないのか」
 鴉がめずらしく口を挟んだ。
「笑顔の理由なんて、当人じゃなきゃ分からないだろ」
「……いいこと言うね。きっとその通りだ」
 ルーツは、大きくうなずいた。
「めずらしく、まともなこと言うじゃない」
 オルベールも、鴉の発言を認めた。反論の余地がないくらい、しっくりきたのだ。
「そうね。研究することっていいことだけど、それでも分からないことだってあるし、それに研究して解明しちゃったらつまらないよね」
 アスカは、そう言うと改めてモナリザの顔を見つめた。
 淡い笑顔。だけど、笑顔ではないようにも見える。
 人の感情、表情は「喜怒哀楽」だけでは表現できないほど繊細で、複雑だ。
 それを、こうやって観賞しただけで第三者が理解することなど、とうてい不可能なんだろう。
 アスカはそう思うと、すーっと納得したような気持ちになった。
 そう。すぐに答えが出るような問題ではないのだ。特に、人の感情が絡むような問題は……。
「……さて」
 ベンチに座って、しばらくモナリザを眺めていた四人だが、鴉がその沈黙を破って立ち上がった。
「俺はおまえらに付き合ったんだ。今度は俺の好きな場所に付き合ってもらうぜ」
 すなわち、食事である。
 鴉以外の三人はやれやれと苦笑し、立ち上がった。