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シャンバラ独立記念紅白歌合戦

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シャンバラ独立記念紅白歌合戦
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リアクション

 
「リコ、聞いたよ!
 ジークリンデがここに来てるかもしれないんだって!?」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が理子の下へやって来て、そう告げる。
「み、美羽、大きな声で言わないで、聞こえちゃう」
 理子が美羽の口を手でふさいで、横目でアイシャの様子を伺う。ステージに拍手を送るアイシャには、聞こえていないようだ。
「ぷわぁ! リコ、どうして黙ってなくちゃいけないのさ!」
「だって、ジークリンデがもしこの場にいることを知ったら、アイシャが……」
 
 知っての通り、公式にはアムリアナ女王は死んだことになっている。
 ここでもし、アムリアナ女王(正確には、外見が同じだけのジークリンデ……とも違う女性)が姿を見せれば、『女王が二人』という自体になってしまう。
 あの大国エリュシオンですら、長い歴史の中で帝が二人立てば、国が二分された。それと同じ事態が、いや、もっと酷い事態が起きない保証は、どこにもなかった。
 事ここに至り、理子はジークリンデに招待状を出したことを後悔し始めていた。
 自分の行為は、国家神のパートナーとして相応しくないのではないか――。
 
「リコ!!」
 
 パーン、と乾いた音が響き、そして理子は、美羽に頬を叩かれたことに気付く。
 
「リコはジークリンデのこと、何だと思ってるのさ!」
「そ、そりゃ、友達だって思ってるわよ!」
「友達同士が会うのに、理由なんていらないよ!
 会える時に会っておかなかったら、会えなくなった時にとっても後悔するよ!」
 
 うっすらと涙を滲ませながら声を張り上げる美羽は、シャンバラ統一を決定付けた戴冠式の後、大切な友達である瀬蓮とアイリスと離れ離れになる運命を味わっている。
 方や理子は、今生の別れと思っていたジークリンデと再会する機会に恵まれている。普通なら、美羽は理子を恨んだっていい。
 でもそうしないのは、美羽にとって理子は今でも、ライバルでありそして親友だからである。
 
「……ゴメン、美羽。あなたの気持ちも考えないで、私……」
「いいの。瀬蓮ちゃんとアイリスと、別れちゃったのは事実だから。
 だけど、私はまた会えると思ってる。そして、瀬蓮ちゃんやアイリスにも、また会えるんだって思ってもらいたい。
 ……だから、リコもジークリンデに、伝えてあげて。一度は離ればなれになっちゃったけど、また笑い合いたい、って」
 
 ステージで一緒に歌おう、と誘いの手を伸ばす美羽、その手をしっかりと理子が取る。
「……うん。どこかに隠れてるジークリンデなんて、あたしの歌で引っ張り出してやるんだから!」
「そうそう、その調子だよ、リコ」
 こうして、二人はステージの段取りを決め、最も効果的なその時まで、一旦別れる。
 
 
「なあ、俺からも頼むぜ。日本の紅白でもほら、最後にあの曲流れてただろ? あんな感じでさ、皆が歌えるようにしてくれるだけでいいんだぜ?」
「うーん、それは流石にちょっと厳しいですー。最後はアイシャさんたちに締めていただくのが、多くの皆さんが納得していただけると思いますー」
「ちょっと、あたしは乙王朝の帝よ。エリュシオンの帝(との契約の話)も退けたわ。
 少なくとも、シャンバラの国家神と同列に扱ってもいいんじゃない?」
「そ、そんなこと言われましてもー。それを言うなら私だって元日本の天皇ですー」
「え、えっと……喧嘩はよしましょう、ね?」
 
 そんなこんなのやり取りがあって、結局風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)の提案した『オオトリを乙王朝の国歌で飾る』案は、何やら生徒たちの要望を受け付ける係になってしまった感のある豊美ちゃんと横山 ミツエ(よこやま・みつえ)の激しい攻防の末、退けられてしまった。
「まったく、失礼しちゃうわね! いいわ、歌う機会を得られたことは、よしとしなくちゃね。
 優斗、当然あなたも手伝ってくれるわね?」
「そうですね。せっかく参加した以上は、乙王朝の勇名をシャンバラ中……いえ、世界に広めましょう!」
 まあ、歌える機会に恵まれたことはよし、と納得し、出番を待つ二人。
「ところで、歌詞の方はちゃんと考えてきてるのよね?」
「え? てっきりミツエさんが考えてきているものと思いましたけど」
「……は!?」
 
 どうやら、曲は出来ていたものの、お互いの思い込みにより、歌詞が出来ていなかったようである。
 
「ちょっと、どうすんのよ! 歌詞がなくちゃ歌えないじゃない!」
 憤慨したミツエが優斗に詰め寄るが、そうしたところで歌詞が出てくるわけもない。
 
「あのー、歌詞がないなら、皆さんで考えればいいんじゃないでしょうかー。
 国というものは、皆さんがいて初めて成立するものですよ」
 
 そこへ、豊美ちゃんが助け舟を出す。流石日本の天皇、言葉の重みが違う。
「……それもそうね。分かったわ、あたしに任せておきなさい!」
 何か案があるようで、ミツエが意気揚々とステージに上がっていく。
 
「乙王朝に関わる全ての者に命令よ!
 今から流れる曲は、乙王朝国歌となるべき曲。この素晴らしい曲に相応しい歌詞を、あんたたち考えなさい!
 ろくでもない歌詞送ってきたら、饕餮でぶっ飛ばすからね!」

 
 と、ステージ上で曲を流しながら、直接歌詞を考えることを訴えるミツエであった――。
 
「良い試みですね。私たちもやりませんか?」
「何をだ?」
「シャンバラ国歌の歌詞を、皆さんで考えるのです」
「面白そうだな、やるぞ!」
「……マジ?」
 
 果たして、三人の会話は実現するのであろうか――。
 
 
「続いて俺が行くぜ!
 俺の、ルミーナさんへの想いを綴った歌を、聞いてくれ!」

 
 優斗の次は風祭 隼人(かざまつり・はやと)が、今この時もまだナラカにいるはずのルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)への想いを込めた歌を歌う。
 
 『今年も、ルミーナさんのことが好きで。
 その気持ちは、来年も再来年もきっと変わらなくて。
 今以上に好きって思えるくらい、俺の全てで。
 きっと、俺にしか言えない言葉を思いついたから、来年こそはナラカからルミーナさんを助け出して、その時に言いたい。
 心まで交わしたい想いを、ルミーナさんへ届けたい――』

 
(ルミーナさん、俺の想いは伝わっているかい? 皆の想いも届いているかい?
 シャンバラは統一・独立を果たしたよ……ルミーナさんが願っていた事の1つがようやく叶ったぜ!)
 
 勝ち負けや点数など気にしない、強く想いを込めた歌声が、ステージから会場へと飛んでいく。
「ルミーナさん、隼人さんにとっても愛されてるんですね」
「そうみたいね。いいんじゃないかしら。ルミーナが認めるかどうかはまた別の話だけど――」
 ミーミルの言葉に環菜が答えたところで、次のステージに立つ人影を見、環菜が血相を変える。
(……嘘!? ちょっと、どうしてあなたがそこにいるのよ!)
「? カンナ、そわそわしてどうしましたかぁ? オシッコですかぁ?」
「……違うわよ。仮にもイルミンスールの校長が、そんなはしたない言葉を使わないでほしいわね」
「な、なんですってぇ!」
「エリザベートちゃん、落ち着いてくださいね〜」
 エリザベートをからかうことで気を落ち着けた環菜だが、視線はしっかりと、ステージに立つ影野 陽太(かげの・ようた)を捉えていた――。
 
 それよりほんの少し前。
「うぅ、やっぱりちょっとは緊張するねー。うまく演奏できるかなー」
「ふぅ。最近のわたくしは『スパルタ魔女』改め『気配り魔女』な感じですわね。
 ……ノーン、ここ、リボンが曲がってますわ」
「あっ、ありがとーおねーちゃんっ」
 出番を待つ陽太とノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)に、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)がやって来て色々と世話を焼く。陽太が作った歌詞にノーンが曲をつけ、そのノーンはエレキギターで演奏することになっていた。
「まあ、見ててやりますから、精一杯歌ってくるのですわ」
 そして、エリシアに見送られて、二人がステージに上がる。クロセルの紹介を受け、ノーンがバックバンドのメンバーと共に支度を整え、その時を待つ。
(……愛する環菜の力になりたい。
 環菜を幸せにするためなら、何だって出来る!
 人前で歌うことだって平気だ!!)
 自身に言い聞かせるようにして、陽太がマイクを握り締め、声を発する。
 
 いつでも、いつまでも貴女の側(そば)にいます
 貴女と過ごす“時間”が俺の人生です
 どこでも、どこまでも貴女と共に在ります
 貴女と生きる“場所”が俺の世界です
 
 貴女の“笑顔”が俺の宝物です
 だから、貴女の“想い”を聞かせてください
 貴女のためなら俺は“奇跡”を起こせます
 
 貴女のことを世界で一番、愛しています
 だから、貴女のためなら俺は“奇跡”を起こしてみせます

 
 『貴女のために』と題打たれた曲を歌い切り、陽太がふうっ、と大きな息を吐く。
「おにーちゃん、わたし、うまくできたかなー?」
「……ええ、とっても、いい演奏でしたよ」
「えへへー♪」
 陽太に頭を撫でられ、ノーンが満面の笑みを浮かべる。そんな二人へ、拍手が送られる――。
 
 涼司:9
 鋭峰:6
 コリマ:7
 アーデルハイト:8
 ハイナ:7
 静香:8
 
 合計:45
 
「なんとも無様で不恰好な歌い様ですけれど……かえって、それで陽太の懸命さが伝わって来る感じがしますわね」
 舞台袖でステージの行方を見守っていたエリシアが、ぽつり、と呟く。
「ま、労うくらいはして差し上げますわ」
 ステージから引き上げてくる二人を、エリシアが出迎える――。

「環菜さん、陽太さんにとっても愛されてるんですね」
「……………………」
 ミーミルの言葉に、環菜は何も答えられなかった。どことなく、頬や耳が赤い。
「あれあれぇ? もしかして二人、デキてるんですかぁ? 私ビックリですぅ」
「……今、心からあなたをナラカ送りにしたいって思ったわ。ナラカを見てきた私になら出来るんじゃないかしら」
 バチバチ、と二人の間で火花が散る。二人にとってはいつもの光景なのだが、それをよしとしない者がいた。
 
(あの二人、またケンカして……! 仲良くしろとまでは言わないけど、せめてケンカはやめなさいよ!)
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が心に文句を呟き、もしもの時のためにと一応番号の交換だけはしておいた、明日香に電話を掛ける。明日香がエリザベートを紅白歌合戦に引っ張り出すと聞いて、環菜とエリザベートの仲をどうにか解きほぐせないかと考えた末の、ある策を実行に移すため――。