天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ独立記念紅白歌合戦

リアクション公開中!

シャンバラ独立記念紅白歌合戦
シャンバラ独立記念紅白歌合戦 シャンバラ独立記念紅白歌合戦 シャンバラ独立記念紅白歌合戦 シャンバラ独立記念紅白歌合戦

リアクション

 
「環菜さん、回復おめでとうございます!
 私、ほんの少しでも、ナラカで環菜さんのお手伝いが出来て、嬉しかったです」
 環菜とエリザベートの下にやって来たソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、環菜が無事に帰ってきたことへの嬉しさを滲ませる。
「あなたたち、ナラカに行ってたんですかぁ? よくやりますねぇ」
「私の人徳があってのことかしら? ええ、その節はありがとう、感謝しているわ」
 むむむ……と唸るエリザベートのジト目をあえて無視して、環菜がソアに答える。
「うんうん、やっぱこうじゃなくちゃな。
 イルミンスールと蒼空学園の関係は、互いに競い、高め合うことが出来る『良きライバル』。
 そして、その象徴的存在がエリザベート校長と環菜。
 会う度に憎まれ口言ったりしてっけど、心の底では相手のことを認めているような、良いライバル関係だと思うんだよな」
 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)の言葉に、エリザベートと環菜が同時に、『あなた何を言ってるの?』的な視線を寄越してくる。
「ふふ、ベアの言う通りですね。
 ……あっ、そろそろ時間ですよ、ベア」
 時計を見、ソアがベアに頷く。二人は紅白歌合戦への出場を予定しているのであった。
「ソアお姉ちゃん、歌うんですか? 私、精一杯応援しますね♪」
「うん♪ じゃあ、行ってきますね、ミーミル」
 ミーミルとも言葉を交わして、そして二人はステージの準備をするべくその場を離れ、控え室のある場所へと向かっていく。
「……あ、環菜さん。その首にかけられているのは……」
「ああ、これ。……そうね、私のことを大事に思ってくれる人からの贈り物よ」
 言って環菜が、銀製のチェーンを手に載せる。
「んー? カンナ、それはもしかしてぇ――」
「言っとくけど、あなたが想像してるようなのじゃないわよ。……とにかく、大切な人よ」
 私がここにいることを知ったら、きっと彼は身を呈して護衛しに来るだろう。
 そんな確信めいたものを、環菜は心に抱いていた。
 
 エリザベートと環菜が、前のように生き生きと言い合いをしているのを見、樹月 刀真(きづき・とうま)が安堵の表情を浮かべる。
 ……だが、それも束の間のこと、直ぐに表情が冷たくなっていく。
(俺は、彼女を守れなかった……)
 刀真の脳裏に、目の前で首を斬られ、冷たくなっていく環菜の姿が思い出される。
 事前に、環菜が“神”であること、その身に危険があることを警告され、彼女への警備を念入りに行なっていたにも関わらず、環菜は『殺された』。
(そして、白花……。
 俺は、敵を討ち果たすことは出来ても、自分の大切なものは何一つ守れていなかった……)
 マホロバの地で、刀真はパートナーの一人を世界樹に取り込まれる形で失った。
 取り込まれることは、彼女が望んでしたことだということが分かっていても、なお守れなかったことへの無力感が自身を苛む。
(俺は……『死神』は死を振るい、死を与え、死を背負い終焉へ向かう。
 その途中で出会い、共に行く者が出来ても、俺はその者達を幸せにする事はできない。
 ……俺は、道を別つべきだった)
 刀真が、自身の手をじっと見つめる。やがてその手に血が滲み、そこからキラリ、と輝く何かが零れ落ちていく。
 ギュッ、と目を閉じ、もう一度開けば、そこには厚く皮の張った自身の掌が映るのみ。
(俺の行き着く果てに、俺が数多の命を奪ってきたことで生まれた亡者、罪、それらがあるなら。
 なおのこと、俺は道連れを作るわけにはいかない。……今からでも遅くはない、道を別つべきだ。
 そして、必要なら俺が、当人達の与り知らぬ所でその身を脅かすものを殺し護れば良い)
 刀真が視線を上げる、その先には微笑む環菜の姿がある。
(……この行為が、環菜を傷付ける事は分かってる。
 しかし彼女を助ける人は多く、彼女は幸せを得ている。ならばいつか、傷は癒えるだろう。
 俺はただ独りで在ればいい。他人は不要だ……。
 心を鋼鉄に変え、全ての感情を殺し、余分を切り捨て事に全力で挑み、ただ結果を出す事で己に満足しよう)
 
 会場の見取り図から、ステージや審査員席を襲撃・狙撃出来るポイントを探り当て、その場所をスナイパーライフルで狙撃出来るポイントに陣取り、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が周りの雰囲気になるべく溶け込むように警戒を続ける。
(環菜は帰ってきたけど……。
 白花と扶桑の事があって刀真の様子がおかしい。……嫌だな)
 刀真のことを思い、月夜が表情を曇らせる。
 と、そこに偶然を装い、橘 恭司(たちばな・きょうじ)が姿を見せた。
「月夜も警備ってところか?」
「……うん。刀真が環菜を護ることを望んでいるから」
 表情を変えず、月夜が答えるのを、恭司がため息をついて聞く。
 
(刀真……早まるなよ。
 お前が人を辞めることで、どれだけの人が傷つくと思っている?)
 
 刀真の所へ行く、と言い残して去っていく恭司の背中を、月夜がやや表情を持ち直して見つめる。
(……大丈夫。恭司も、他の友達も、刀真の事を気にかけてくれている)
 後は、自分のやるべき事をするだけ。そう思い至り、意識を改めたところへ、携帯が着信を知らせる。
『ふふ……そろそろ、辛抱ならなくなってきたんじゃないのか? いいんだぜ、揉まれたくなったらいつでも言えよ』
「……切っていい?」
 ヴァレリー・ウェイン(う゛ぁれりー・うぇいん)の妖艶混じりの声に、静かな怒りを内包した声で月夜が返す。この人に会場警備を手伝ってもらうよう頼んだのは、大分間違いだったのでは、そんな思いがし始めていた。
『冗談だ。俺様とて、つかさが危険な目に遭うような事態は好まない。
 ……最近どうも不安定なところがあるからな』
 彼女の主である秋葉 つかさ(あきば・つかさ)は、マホロバの将軍から“托卵”を受け、“子供”を授かった。その代償として胸を失い、他にも変化が見られるようで、そのことをヴァレリーは本人なりに気にしているようであった。
『だから、後でお前の乳を揉ませろ。
 今のつかさより大きいヤツなら、誰でも歓迎だ』
「……………………」
 プツ、と無言で通信を切り、フン、と息を吐く。少しでも共感を得た自分が馬鹿らしく思えてくる。
「そんなに揉みたければ、玉ちゃんのにすればいい」
 紅白歌合戦が終わったら、確実にヴァレリーは(ゴム弾で)頭を撃ち抜いておこう。
 そう強く誓う月夜であった。
 
 談笑を続ける環菜の下に、刀真が現れる。
「ご苦労様。特に変わったことはないかしら?」
 言いながらごく自然に、環菜が首の鎖を外し、刀真に手渡す。
「ええ、何もありませんよ環……“御神楽さん”。
 貴方には全く関係が無い、安心してご歓談ください」
 いつものように【禁猟区】を施し、鎖を返す刀真、その表情は冷たいを通り越して、何も映していなかった。
「……何のつもり?」
 刀真の言葉を聞いた環菜の表情が険しくなる。ミーミルとエリザベートは気付かない(明日香は気付いているかもしれないが、知らん振りを装う)、一触即発の事態が迫りかけたその時。
「おおっと手が滑ったー!」
 スパーン、と刀真の背後から、恭司が手にしたハリセンで刀真の頭を叩く。
「痛っ……恭司!? いきなり何すんだよ!」
 振り返り文句を吐く刀真、そこには“人間らしい”表情が戻っていた。
「何をするだと? フラグ持ちが孤高のヒーロー気取ってんじゃねぇ!」
「話が見えないぞ!?」
 恭司の乱入により、場の張り詰めた空気が霧散していく。
「? 恭司さん、どうして刀真さんの頭を叩いたのですか? 刀真さん、なにか悪いことをしたんでしょうか?」
「……そうね。きっと悪いことだわ」
 受け取った鎖を首にかけ直して、環菜が小さく呟いた。
 
(ふふ……なにやら面白いことになっとるのう。
 余計な心配だよ……例え刀真が独りになろうとしても、我らとの契約がある以上、我らが彼奴を放っておかないのだからな)
 刀真と恭司のやり取りを横目に、玉藻 前(たまもの・まえ)が不敵にも取れる微笑を浮かべる。
(彼奴が好きで傍にいた凸女から自ら離れるんだ、我からすれば都合が良い。
 ……まあ、刀真にすれば、立て続けに身近な者を守れず弱っているからこそ出た考えなのだろうがな)
 故に、例えば恭司などは、落ち込んでんじゃねぇ、立ち上がれ、前を向け、諦めるな、という態度で接している。
(何、刀真が凸女から離れた事で更に傷付き落ち込んだら、そこにつけ込み我らが閨で慰めてやればいい。
 何より、殺す為だけに在る彼奴は我の好みだ、できれば今のままでいて欲しいのだよ)
 一方前はというと、大分方向性が違う。だが、これもまた、刀真を思ってのこと。もう一人のパートナーである月夜はまた違った考えを持っているだろうし、前の考えには反対するかもしれないが――。
「何を言う、我は元からこうだよ」
 まるでその場にいる月夜に言い放つように、前が飄々として呟く。
 
「よし、ご主人、似合ってるぜ」
「うぅ、やっぱり、緊張しますね……それに、ちょっと、恥ずかしいです……」
 控え室で『魔法少女ストレイ☆ソア』の格好に着替えた(衣装はベアが用意した)ソアが、鏡の前で恥ずかしげな素振りを見せる。
「ここまで来たら、後は歌うだけだぜ!
 俺様の詞と、ご主人の曲で、明るく楽しく思ってもらえるステージにしてやろうぜ!」
 ソアとベア、二人で作った歌は、エリザベートと環菜の関係から、ひいては東西シャンバラの関係への想いが込められていた。
「……そうですね。
 二人が無事に再会できたんです。その嬉しい気持ちを、私は伝えたいです」
 そこへ、扉が叩かれ、スタッフがスタンバイの旨を告げる。
 ぐっ、と拳を握って、ソアはステージへと向かっていく。
 
「次の曲は、『東の黒猫さん、西の白猫さん』。可愛らしい曲が期待されますね。それでは、どうぞ!」
 エレンの紹介を受けて、ソアがステージに上がっている……はずだが、本人の姿が見えない。
 照明の落とされたステージを見、疑問の声が会場のあちこちから上がり始める――。
 
「マジカルステージ♪ オープン♪」
 
 そこへ声がかかり、ベアの合図で照明が灯され、ステージに魔法少女姿のソアと、周りを取り囲む数匹の猫――ソアの使い魔である――が出現すると、どよめきは歓声へと変わる。
 
 ボクらの街の人気者 とっても可愛い 2匹の猫さん
 東の方の住宅街には イタズラ好きの黒猫さん
 西の方の商店街には ちょっぴりクールな白猫さん
 ある日ある時2匹が出会って たちまちおどろき大喧嘩!

 
 猫たちが奏でる声、というか鳴き声に、猫好きの観客はもちろん、特にそうでもない観客も和むような顔に変わっていく。
「にゃーにゃーにゃーにゃー♪」
 猫たちに囲まれ、猫真似をするソアに、何やら野太い歓声が上がっているが、そこは気にしてはいけない。
 
 それからというもの 猫さん達は 毎日街中追いかけっこ
 「どっちが速いか勝負だにゃ!」
 「あなたに負けるわけないにゃ」
 
 いつしかボクらも加わって 毎日街中大騒ぎ
 「黒猫ちゃんが一番可愛い!」
 「いやいや白猫様こそが……」
 
 けれども なぜかな 猫さん2匹
 なんだかとっても楽しそう!
 
 そうだ はしゃごう ボクたちみんなも
 にゃーにゃーとっても楽しいにゃー!

 
「にゃーにゃーとっても楽しいにゃー!」
 もう一度フレーズを繰り返し、ぺこり、と頭を下げるソアへ、かわいい〜という声と、かわいい〜という声が木霊する。
「…………」
「お、どうした。珍しく悩んでるじゃねぇか」
「……時には、深い思慮も必要だろう」
 そんなやり取りを交わしつつ、審査員たちが採点の結果を発表する。
 
 涼司:8
 鋭峰:9
 コリマ:7
 アーデルハイト:9
 ハイナ:7
 静香:9
 
 合計:49
 
 
「つかさ、あなた、胸が――」
 『アキマス』同様、つかさと【ろりぱい魔法少女】を組むことになった加能 シズル(かのう・しずる)が、つかさの変わり果てた(主に胸)姿を見て驚きの声をあげる。
「ああ。少々事情がございまして。ですが、些細なことです。
 本日主に見ていただくのはシズル様なのですから」
「……あなたが何も言わないのなら、私も何も聞かないでおくわ。
 もし、あなたが言いたくなった時には、私はあなたの話を聞く」
 つかさの態度を見てのシズルの言葉に、つかさがなお畏まった態度を取る。
「ありがとうございます。……さあ、私たちの全てを皆様に、思う存分のぞいてもらいましょう」
「……本当にやるの?」
「もちろんです。前回もステージに立たれているのです、度胸はついているでしょう。
 それに練習もしてきました。何も恐れるものはございません。ありのままを晒せばいいだけなのです」
「……言い方が引っかかるけど、まぁ、いいわ。
 シャンバラ統一を祝う式典に関わる一員として、責任は果たすつもりよ」
 凛とした表情で言い放つシズルを、つかさが羨望の眼差しで見つめる。
「次は、『ろりぱい魔法少女』のお二人、曲は『私たちの全てのぞいてみてくださいませ』。それでは、どうぞ!」
 ステージから、おそらく非常に言い辛いであろう言葉を、表情を変えず淡々と読み上げたエレンの声が届く。
「参りましょう、シズル様」
「ええ」
 そして、つかさとシズルが、ステージへと上がる。
(おっ、来たか。ったく、なんで俺がシズルの分まで手ぇ貸さなきゃなんねぇんだよ……)
 先にステージに潜んでいた蝕装帯 バイアセート(しょくそうたい・ばいあせーと)が心で悪態を吐きつつ、口上を述べる二人に合わせて魔法少女へと変身させる。見えそうで見えないギリギリズムな光景に、主に男性客が前のめりになる。
「んんっ……ああ、どうですか、皆様……?
 私たちの全て、その目に焼き付けてください……」

 マイクをいやらしく握り、つかさのある意味で癒しの声が会場を包んでいく。チラリ、と横目でシズルの様子を伺うと、頬を朱に染め、恥ずかしがりつつも務めを果たそうとする姿が見えた。
(……シズル様は、シャンバラ統一を祝うためとおっしゃいましたけれど……。
 正直、私には国がどうであろうが構わないのです)
 ただ、と付け加え、つかさが心に呟く。脳裏には、自身が産み落とした“子供”の姿があった。
(この世界には、誰かを想う誰かが居る。私にも、貞嗣という護る存在が出来ましたからね。
 それに……シズル様にあのように言っていただけて、私は嬉しく思います。誰にも想われない、というわけではないようですね。
 シズル様、巻き込んでしまい申し訳ございません。あと少ししかお会いできないかもしれませんけれど、それまではどうぞ、お付き合いくださいませ)
 謝罪とも取れる呟きを漏らしたつかさが、姿を隠すバイアセートに目配せする。
「ふんっ、いいんだな? その本性、さらに観衆に晒すがいいさ!
 散々嬲り尽くしてやる、どんな事になろうと知ったことか!」
 顔を歪ませたバイアセートが指をくい、と動かすと、二人の着ている服の締め付けが強くなる。
(んっ……何だ、急に締め付けが強く……ああっ!)
「ああ、いいです……あなたの視線、感じますぅ……
 見てぇ……その目で、もっと私をメチャクチャにしてぇ……」

 もはやステージと言っていいのか(いや、ある意味でステージだが)分からない中、曲が終わると同時につかさが身体を震わせながら倒れ込む。
「ちょっと、またなの? もう……こっちの身にもなってほしいわね」
 自身も荒い息を吐きながら、シズルが半ば放心状態のつかさに肩を貸し、ステージから去っていく――。