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恐竜騎士団の陰謀

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恐竜騎士団の陰謀
恐竜騎士団の陰謀 恐竜騎士団の陰謀

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6.動きだしている人たち



「ただいま………っと、アレ?」
 夜も更けた頃、いつもの隠れ道を使って極光の谷に潜り込んだ芦原 郁乃(あはら・いくの)は、休憩所に誰の姿も無い事に首をかしげた。
「向こうが騒がしいですね。行ってみましょう」
「うん」
 蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)が言うように、ここから離れた休憩所のところだけ、いつもより多くの焚火が灯っている。それに、松明を持った人が集まっているようだ。
 なんだかよくわからないが、とにかくそこへ向かうと、バケツに水をいっぱい入れて走る浦安三鬼(うらやす みつき)魔威破魔三二一(まいはま みにい)に出くわした。
「ねぇ、どうしたの? 何があったの?」
「事故だよ、事故! 何も考えずに掘り進めて落盤させちまったんだ」
「とにかく水が持ってこいって、それじゃ急いでるから」
 二人はそれだけ言うと、人ごみを掻き分けて輪の中へと入っていく。
「主、わたし達も」
「うん、放っておけないよ」
 二人も人ごみを掻き分けて中へ、既に人を助け出す作業は終わっているらしく、その治療を行っているようだった。医療の心得がある人が頑張っているようだが、どう見ても手が足りていない。
「私も手伝うよ、何すればいい?」
「助かる。怪我の度合いは奥の奴の方が酷い、そっちから見てもらえるか」
 声をかけられた姫宮 和希(ひめみや・かずき)は、手早くそれだけ言うと自身も忙しく走り回る。彼女は、自分で持ち込んだ薬で比較的怪我の浅い人を見ているようだ。重傷者は、医療の心得がある人でないと余計に危険だという判断なのだろう。
 治療そのものに参加していなくても、松明を持って照明代わりにしたりとできる範囲でできる事をしているらしい。
「主」
「わかってる」
 マビノギオンに促され、郁乃は重傷者の居る奥の方へと向かう。
 こうして、夜通し治療作業は続けられた。



「こんなところで、何してるんだ?」
 人影も珍しい荒野の中、ふと歩く姿を見つけ天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)はなんとなくに声をかけた。
「恐竜騎士団の人ですか?」
 声をかけられた七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が、そう返す。
「いや、俺は別にそういうわけじゃ」
「でもそれ、恐竜ですよ」
「ああ、この間怪我しているのを見つけて治療してやったら懐かれてな。その縁で風紀委員と顔なじみにはなったが………あいつらに用事か?」
 言いながら、ヒロユキは騎乗していたヴェロキラプトルから降りる。
「そうではありませんが、今ちょっと人探しをしていまして………石原校長の所在って、わかりませんか?」
「石原校長か、そういや最近は姿を見せて無いって話だったな。けど、どうして石原校長を探してるんだ?」
「それは………その………」
 口ごもる歩の姿を見て、ヒロユキはなんとなく彼女が石原校長を探しているのには、恐竜騎士団が関わっているんだろうと思い至った。大方、なぜ風紀委員という役職を与えているのかという疑問を解決して欲しいのだろう。
 とは言っても、ヒロユキは石原校長の考えなんて知らないし、もちろん居場所もわからない。
「どうでもいいけどさ、こんなところを一人で歩くのは危ないぞ」
 せいぜい、言える言葉なんてこれぐらいだ。
「あ、はい。そうですね」
 言うべきことはこれで十分。それに、恐竜の散歩もそろそろ終えて谷に戻らなければならない時間だ。なのだが、ヒロユキは風紀委員ではないにせよ、恐竜騎士団とは顔馴染みで、彼らが言われているほど残虐な事を、そこまでは、していない事も知っている。
 決していい人ですよ、と胸を張って言えるわけではないが、かといって噂だけで悪人呼ばわりされるのも少し心苦しい。
「石原校長が何を考えてるかはわからないが、恐竜騎士団を風紀委員にしたって事にはちゃんと意味があるんじゃないか? それじゃ、俺はもう行くから。あんまり一人でうろうろしてると、何があるかわからないか気をつけろよ」
 それだけ言うと、ヴェロキラプトルを走らせてヒロユキはその場を立ち去った。
「だから、その意味が知りたいんです」
 歩がそう呟いた時には、もうヒロユキの姿は豆のように小さく遠く離れていた。



 昼過ぎになる頃に、やっと負傷者の治療に一段落ついた。
 夜通し、そのうえ朝になっても動き回った治療を行った人たちは、みなボロ雑巾のようだった。
「ご苦労様」
 そんな彼らの元に、弁天屋 菊(べんてんや・きく)が料理の乗った大きな葉っぱを持って彼らに声をかける。
「とりあえず一段落ついたんだろ、これ食って少し安め」
 と、差し出されたのは謎肉料理だ。ある日を堺に、大量に持ち込まれたこの謎肉は極光の谷の中での数少ない動物性たんぱく質である。しかし、今日になっても何の肉だかわからないまま、それでも空腹なら食うのが人間というものである。
「ああそうだ。今、ご飯食べられない人にはコレを配ってあげて」
 郁乃が和希に小さな小袋を手渡す。
「これは?」
「ふっふっふ、これはね忍者飯って言うものでね、見てもらえばわかるけど、豆みたいに小さいけどすっごく栄養がぎっしりつまってるんだよ。これを、噛まずに飲み込めば一日分以上の食事になるよ」
「へぇ、便利なもんがあるんだな」
「桃花ちゃんに作ってもらったの」
 この忍者飯を製作したのは、この場には居ない秋月 桃花(あきづき・とうか)である。なんで彼女が作ったのかは、えぇと、うん、察してください。
「たくさん用意してあるから、例の日まで持つと思うよ」
「例の日というと、ついに日程が決まったのね?」
 会話に入ってきたのは、親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)だ。彼女も治療に参加していたので、少し顔に疲れが残っていたが、今の一言でだいぶ持ち直したように見える。
「うん、決まったよ。それで………、三鬼と三二一のアレはまだバレてないんだよね」
「ああ、それは大丈夫だ」
 恐竜騎士団がここで発掘をさせている理由でもある極光の琥珀は、三鬼によって既に発掘はされてしまっている。理由はわからないが、重要なものであるらしいコレをそう引き渡すわけにはいかない。
 三鬼と、そのパートナーである三二一も同じ意見だ。他に、和希達だけでなくコウや弥十郎らも協力している。もっとも、武器を取り上げられ監視されている状況のため、食事に気を配りその日が来るまで体力を維持するのが内側でできる数少ない努力だ。
 その努力も、そろそろ芽吹きそうであるというのが、郁乃の持ってきた情報なのだ。
「けど、どうしよう。怪我人を置いていくわけにはいかないよね」
「まだ時間はある、何か手を考えておくべきだわ」
「とりあえず、まずは飯を食っておけよ。冷めても不味くはならないけど、できたての方がうまいに決まってんじゃん」
 せっかく用意したのに誰も手をつけてくれない事に、ちょっとイラッとした菊なのであった。