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恐竜騎士団の陰謀

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恐竜騎士団の陰謀
恐竜騎士団の陰謀 恐竜騎士団の陰謀

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8.貴様らに名乗る名前はない!!



 飛び交う怒号を切り裂くように、銃声が鳴り響く。
「なんだなんだ、聞いてた話と全然違うぞ」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は混乱している極光の谷の中を進んでいた。
 わざわざ危険を犯してまでこの谷の中に入り込んで、蜂起の日程を教えてくれた鬼龍 貴仁の言っていた時間にはまだ何時間もある。それまでに、仕掛けておいた機晶爆弾の最終調整を済ませておこうと考えていたというに、まだ手をつけてもいない。
 それに、こんな大騒ぎを起こされてしまっては、そんな事をしているわけにはいかないだろう。
「時間が早まったのか………けど、それなら連絡があってもいいよな」
 貴仁は何かあったらまた来る、とそう言い残して出ていったのだ。もし計画に変更があるなら事前に連絡があってしかるべきである。それが無い、となると今回はイレギュラーと見るべきか。
 だが、こうなってしまったからには、動くしなかないだろう。機晶爆弾は、ちゃんと動いてくれると信じるしかない。
「きっと、橘さんならうまくやってくれるはずだ」

「ヒャッハー、もっとだ。もっと撃ちまくれぇい!」
 ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が何と言おうが、喪悲漢一番星 スター・ゲブー号に取り付けられたマシンガンの秒間発射速度は変わらない。
「オレの愛する大地を穴だらけにするような奴を許しはしない」
 そのマシンガンを操るホー・アー(ほー・あー)は、そんな野暮な突っ込みはいれる事なく、むしろ感情を乗せてマシンガンで弾薬をばら撒いていた。狙っているのは、風紀委員が詰めているコンテナだ。
 防弾性能なんて微塵も無いコンテナは、当然あっという間に穴だらけになっていく。結構爽快だ。しかも、標的も一個や二個ではなく結構な数が用意されている。
 スター・ゲブー号は我が物顔で採掘場の真ん中を突っ走っていく。
「ピンクモヒカン兄貴! あそこでモヒカンがいっぱい倒れてるんだぜ!」
 バーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)が指さす先には、先日の落盤事故の怪我人が休んでいる休憩所があった。
「なにぃ! くそっ、あいつらめ! 俺達モヒカンの自由を奪うだけじゃなく、あんなになるまで痛めつけてるってのか! ふざけんじゃねぇ! もともと許す気なんて微塵もねぇが、泣いて土下座しても許さねぇからな!」
「ピンクモヒカン兄貴の怒りが天を衝いてる」

「時間も守れないのかあいつらは………」
 様子を伺っていたウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が睨む先には、極光の谷の中を爆走するスター・ゲブー号があった。
「違うぞ」
 腕を組みながら、ジト目でウィングを見ていたルータリア・エランドクレイブ(るーたりあ・えらんどくれいぶ)がそう言い出す。
「違う、何がですか?」
「あいつらは、あの話に乗ったメンバーではない、という事だ。まぁ、運良く同じ日に来てくれだけ、ありがたいと思うべきなのだろうな」
 遺跡発掘のためにキマクを訪れていたウィングにとって、恐竜騎士団の横暴は目障りで仕方が無かった。彼らには、遺跡の重要性とか、埋蔵品の歴史的価値などわからない。注意すれば喧嘩を売ってくるし、と頭痛の種にも程がある。
 そのため、一度奴らを懲らしめてやろうと考えていたところに、とある話が流れてきた。極光の谷へカチコミをかけ、奴らを追い払うというものだ。個人個人が小さな火花をあげるより、みんで大爆発させた方が当然効果は高い。そんなわけで、その話の裏を取ってこうしてはせ参じてきたわけだが………。
「ところで………本当にそれでいくつもりか?」
 ルータリアの視線の先にあるのは、超霊の仮面があった。
「当然です。まだまだ調査は残っているんですから、身バレして狙われたりしたら今より酷い状態になります。あくまで、発掘調査を快適に行うための掃除です」
「いや、それは別に構わないのだが………いや、いい。後ろは私が見ていてやる。存分に暴れてこい」
「当然です。ドラゴンスレイヤーであるこの私が、恐竜なんかに遅れを取るわけにはいきませんからね」
 仮面を装備したウィングは谷へ飛び込んだ。予定はだいぶ早回しだが、そこは裏でこそこそ動いていた人たちがなんとか調整してくれるだろう。なによりも、奴らにお灸を据えてやらねば心の内の淀みが晴れないのだ。



「ヒャーッハー、捕まえられるもんな捕まえてみやがれこんちくしょうが」
 派手に爆走するスター・ゲブー号を捕えるために、風紀委員が次々と現れる。しかし、そこまで広くない谷の中では、小型の恐竜でないと自由に動き回れないため、スター・ゲブー号が止められない。
 派手にばら撒かれるマシンガンは、大型の恐竜ならともかく、小型の恐竜には致命傷になりうるものだ。
「あーあ、知らないぞ、こんな不手際報告したらバージェス様に殺されるだろ。しっかし、俺もやさしいよなぁ、放っておけば勝手に数が減って偉くなれるってのに、わざわざ援軍を呼んでやったりさ、ここの管理任されてる奴は俺に感謝して素直に殺されてくれないかな」
 ケツァルコアトルスの背に乗った恐竜騎士が、一人でうんうんと頷く。
 彼の視界には、今まさに始まった谷の中での反乱と、それをなんとかするために走り回る恐竜騎士団の面々。そして、そこに向かわんとする一団のどれもがよく見える。
「まぁ、こんな辺鄙なところ管理しろって言われても誰がやるかって話だけどな。さて、俺のお仕事はこのぐらいにするかね。やっぱ、通行人イジメてる方が楽しいし。んじゃ、行くか相棒」
 鳴き声を残し、極光の谷を飛び去こえケツァルコアトルスは雲へと紛れて消える。

「動ける奴は怪我人を運んでくれ!」
 多少の計画のズレはあったが、何でもかんでも予定通りに運ぶ事の方が珍しい。大抵、どこかでエラーが出てくるものだ。有能な人間というのは、こういう予定外の状態になった時に慌てずちゃんと対応できるかどうか、が結構重要だったりする。
 その点で言えば、今の状態はかなり良い点数がもらえるように牙竜には見えた。
 最初に突っ込んできたゲブー達が、勢いでどんどん奥へと進んでいって敵を引きつけてくれた結果、入り口付近の警備が手薄になっている。それを見逃さずに、脱出作業は進んでいた。
 牙竜も怪我人の搬送を手伝い、何人目かの怪我人に肩を貸して出口へと向かっていた。
 できれば早いところ橘 恭司と合流して撤退したいのだが、さすがに怪我人を放っておくわけにもいかない。そのせいか、気持ちが焦って少し早足になってしまう。
「あっ」
 肩にかかる力が急に強くなる。肩を貸していた怪我人が足をすべらせてしまったらしい。
「悪い悪い、大丈夫か?」
 大丈夫ッス。と返されるが、見ただけで痛みに耐えているのがわかる。自分が落ち着くために一度ゆっくり呼吸をして、出口へと足を進める。
 べとっとした、やたら匂い液体が牙竜の顔に落ちてきたのは、それから数歩歩いたところでだった。雨は降っていないし、そもそも雨はこんなに獣臭く無い。なんだろう、と思って見上げると、谷の上に巨大な影があった。
 巨大な影の正体に気付くのに、僅かな時間もいらなかった。恐竜だ。そして、少なくとも今までは見えなかった、大型の恐竜である。そいつは、牙竜に気付いているのかいないのか、谷の中へと飛び込んできた。
 一人だったら飛びのいて避ける程度なら造作も無いが、今は肩を貸している怪我人がいる。とにかく必死に動きを計算して、潰されない場所へ飛び込む。
「痛いかもしんないけど、我慢してくれ」
 なんとか回避。怪我人も、擦り傷を増やしてしまったかもしれないが、とりあえず無事だ。辛そうなのはわかっているが、それでも今は我慢してもらうしかない。無理にでも立たせて、とにかく逃げる。
 だが、肩を貸している状態じゃ全力では走れない。だが、見捨てるなんて選択肢は無い。振り返る余裕なんて無いが、こちらに向かって来ているのは、音でわかる。しかも、既に獲物は追い詰めたつもりで、ゆっくりと向かってきているのに凄く腹が立つ。
「待てぃ!」
 空気を切り裂くような、鋭さを持った声が突き抜ける。
 その声に、竜牙もそして追っていた恐竜も足を止めた。
「弱者を追い回し、自らの力を誇示する事を喜ぶもの………人、それを『野蛮』と言う」
 崖の上に後光を背負って立つ男の姿があった。
「だ、誰だ貴様は!」
 恐竜の背に乗った、恐竜騎士団がその男に向かって敵意のこもった声を向ける。
「貴様等に名乗る名前は無い!」
 とう、と男は崖から飛ぶ。
 ウィング・ヴォルフリートに概念分割の欠片 フェルキアの記憶(がいねんぶんかつのかけら・ふぇるきあのきおく)が憑依した時、彼の持つ情報能力は飛躍的に上昇し、その力を数十倍に発揮することができるのである。
「閃光の風、超霊フラッシュゲイル参上! ここは俺に任せろ、早く行きなさい」
「あ、ああ。わかった!」
 牙竜は促されるまま、怪我人を連れてその場を立ち去っていく。名乗っていたような気がするが、とにかくそれ以上考えない事にした。
「さぁ、この俺を恐れぬのならかかってくるがいい!」
「こしゃくな、貴様から恐竜の餌にしてくれるわ!」