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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【1】奇異荒唐……2


 霊廟には本殿の他、幾つかの堂がある。
 しんと静まり返る歪んだ石畳の上を、探索隊は針を通すほどの注意を払って歩を進める。
 屍人『キョンシー』の巣窟のはずだが、不穏な気配こそあれ、連中の姿は見受けられない。
「ここはまだ安全だ。キョンシーは光の元には出て来れない。奴らが活動出来るのは暗闇の中だけ……
「各員、堂内に侵入する際は班で行動しろ。単独では動くな」
 パイロンの言葉に従い、メルヴィアは指示を出す。
 彼女の傍で警戒を行うのは、ミスティルテイン騎士団のフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)
 本隊には、西洋魔術的見地からのアドバイザーとして協力している。
「……それで、アドバイザーとしては連中に関して何か情報はないのか?」
「西洋魔術の屍人と言えば、ワイトやデュラハンってことになるかしら……まぁ詳しい説明は省くけど、アンデッドなら炎と聖属性に弱いのが相場よね。あと、魂がないなら精神攻撃は通用しないのかな……」
「ほぼ、基本情報だな。西洋魔術の知識は大して役に立たんようだ」
「……こ、今後に期待してください」
 しかし、廟内に漂う気味の悪い空気に触れ、フレデリカはポツリと漏らす。
「昼間なのに嫌な感じ……それだけ穢れが強いってことか……」
「オカルトは門外漢の私ですら何か感じ入るほどだからな」
「だとすると、こんな場所に長く放置されていたウォンドもマズイことになってるかも……
「どう言う意味だ」
「土地を汚染するほどの穢れなのよ。きっとウォンドにも何か悪影響を及ぼしてる……気を付けて」
「あら、キョンシーの話?」
 ふと、林檎の花妖精スクリミール・ミュルミドーン(すくりみーる・みゅるみどーん)が話に入った。
「詳しいのか、貴様?」
「ええ、聞いた事があるわ。こんな話はどう、奴らは腕を前に突き出し、跳ねるように移動するって知ってる?」
「なんだそれは?」
「どうも死後硬直が解けてない所為らしいわ。腕を出すのも身体のバランスをとるためなんですって」
「役に立つかは微妙だがよく知っているな」
「まぁ聞きかじった知識だけどね。本当はこの土地の草花から直接話を聞ければいいのだけど……」
「?」
 スクリミールは目を閉じ、樹木、草花の囁きに耳を傾ける。
 けれども、彼らは何も答えない。穢れに飲まれた草花は、ただ落ち着かなくざわめいている。
 そこへステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)がやってきた。
「……大尉殿、本作戦とはあまり関係ありませんが、ひとつ質問に答えては頂けませんでしょうか?」
「む?」
「シャンバラとエリュシオンの件です。和平協定の話は知っていましたが、何時から同盟を組んだのですか?」
「ブライドオブシリーズの探索計画がきっかけとなった。我々の任務こそが同盟の理由と言うことだ」
「……ちなみにどの程度の規模で同盟を結んでいるのですか? 軍事的にも……ですか?」
「無論だ。本計画にはエリュシオンどもも戦力を派遣している」
 和平を結んだ両国だが、未だわだかまりを拭えない軍人も少なくない。彼女もそのひとりのようだ。
「ところで、そいつは何をしている?」
「?」
 厳しい視線が見つけたものは、さっきから携帯をいじっているステゴマ・イケーニエ(すてごま・いけーにえ)
 必死に通話ボタンを連打しているのは、花音特戦隊に属する剣の花嫁に連絡をとるためのようだ。
 しかし待てど暮らせど、通話相手は出てくれなかった。
「……だ、誰も出てくれない。やっぱり私みたいな、出落ちキャラじゃ会話すらNGなのね……!
 特戦隊員からブライドオブシリーズの情報を引き出す予定だったが、あえなく撃沈してしまった。
 ただ、言わせてもらえれば、通話する時は画面表示をよく読んで欲しい。
 間違いなく『圏外』と出ているはずだから。