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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

リアクション


【1】奇異荒唐……7


「よーし! たーたーかーうぞーっ!!」
 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)はクライ・ハヴォックの雄叫びを上げた。
 先ほどの攻撃で道は空いたが、キョンシーは炎に包まれながらも健在。完全に灰になるまで動き回れるようだ。
「……そう言えばこやつら、呼吸を察知して襲ってくると言っておったな」
 戦闘を前にふと玉藻 前(たまもの・まえ)は思い出した。
「えー、空気の流れーとかー? 良くわかんないーオリヴィーが二酸化炭素? とか言ってた良くわかんないー」
「……我もおまえが何を言っているのか、よくわからん。まぁしかし、試してみる価値はあるな」
 玉藻はヒロイックアサルトの金毛九尾を発現。彼女の艶かしい臀部から九本の尻尾が生える。
「我が一尾より煉獄がいずる!」
 跳ねる一尾が業火に転じ、目の前の空間ごと焼却する。炎で空気を揺らめかせ、二酸化炭素の量を増やす。
 これで撹乱出来れば成果はあるのだが……しかし、キョンシー達は惑わされることなくまっすぐ向かってくる。
「なるほど。奴らが感知しているのは空気や二酸化炭素ではなく、呼吸そのものか
「そういうのよくわかんないー! わかんないからー! 一刀両断でぶったぎれば早いー!」
 阿呆の子は考えるのをやめた。
 軽身功で跳躍。天井を蹴り急降下、ライトブリンガーで梟雄剣ヴァルザドーンに光輝を纏わせ一刀両断。
 頭の先から喰らう剛剣の一撃は断つと言うより潰すと言ったほうが的確だ。
 床に原型なく広がったそれを踏み越え、ミネルバは壁や天井を足場にする動きで立ちはだかる敵を蹂躙する。
 一方、樹月刀真も進路を切り開くため、迫るキョンシーの前に立ちはだかった。
「まだ向かってくるのか……いいだろう。とりあえず揉んでやる……
 トライアンフを構え、敵の一挙手一投足に神経を巡らせる。
 普段なら息づかいから次の動作を読むところだが、呼吸の止まっている屍人にその技は通用しない。
 明確な意志を持たない分、わずかな感情の変化、気配から察することも出来ない。
 となれば、見るべきは重心の移動……!
「来る……!」
 飛翔から繰り出されるキョンシーの一撃を大剣の刃を寝かせ受ける。
 刹那、刀真は空いた手に光条兵器を発現。黒刃の一閃のもと、キョンシーの首を刎ねた。
 しかし必殺の瞬間にこそ隙は生じる。刀真の背後からキョンシーが襲いかかる。
「祓い給へ!」
 間一髪、玉藻の悪霊退散が敵を吹き飛ばした。
 ぷすぷすと焼ける身体にもがくキョンシーに、容赦なくとどめの炎を放ち完全に焼却する。
「俺としたことが、すまない……」
「気にするな。これほど殺気が充満していては気配は読むのは難しい」
「よーし、ここはひとつ必殺の作戦で一網打尽にしちゃうよー!」
 突然、桐生円が声を上げた。と思うと、すかさず刀真をビシィと指差した。
「とーまちゃん! うぃきぺでぃあに載ってたけど、キョンシーって童貞の血で撃退すんのが一般的なんだって!」
「え……?」
 固まる刀真。仲間のいる前でそんなデリケートな事情を暴露されては誰だって固まる。
「へぇそんな方法があるんだ……。私達に手を出してない刀真はきっと童貞よ
どーてー、ぷーくすくす
 漆髪月夜の証言に、ミネルバは腹を抱えて笑った。
 童貞を女子に笑われる、こんな恐ろしいシチュエーション、筆者だったら屋上からアイキャンフライするとこだ。
「おい、樹月のヤツ、童貞なんだってよー」
「ハァ、マジか? あんな美少女とデカパイのスケベ女連れてんのに!?」
「前々から思ってたんだけど、あいつ、もしかして……ゲイなんじゃね?
「ち、違う!!」
 好き勝手噂する探索隊のメンバーに刀真は怒鳴る。そうだ、君には怒る権利がある。
なんだ貴様、カマ野郎だったのか?
「ちょメルヴィア大尉まで! だーかーらー、違いますって!」
「何か理由があると思うんだが……まぁ今のところ、ただのヘタレ説が有力だ。あと誰だ、我をスケベ女と言ったのは」
「別にいいじゃない、ヘタレでも! 安売りなんかしちゃ駄目よ!」
 ちょっと虚しくなる玉藻とオリヴィア・レベンクロンのフォローも入った。
「いや、まぁその、大体事実ですけど……。でも、たぶん血を撒いても意味ないよ!」
「刀真、さっさと血を撒け」
「う、うう……」
 なんかもう空気って怖い。やる流れになってしまい、しぶしぶ腕を傷つけ血を撒く。
 しかし、予想どおり効いていない。むしろ血が好物なのか、ペロリとそれを舐め、ピョンピョン元気に向かってくる。
「ほら! ほら見て! 効いてないよ!」
 必死に主張する彼を、円を筆頭に仲間たちは白けた目で見る。
「あー、ごめんねー、あとでうぃきぺでぃあの情報直しとくからー」
「え……ちょそれだけ!? 俺、結構深く腕切っちゃってるんだけど、それだけなん!?」
 完全に腑に落ちない人は放っておきつつ、探索隊は攻撃もそこそこにして屍人の間を駆け抜けた。
 すると瓦礫の山が目に飛び込んで来た。老朽化の末、本殿の中央が崩壊してしまったのだろう。
 立ち止まるメルヴィア……されど、左右にある通路はまだ健在だ。
「仕方あるまい、ここで隊を分ける。各自探索を行い、日没前に正門に帰還すること。以上だ」
「サー! イエッサー!」