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【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

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【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

リアクション




 ダイソウ トウ(だいそう・とう)たちの眼前には、それまで壁だった所が大きく口を開け、その先には赤々とうねる溶岩と、その熱で悶える空気、そして遠近感がおかしくなりそうにゆらめく巨大な洞窟、という景色が広がる。

「これが、フレイムタンか……」

 改めて見ると、これまで踏破してきた火山帯遺跡とは比べ物にならない熱の空間。
 ゆらりと顔を撫でるほてりに誰もが目を細め、眼球の水分が奪われるのを防ぐ。
 ダイソウは揃った皆を振り返り、声をかける。

「皆の者。我々ダークサイズは、ニルヴァーナの古代技術コイルを発見した。ニルヴァーナ征服のため、これを使って交通機関、リニアモーターカーを作ろうと思う。パラミタでは空京放送局の株式を手に入れて放送手段を押さえたが、ニルヴァーナでは交通を我らの影響下に置くのだ」

 フレイムタンから流れる熱で、ダイソウも例外なく眉間にしわを寄せ、目を細めている。
 他のみんなも目を細めている。
 何だか渋いお芝居をする劇団みたいになっているが、全員その自覚はない。
 やはり目を細めたまま、服を失った代わりに布をギリシャ人のように纏ったキャノン モモ(きゃのん・もも)が補足の説明に入る。

「みなさん。見ての通り、フレイムタンはアルテミスさんの加護と、『亀川』の冷気で身を守らないと、到底生身で入れる場所ではありません。さらにフレイムたんによると、中には別種のイレイザーがいるとの情報です」

 プログラムされた犬の習性からか、フレイムたんは地面の匂いを嗅いでいたが、名前を呼ばれて耳をぴょこんと反応させ、モモの方を見る。
 ダイソウは咳払いを一つ挟み、

「よいか。今回ばかりは、一歩間違えば死だ。そこで、行動を打ち合わせた上でフレイムタンに足を踏み入れようと思う」

 ダイソウが前もって計画を立てようなどとは、誰もが耳を疑う。
 それだけフレイムタンという空間のヤバさに、説得力が増すというものだが。
 メンバーは、フレイムタンへ進行するチーム、遺跡に残ってバックアップをするチームに大きく分かれる。
 ダイソウは再度フレイムタンを見つつ、

「さて、問題はフレイムタンの内情だが……」
「それは任せるのだ」

 と、後ろからリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)がダイソウの方に手を置く。

「リリ、何か案があるのか?」
「やはりアイスたん、いや、『亀川』がいた神殿を調べておいてよかったのだ。リリたちが写し取った、祭壇の文様を見るのだ」

 リリは、模造紙大の紙を地面に広げる。
 そこには、剣状に見えるギザギザの線と、数点の丸印が描かれている。
 遺跡探索の際、『亀川』の神殿を調べたリリ。
 『亀川』がうずくまっていた祭壇には、リリが写し取ったような文様が刻まれており、ギフトであるフレイムたんの名からも、これは武器をかたどった図柄で、フレイムたんは武器のギフトに違いないと誰もが思っていた。
 ところが実際は、フレイムたんとはニルヴァーナ地下に広がるマグマの迷宮「フレイムタン」への道を開く「鍵のギフト」であることが判明していた。
 リリは文様を指でなぞりながら、

「これが武器を示すものでない以上、一体何を指すのか考えておったのだ。しかし、フレイムタンを見て閃いたのだよ。この文様は、『フレイムタン内の通行可能な道を示す地図』なのだと!」
「ほう」
「形状が剣に似ておるから、思いもよらなかったのだがな」
「ほー。お手柄じゃのう、リリ」

 後ろから文様の地図を覗きこんでいたダイダル 卿(だいだる・きょう)が、リリの頭を撫でる。
 ダイソウは、ダイダル卿に撫でられてぐらぐら揺れるリリの顔を見、

「ふむ。では、ここにある丸ポチは何なのだ?」
「ど、どれのことなのだ。頭がぐわんぐわんして見えぬのだ」
「卿、リリの首がもげてしまうではないか」
「すまんすまん」

 ダイソウの注意を受けて、ようやくリリの頭から手を離すダイダル卿。
 リリは目をしばたたかせて地図に目を下ろし、

「このギザギザはおそらく通路、周りの模様はマグマ溜まりやその流れを示しているのであろう。だが、この丸い刻印はリリも解釈がつかぬのだ」
「そうか。ではフレイムたんよ、お前はこれが何か分かるか?」
(はぁーい)

 と、早速五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)に抱きかかえられているフレイムたん。

「うわぁ、これが噂の(?)フレイムたんかー。予想以上にもふもふじゃないか。ふふふ、けほっけほっ」
「もう東雲ったら! フレイムたんの毛(毛なのかな、これ? まいっか)吸いこんじゃったんじゃないの? ぜんそく起こさないでよー」

 と、リキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)が東雲からフレイムたんを取り上げる。
 リキュカリアは、病弱な東雲がとにかく心配のようだ。
 同様に東雲が心配なンガイ・ウッド(んがい・うっど)
 フレイムたんに負けじとふわふわの銀の毛並みのポータラカ人は、

「そうだぞ我がエージェント。ギフトなどどんな雑菌があるとも知れぬ。そんなものより、我のもふもふがあるではないか」
「うんうん、シロももふもふだね。けほっけほっ」
「もーっ! 誘発してどうすんだようっ! 咳が落ち着くまで毛に触れちゃダメだよー」

 リキュカリアに叱られて、ンガイの耳がしゅんと垂れる。
 ダイソウに呼ばれたフレイムたんは、リキュカリアの腕から跳び、地図の方に駆け寄る。

「フレイムたんよ。お前は『亀川』の神殿に入ったことがないので分からぬかもしれんが、この丸ポチについて、知っていることがあれば教えてほしいのだ」

 と、ダイソウが再度地図を指さす。
 すると、フレイムたんの中から針が何かをこするような音が聞こえ、

(これはきっと、フレイムタン・オアシスのことだと思うよ)
「フレイムタン・オアシス?」
(うん。フレイムタンの中には、溶岩が流れ込まない所が少しだけあるんだよ。砂漠のオアシスみたいだから、みんなそう呼んでたんだ)

 同じくしゃがみこんでいたモモが、

「ニルヴァーナ人がそう呼んでいたということは……彼らもフレイムタンに足を踏み入れていたということですね」
「ふむ。そして地図を作っていたのならば、何かしらの施設があるかもしれぬのう」

 と、モモの隣で、選定神 アルテミス(せんていしん・あるてみす)が言葉を継ぐ。
 一方で、イレイザーの中から発掘されたコイルを興味深げに眺めるトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)

「これが超電導コイルか。生で見るのは初めてだな」
「しかもニルヴァーナの技術によるコイルだそうですね。これを使ってリニアモーターカーですか。うんうん、便利になるのはよいことです」

 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が、トマスの隣で頷く。
 今度はテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が、

「っつーことはトマス。リニアを走らすにはアレが必要ってことだな?」
「そうだテノーリオ。リニアに必要なのは……線路だ!」

 と、トマスがテノーリオに頷く。

「そういうことなのね。で、トマス。線路を敷くルートはどうするの?」

 と、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)
 トマスはミカエラの言葉を聞いてダイソウを見、

「それはもちろん、閣下に決めてもらおう。フレイムタンの中で通れる所は限られているけど、少し入り組んでるみたいだしね」
「そっか、線路は盲点だったな。でも資材とかどうする?」

 後ろから質問の声が聞こえ、トマスたちが振り返る。

「うん、それなんだけ……うわあああああ!!」

 彼らのすぐ真後ろに立っていたのは、熊である。動物の。
 ミカエラが反射的に【爆炎波】を熊に放つ。

「ぎゃー!」

 トマス達も慌てて体制を整え、

「もっ、モンスターだ!」
「ち、違う違う、俺! 俺だって!」

 熊が頭を取り去ると、中からクマチャンの顔が出てくる。

「な、何だクマチャンか!」
「いきなり吹っ飛ばさないでよミカエラ……」
「そんなリアルなのが真後ろにいたら、誰だってそうするわよ」

 テノーリオがクマチャンを立たせながら、

「何だってそんなカッコしてんだよ?」
「着てみたら断熱で意外に涼しかったもんで……」
「どうです? 気に入ってもらえましたか?」

 と、クマチャンの後ろでは【ソーイングセット】を片手にクロス・クロノス(くろす・くろのす)が微笑んでいる。
 クマチャンは熊の頭を見ながら、

「気に入るも何も……いきなりひどい目にあったよ。リアル過ぎて」
「良かったじゃないですか。今日は目立てそうですね」
「何か変なふうに気を使われてるな……」
「私はダイソウトウと一緒にフレイムタンに行きますが、私たちが戻るまで、ちゃんと着ててくださいね?」

 と、クロスは熊ぐるみと一緒に渡した紙きれを指さす。
 そこには、

今日はこれを着て作業してくださいな
すっかり影の薄くなったクマチャンですが、これで新たなキャラを確立してください
私たちが戻るまで着てなかったら、ヒドイですよ?


 クマチャンはクロスの手紙に目を通し、

「ヒドイってなにさ?」
「なにって? なにがですよ。ふふ」

 と、クロスは笑顔を崩さないまま、フレイムタンに入る準備に戻った。

「閣下、閣下。リニアモーターカーを作るなら、線路のルートを決めてもらいたいんですが。僕たちで測量をしておきたいので」

 と、話は戻ってトマス。

「うむ。事前に運行経路を決めておくのも確かに大切なことだな」

 ダイソウはトマスから定規とペンを受け取る。
 子敬がリリの地図を指さし、

「フレイムタンを縦横無尽に駆け回れるのが理想ですが、マグマイレイザーの体内にあるかもしれないという耐熱資材も、大量にとはいかないでしょうからね。最短ルートの単線運航で考えてもらえれば」
「ふむ。ではまずは、この遺跡と中央付近のフレイムタン・オアシスを結ぶものとして考えるべきか。それならば、こう……」

 と、ダイソウは地面の地図に定規を当て、線を引く。
 ごつごつした地面である上に、細かいことには不器用なダイソウに線を引かせたのが運の尽き。
 一応通路上を通っているものの、定規など全く役に立たないぐしゃぐしゃの線を引いてしまう。

「なんかこう、だいたいこういう感じでだな……」
「……」
「……よ、よし! テノーリオ、ミカエラ。リニアのルートが決まったぞ」

 テノーリオたちが地図を覗きこみ、線路構想に衝撃を受ける。
 ここで、彼らが規律に厳しいシャンバラ教導団の生徒であることが仇となる。

「……」
「ダイソウトウ閣下……何て複雑な線路を指定しやがる……」
「私たちに敷設技術を磨けとのメッセージなのかしら……こんなに曲がりくねった線路、エコでも何でもないじゃない。で、でも上官の命令は」
『絶対』

 トマスたちはダイソウが適当に引いた線を、その通りに路線化しなければならないと自分たちに課す。

「線路も大変だけど、『コノサキユレヤスノデ ゴチュウイクダスァイ ダァシェリエス』のアナウンスも作らないとな……」

 などと、トマス達はダイソウの線引きありきの対策を考えている。