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【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

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【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

リアクション




「アルテミスさん、お腹の方はどうですか? 空いてませんかあ?」

 シシル・ファルメル(ししる・ふぁるめる)がアルテミスに【水ようかん】と【メイド向け高級ティーセット】を差し出す。

「うむ、すまぬなシシル。幸い、宇宙と違って空気を完全に遮断する必要はないからな。魔力には多少加減が効く」

 フレイムタン・オアシスの調査中とあって、アルテミスはオアシス全体をコーティングする必要に迫られているが、求められるのは熱の遮断なので少しは楽らしい。
 アルテミスの元には続いてペンギンが数体やってきて、

「くわ、くわ」

 と、口をぱくぱくさせながら背中から『オディン』を引きぬく。
 ペンギン部隊に配給される武器だが、実際は串に刺さった大きなおでん。
 遺跡に戻った部隊の補給が届くまではこれらで繋いでいるが、残念ながら食べ合わせは考慮されていない。
 円がペンギン部隊を派遣したおかげで、フレイムタン・オアシスの大体の全貌が見えてきた。

広さは都心の駅ほどで、メインの拠点としては手狭か
全体は透けたドーム状に覆われており、経年による損壊は少ない
オアシス中央に塔のような形状のビルがあり、全ての施設がそのビル内に収納されていたようだ
このビル以外は建物はない
オアシス内の熱を制御する機晶エネルギーを管理する施設も、この中にあると見てよい
ビルの一階はトンネル状になっており、乗り物から直接ビルに入ったり通過できる形になっている
ビル内部は、現在完全に封鎖されている
ドームには出入り口と思われる扉があり、材質はドームと同じで透けている
出入り口は二つ。火山帯の遺跡につながる道と、反対側にもう一つ
ニルヴァーナの別の地域につながっていると思われる

「で、ダイソウトウ。お宝はどこ?」
「お宝? 何の話だ、円よ」

ダイソウは、【ペンギンアヴァターラ・ロケット】の上の円を見る。
円は肩をすくめ、

「やだなー、ダイソウトウ」

と、今度は丸めた画用紙を広げて見せる。
そこにはクレヨンで、

『宝物見つける→鍵がかかってる→フレイムたん→開く→みんなでハッピー→シャンバラ土下座』

と、イラストつきで描かれている。
円はどや顔で画用紙をポンポンと叩き、

「これだよこれー」
「円、すまんが訳が分からぬ」
「だってフレイムたんは鍵のギフトなんでしょー」
「うむ。フレイムタンへの道を開くためのな」
「いやいやいや。それだけなわけないよ。きっとあの鍵たんは、何かの宝箱の鍵も兼ねてるに違いないよ。だってフレイムタンを開けるだけなんて、それこそ訳分かんないよ」
「他の鍵、か……」

 ダイソウには円の考えが、妙に説得力を持って聞こえる。

「だからダイソウトウ、アルテミス。早くビルの中に入ってみようよ」
「しかし、ペンギン部隊の報告によると、ビルは封鎖されていると……」
『……は!!』

と、ダイソウと円が顔を見合わせる。

「まさかフレイムたんは、あのビルの入口も開くことができるのか……?」
「ほんでもって、ビルの中の宝物の鍵でもあるんだよ、きっと」
「そうか、フレイムたんはここいら一帯の、言わばマスター・キーというわけか」

 二人はすごい結論に行き着くが、あくまで全て妄想である。

「ぬう、それでは……フレイムたんを手放せぬな」
「それどころか、宝物でシャンバラ土下座だから、フレイムたんがいればパラミタ征服だよ!」

 二人は何やらテンションが上がっていくが、あくまで全て妄想である。

「みんな早く帰ってこないかなぁー」

 円はすっかりフレイムたんの新しい設定に期待しきって、そわそわしてペンギンの頭をもふもふいじる。

「とろこでダイソウトウ。このフレイムタン・オアシス、まだ完全に使えるわけじゃないけど、拠点の一部にするんでしょ?」

 長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が、ビルを見上げている。
 ダイソウはうなずき、

「うむ。てっきり廃墟になっていると思っていたが、この様子ならほとんど手を加えずに済みそうだな。フレイムタンの安全が確認できれば、衛星拠点とするのがよかろう」
「となると、やっぱり此処は……」
『駅でしょ』

 淳二と同時に、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が手を上げる。

「だよねだよねー。やっぱそう思うー?」

 淳二とカレンは完全に同じ考えだったようだ。
 淳二は同じ意見の者がいて少し嬉しそうに、

「施設の中はまだ分からないけど、オアシスの構造を見るに、やっぱりそれしかないね。リニアモーターカーを作るなら、立地もうってつけだと思う。反対側の出口の先も、ニルヴァーナの別の場所につながっているなら、ここはセントラルステーションとして重要地点になるんじゃないかな」
「セントラルステーション……!」

 パラミタの隅で地道な活動を続けてきたダークサイズが、中央という言葉が入った場所を手に入れるとは。
 ダイソウの顔が若干上気した。

「みなさーん。お話するなら座ってするですよう。今のうちに体力回復ですよう」

 シシルが【食材】と【調理器具】で、ちょっとしたピクニックセットを広げて手招きする。
 その傍でミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)が保健室みたいな体制も整え、

「えっと、お怪我はなさってませんか? 具合の悪い方もいらしたみたいですし、何かあったら言ってくださいね。青空保健室ですが」
「はーい、ミーナ先生。このペンギンちゃんが暑そうでーす」

 南 白那(みなみ・はくな)はペンギン部隊の一匹を抱っこして持ってくる。

「あ、え、ペンギンさんはちょっと……それに暑いのはみんな同じですから」
「えー、つまんなーい」

 と、何やら保健室ごっこが始まっている。
 皆が座りだすと、ビルの方からズズンと攻撃音が響く。

「!?」

 驚いてその方向を見ると、ビルの陰からジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が歩いてくる。

「ふーむ、これはすごい。ここの建物はちょっとやそっとでは壊れぬのう。一体何でできておるのか……」
「こらこらジュレール! 壊れたらどうすんのさ」

 カレンがジュレールを叱る。

「あまりに綺麗に残っておったのでな。ビルの頑丈さに興味を持ったのだ」
「もうー。『草津駅』が稼働して調子が悪かったら、ジュレールのせいだからね」
『……草津駅?』

 その場の全員が、カレンの顔を見る。

「そう! 『草津駅』! ボク達がここに来れたのも、『草津たん』たちのおかげなんだしね。敬意を表するのです!」

 フレイムタンへの道を塞いでいたイレイザーを封じる形で存在していた、『草津』『別府』『下呂』のモンスターたち。
 最終的に全て倒すことになったが、カレンは『草津』を何とか味方にしてマスコットにしたいと考えていた。

「しかしカレン……おぬし『草津』をちゃっかり食べておったではないか……」

 ダークサイズは、『草津』をカレーにして食べるという暴挙に出ていた。
 カレンも泣きながら『草津』の肉を身体に取り込んだわけだが、それを思い出してカレンの目がうるんでくる。

「そう……そうだよ。草津たんは死なない。ボク達の中で永遠に生き続けるんだ!」

 と、カレンはお腹をさする。
 ダイソウはカレンの気持ちを察しないわけではないが、

「しかしカレン。『草津駅』ではまるっきり草津駅ではないか……」
「いーじゃん。草津駅にしたら、地下から温泉が見つかるかもしれないよ」
「それはまた乱暴だな……」

 その話を聞きながら、白那とミーナが円のクレヨンを借りて、

「セントラルステーションかー……」

 と、つぶやきながら落書きしている。
 ミーナが書き終えた画用紙を地面に置く。
 それを見たダイソウの目が光る。

「……これだ……!」

 皆がダイソウが手に持った画用紙を覗く。
 そこに書かれている文字。

セントラルテーション

「ひあっ! み、見ないでください! ただの書き損じなんですー!」

 ミーナは慌てて画用紙を奪い返すが、時すでに遅し。
 一方で、カレンも『草津駅』の立て札を画用紙に書いている。


☆★☆★☆



 五月葉 終夏(さつきば・おりが)が、シシルの背中をつつく。

「? 何ですか、師匠」
「シシル、今日の『紅終夏団』は?」
「うーん。それなんですけどねぇ。アルテミスさんが予想以上に奥手なのがネックなのですよう」

 最近、アルテミの恋を応援しようと暗躍を始めた、『紅終夏団』こと終夏とシシル。

「こないだの『はい、あーん』作戦は、上手くいかなかったしねぇ」
「まったく、照れ屋の神様には困りものですよう!」
「とはいえ、まだ危険の残るオアシスでやるほど、私は空気読めないちゃんじゃないよ!」

 終夏がおもむろに【マイク】を取り出す。

「さ、そういうわけで今回は、『とっととリニア完成させて、ダイソウトウとアルテミスさんを二人きりのドライブデートさせちゃおう作戦』ですよ」
「おおおー! さすが師匠! 慧眼ですよう! アルテミスさんったら、神様だからってみんなの目を気にしちゃいますからね。二人っきりなら告白する勇気も出るというものですよう!」
「なので、とっととマグマイレイザーに出て来てもらって材料回収して、リニアを作っちゃいましょう。マグマイレイザーさーん! 聞いてますかー? 出番ですよー!」

 とにかくマグマイレイザーに出て来てもらわないと、デート作戦も実行できない。

「私たちの戦力は手薄ですよー! ぶっつぶすなら今ですよー!」

 この現状で、『はい、あーん作戦』をやるよりマグマイレイザーをあおる方が、危険で空気が読めない感があるが、終夏はそんなことは気にしない。

「でも師匠、そんな都合よくマグマイレイザーさんが出てきたら、僕たちも苦労はないですよう」
「うん、ま、そうだよねぇ……」

 と、終夏が諦めてドームの外を見る。

『きゃーーーーーー!!』