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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

リアクション

 だが一方、密命を受けた一部の狼藉者は、警察署裏手にある孤児院を襲っていた。石原肥満にとってこの場所と子どもたちが大切なものだというのを知っているのだ。
「おい、ここに来たからにはそれなりの覚悟ができてるんだろうな?」
 しかしいち早く、孤児院の門の前に夜月鴉が立ちはだかった。
 星灯りを薄く浴び、不吉な黒いシルエットと化す。
 ところが鴉の姿を認めても、ヤクザどもは意に介さず突っ込んでくる。だからどうした、とせせら笑う者もあった。
「ああそうか、俺、子どもに変装したままだったよな……なら、どんどん見くびってもらおうか。その方が楽だしな!」
 鴉は、何かを引っ張るような仕草をした。
 すでに夜だ。何をどうしたのか大半の者には理解できなかっただろう。だがそれでいいのだ。罠なのだから。
 「ぐえ」と「げっ」の中間の様な声がした。ヤクザの一人が、足元に張られた鋼糸に引っかかって前のめりに転倒したのだ。彼ばかりではない。次々と皆、同様の罠にかかった。転んだだけならまだしも、電気でも流されたように身悶えして動けなくなる者も少なくない。
「しびれ粉込みのワイヤートラップだ。気に入ってもらえたかなぁ?」
 くすくすと笑って七刀切が顔を出した。これらの罠は、鴉と切が事前に用意していたものなのだ。
「やりすぎると殺しちまうからな、そんなことで歴史を変えたくはない」
 罠の力加減には、かなり気を遣った切なのだ。これまでの戦いとは違って、一応相手は一般人なので、全力で葬り去ればいいというわけではないのが難しい。結果、警戒や鎮圧に主眼をおいたトラップとなった。
「イレイザーだのインテグラルだのといった物騒なのはいないようだねぇ。よーし、とっととお引き取り願おう!」
 切が片手を挙げると、孤児院からさらなる味方勢がどっと繰り出した。
「ひーマンにかわってお仕置きするですぅ!」
 フィーア・レーヴェンツァーンの姿がある。空飛ぶ箒ファルケを両手で握って振り回し、バンバンと連中の頭をどやしつけた。
 罠を回避した暴力団員も、孤児院周辺に来るなり軒並み畏怖の表情を浮かべていた。彼ら自身にもその理由は説明できないだろう。だが読者に種明かしをすれば簡単な話だ。新風燕馬が加わり、アボミネーションを発動したのである。
「……未来は、変えさせない。ここは必ず、守る」
 燕馬からもたらされた得体の知れぬ恐怖が、暴力を生業とする連中を包み込んでいる。
 ルシェン・グライシスは憤慨のあまり、紅潮しながら得物をふるっていた。
「ありえるとは思っていたものの、本当に混乱に乗じてここを襲ってくるなんて……! あいつら極道だなんだ言ってるけど、弱い者じめのド外道じゃない!」
 退魔槍エクソシア、まともに使えば雑兵など真っ二つだが、怒りをこらえて武器を蹴散らすにとどめる。
「たしかに僕らは肥満さんを護らないと未来が変わるってことは分かってる。だからといって子供たちを護らない、なんて言えるわけないだろ?」
 これが、榊朝斗がこの決戦の日に孤児院に留まることを選んだ理由だ。
「子供たちだって生きる権利はある。これ以上、昔の僕のように喪失を味わってほしくないからね。生きてほしいんだ……これからの『明日(未来)』を」
 敵は決して強くはないが数ばかりは多い。朝斗はためらわず渦中に飛び込むと、「イメージを描け。強く、正確に、練り上げろ。腕は銃身、拳は銃口、攻撃は銃弾……」
 己に言いきかせながら、正確にその愛刀ウィンドシアをふるうのである。といっても使のはその柄、あるいは峰に止めていた。あくまで目的は撃退だ。倒すことではない。
 孤児院内にはエツコ、ことエリザベート校長がいる。ザカコ・グーメルはパートナーの強盗ヘルとともに、ここを守ると決め、孤児院に活動拠点を移していた。
「改めて校ちょ……いえ、エツコさんも無事で何よりでした」
 エリザベートに一礼して、ザカコは告げた。
「できればエツコさんも、一緒にここを護ってもらえませんか?」
「もちろんですぅ」
 彼女はちょっと声をひそめて、
「魔法は弱くなりましたけど……明日香ちゃんもいますし」
 そう、エリザベートの隣にはいつだって、頼れるメイドにしてある意味肉親以上の存在、神代明日香がいるのだ。何を恐れる必要があろう。
 ザカコが戦列に加わったとほぼ同時に、ヘルも攻撃を開始していた。
「さーてと」
 ヘルは孤児院の屋根に登り、双眼鏡で近づく敵を観察している。わらわら来るではないか。警察署を襲うならまだしも、ガキのいるところを狙ってくるなど悪党としても最低だとヘルは一人、毒づいた。
「ガキを人質にしようだなんて腐れ外道どもは、地獄に落ちやがれ!」
 ひらり飛び降りると、燕馬、朝斗のちょうど中間地点に着地し、ヘルはスタンガンのスイッチを入れた。
「本気で地獄送りにしてもいいが、どうせならこいつでこの世の地獄ってやつにしてやらあ!」

 孤児院の内側では、アイビス・エメラルドが子どもたちを集め、しっかりとした口調で説いていた。
「大丈夫、です。恐れないで」
 アイビスは不思議な感情を覚えていた……離れがたいという気持ち、大切という気持ち……これらが入り交じったような……。短い期間とはいえ、過ごしたこの場所に愛着を感じていたのだ。ただ、不慣れなこの勘定に戸惑っていたことも事実だ。しかし決して、悪い気はしないのだった。

 たかが孤児院と見くびっていたせいか、あっという間に暴力団員たちは撃退されて退却していった。どうやら、警察署の攻略にも失敗したらしい。尻尾を巻いて逃げていく。
「ほーら、とっとと帰れですぅ!」
 箒を逆さにして柄の部分で地面をどんどん叩き、フィーアは呵々大笑した。