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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

リアクション

 その夜、石原拳闘倶楽部を最初に急襲した者は暴力団員ではなかった。
 窓ガラスが音を立てて割れた。何かが投げ込まれたのだ。
「ダイナマイトか!」
 湊川亮一が反射的に飛び出した。後のことなど考えていない。これが爆発すれば亮一のみならず、高嶋梓の未来も消え失せるのだ。躊躇ってはいられない。
 だが、
「発煙筒だと……!?」
 天地・R・蔵人ほどの者すら、一瞬、虚を突かれた格好になったのは仕方のないことだ。ダイナマイトと思われた筒状のものからは、白い煙が勢いよく噴き出したのだ。
「何のつもりだ、こんなもの……?」
 亮一はこれを窓の外に投げ返した。煙が拡散するより前に発煙筒は消えた。
 しかしこれこそが、侵入者瓜生ナオ実の狙いだった。
「元太祖(チンギス・ハーンのこと)より伝わりし一族の秘宝、返してもらう」
 いつの間にかナオ実は石原肥満の眼前にいた。手には短刀がある。発煙筒が起こした騒ぎに乗じて紛れ込み、虚を突いたのだ。
 されど肥満の前や左右にも、とっさに天地・R・蔵人、コア・ハーティオン、清華らが結集し肥満を守るべく立ちふさがっていた。
 一触即発――誰もがそう思った。
 ところが当の肥満はまるで緊張していない様子で、
「秘宝……こいつのことだな?」
 と胸の勾玉を取り出したのである。
「一族、ということはおめぇさん、日本人を装っているが実際は違うようだな」
「そうだ! 和名こそ『瓜生ナオ実』だが本当は……」
「愛新覚羅(アイシンギョロ)、かい? それとも、これを漢名にした『金』か?」
 石原肥満がこうした事情をきちんと知っていることに、ナオ実はいくらか感心する。いくらか語気を落として、
「そう。本名は金麗華(ジン・レイファ)。君が奪った秘宝を取り戻すため日本本土に渡ってきた」
「そうか。だが、こいつを返すわけにはいかねぇ。こいつは俺のお守りみてぇなもんでもあるが……『こいつ自身』が俺を必要としているからだ」
「何……?」
「俺はもう一つの世界、そいつも救うつもりだぜ」
 ナオ実の目が見開かれた。
「そうか……君は、秘宝が見せる未来が見えるのか……僕には見えなかった……」
「ヤツもそうだと主張するだろうな」
「ヤツ?」
 肥満は外を指した。いつの間にか大量のならず者が出現している。続々とその数は増えているではないか。新竜組の精鋭たちだ。手に手に武器を持ち、石原拳闘倶楽部をこの建物ごと粉砕するかのように迫ってきた。
「ウォンの一味か……」
 ナオ実は、今すべきことを知っている。彼女は振り返り、ウォン一派を待ち構える姿勢を取ったのだ。
「さあて一丁決戦と行くか」
 肥満の口調には、どこか楽しげな色があった。
「ここに踏ん張って籠城というのもいいが、火攻めにあっちゃたまらねぇ。それになんといっても借り受けてる場所なんでな、荒らしたら貸し主に迷惑ってもんよ。やるなら天下の往来でやろうぜ!」
 言うなり肥満が飛び出したので、紫月唯斗も梁から飛び降り、蔵人も、五十嵐理沙も、ロザリンド・セリナも黙ってこれに続いた。宇都宮祥子は刀をとり、桐ヶ谷煉、曖浜瑠樹も武器を持って出ていく。ガシャッ、ガシャッ、と音を立てコア・ハーティオンが、ぐっと腕まくりして弁天屋菊が追った。
 彼らばかりではない。石原愚連隊一同はすべて、どこか悠然と出て行った。