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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

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 強敵はここに見えている者ばかりではなかった。
「あらぁ、いい男じゃないか」
 乱戦のさなか、戦場にあまりに似つかわしくない声をダリル・ガイザックは聞いた。
「そういう褒め言葉は喜ばない」
 ダリルは実にダリルらしいことを言って斬り捨てようとするも、物陰から女が、なまめかしい姿を見せたので足を止めた。朱い浴衣を着た辿楼院殺女であった。
「お兄さんも、お好きだろう?」
 殺女は媚びるような眼で胸元をちらつかせ、ゆっくりと近づいて来た。
「好きではない。インテグラルに操られた女は特にな」
 そのとき殺女が発したのは、ギエッ、という鳥獣のような叫びだった。同時に後ろ手で、暗器の小刀を投擲していた。
 通常の人間であれば、叫び声に気を取られ暗器に殺られる。
 通常の契約者であれば、暗器が当たっても反撃する。あるいは暗器を手で止める。
 だが『有機コンピューター』ダリル・ガイザックは、暗器の軌道を性格に読み、これをボレーよろしくまっすぐ跳ね返したのだ。殺女は二の腕を切られ、垂れた髪を咥えてじりじりと下がった。
「おいおい、美人のお姉ちゃんになんてことするんだ」
 夏侯淵が駆け寄ってくる。
「お前の眼は節穴か」ダリルはむっとしたように言う。
「いや冗談だって。最近柔軟になってきたかと思ったがまだまだだな」
「ふん……まあ、すまん」
 こうやって謝るところが、やはり柔軟になってきている証拠だな、と淵は思ったがそれどころではないだろう。
 殺女は上半身を背中側から倒したブリッジのような異様な体勢で、それでもオリンピック選手が全力疾走するような異様なまでの運動量を見せ飛びかかってきたのだ。
「え、なにあの女の人、ダリルの熱狂的ファン!?」
 ここでルカルカ・ルーが参加する。
「あー面白い冗談だ」物凄く面白くなさそうにダリルは答えた。
 ようやく本来の姿に復した淵が、その間に殺女に向かっていった。
「こいつっ!」
 稲荷の鉄刀を抜いて挑む。しかし容易な相手ではない。殺女も左右に二刀を握り、猛然と斬りつけて来たのだ。魏の猛将夏侯淵が、明らかに圧されていった。
「なら三人がかりでやるまで!」
 ルカも抜刀、ダリルもけしかけて挑んだ。ルカは淵と共に直接斬り結び、ダリルが風術を用いて看板など様々なものをぶつけようとする。だが殺女はまるで阿修羅だ。右手一本で淵の前髪を数本斬り飛ばし、左手でルカの一撃を受け流す。風術で飛んでくるものも側転して回避した。
「あの動き、暗殺専門の者だな。インテグラルに力を与えられずとも相当の使い手と見た……こんな時代にこんな戦闘者がいたのか。それが、強化されてこの域に達したのだ」
 ダリルが唸るように言葉を発する。このとき聞こえたのは、
「じゃあ五人がかりはいかが!」
 遠野歌菜の声だ。彼女と月崎羽純も参戦した。
「武器を落とせば……」
 羽純が真空波を次々と放ち殺女に見舞うも、彼女は多少苦しくなったとはいえ懸命にこれを回避していた。
「あの人、さすがですね! けれど私も大和撫子、強敵を見て逃げるわけにはいきません!」
 深海の槍にて歌菜が挑みかかる。
「えいっ!」
 しかも歌菜は、羽純やルカと絶妙に攻撃テンポをずらして不定期に突きを繰り出した。無論歌菜も武器の達人ながら、あえて、素人のように攻めたのだ。
 徐々に歌菜の攻撃が浴衣をかすめはじめる。そうすると次は、淵の攻撃やダリルの風術が当たりやすくなった。
「五対一ってのは気が引けるけど、これなら……」
 ルカルカが言いかけた、その言葉を全否定する声があった。
「悪いな。五体二だ」
 身長、なんと三メートル、鬼のような凶相。彼が歩けば地面に亀裂が走る。
 ジャジラッド・ボゴルの登場であった。