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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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 16 さぼり魔を応援しよう!

 広い場所だった。それぞれの仕切り壁がかなり崩れ、幾つかの部屋が見通せるようになっている。天井も大規模に崩れ、瓦礫の山が更に崩された跡があった。上の部屋と吹き抜け状態になり、ほぼ繋がっている。そして、通常サイズのゴーレムの残骸もあちこちに在った。コードの量は、中くらいといったところか。
 ここは、この建物が元ゴーレム型巨大機晶姫として動いていた頃、足止め説得しようとした面々が転ばせ、口から入った時に通った場所である。ちなみに、当時は腰の穴からでも辿り着けた。
「あ、みなさんもこちらに来られたのですか?」
 ニーナ・イェーガー(にーな・いぇーがー)スタンリー・スペンサー(すたんりー・すぺんさー)が彼等に気付いて立ち上がり、近付いてくる。2人共、両手に軍手を嵌めていた。
「私達も、ついさっきからここにいるのですが……」
「機晶石、結構あるみたいだぜ。手前らもさっさと探せよ」
 うんざりとしたスタンリーの台詞を聞いて、社は俄然やる気を出した。
「よっしゃ! 本格的に機晶石発掘か! なんかワクワクするの〜♪」
「宝探しだね♪ ちーちゃんも頑張って探すよー☆」
 社と千尋は、早速元気に探索に走る。
「珍しいもんとか落ちとらんかな?」
 興味津々に、社はキョロキョロと室内を見回した。棚や机、石の作業台なども壊れ、雑然と転がっている。これまでの場所同様、機晶姫の中途半端なパーツや骨格標本らしきものも散乱していた。……本物か偽者かは知らないが。
「ちーも何か見つけたら教えてや〜♪ 力仕事なら兄ちゃんが頑張ったるからな!」
「うん! おっきな声を出せばいいんだね☆」
 2人は、実に楽しそうだ。エミールも、やっと目的を果たして帰れるとばかりに積極的に探索を始める。元々、問題児である真菜華の監視目的で同行していたわけで。ミッションが無事終了すれば万々歳である。
「床の所々に、機晶石が落ちているようですね。パーツも、とりあえず使えそうなものは拾っておきましょうか」
 転がっている一輪の台車をひっさげ、極真面目に彼は石を拾っていった。

 エースとメシエも、トレジャーセンスを使って床の機晶石を回収していた。
「バラバラになっているからエネルギーはもう失われてるにしても、データの片鱗が残っていれば……脚の回復の役には立つのかな?」
「どうだろうな。まあ、専門家がわざわざ回収を頼んだのだ。何も無いということはないだろう。この地に来た意味は、必ずあるはずなのだよ」
「うん、そうだと良いな。……あれ、メシエ?」
 メシエは立ち上がり、通路側へと向かっている。
「どこに行くんだ?」
「先程、通過した部屋が何か気になってね。しばらくは皆、この一帯から動かなそうだ。今の内に調べてみないか?」
「それは、いいけど……」
 メシエを追いかけて隣に並んでから、エースは訊く。
「気になるって? トレジャーセンスが反応したのか?」
「機晶石とは違うが……恐らく、関連のある何かだ。何かの設備なのかもしれないね」
「ああ、メシエは元々、機晶石より残存設備に興味があるって言ってたな」
 集合する前の事を思い出していると、メシエは嬉しそうに言った。
「そういうことなのだよ」

「魂を分離させたり移したり、色んな奇跡みたいなことを見たり聞いたりしてきたけど……、『魔物化しかけた魂』はファーシーさんと別れた時点で一緒になれる確率は低いと思うんだよね。ファーシーさん自身が受け入れても別れた方の魂がそれを受け入れるとは限らないと思う。こうして、石の欠片を拾いながら言うのもなんだけどさ」
 響子のトレジャーセンスを頼りに、ケイラは石を探しつつ言う。
「て……聞いてない?」
 しゃがんだ状態から斜め後ろを振り向くと、ラスは、肩に蛇を乗っけたまま石棚の中や引き出しをやる気ゼロパーセントな顔で物色していた。石は皆が探してくれる。ついでに、いぢられすぎて少しいじけている。自分には決定的に金が無い。そして、導き出された結論は、『石より金』だった。
「何か、金目の物ねーかな……」
「ちょ……、ラスさん? 何やってるのかな」
「何って……、宝探し?」
「……宝、ですか……」
「さっき社が言ってただろ? 珍しいもんが落ちてないかって。それ、見つけて売れば良い金になるんじゃねーかな。ファーシーは前、此処に宝なんか無いって言ってたけど……敬語で。それって、5000年前の視点からの話だろ」
「それは、自分は居なかったし、知らないけど……」
「つって、前も散々漁ったんだけどなー……もうこの際、紙っぺら一枚でもいいんだけど」
「……石は?」
 それについては無反応の彼に戸惑いつつ、そういえば、とピノの姿を探す。すると、ピノはピノで真菜華と瓦礫で遊んでいた。何かの形を作ってみたり、記念写真を撮ってみたり。
 一方、エミールは机の裏や隙間などを確認中だった。先程集めたパーツは、暗くなる前にと明るい所で既に選別を済ませている。今は、機晶姫や何かについての記録があれば、と調べ直していたのだ。修理の役に立つかもしれない、と……真面目だ。さぼり組の良心だ。紙はあったらしっかり確保しておこう。売られてしまう。
 やがて何かの皮紙とディスクを見つけ、エミールは手を止めた。ディスクは割れ、中身が確認するのは不可能に思えるが、皮紙の方は――
「おや? これは……」
 博識を使ってそれを読み解いたエミールは、その内容に少し驚き顔を上げる。その目に、楽しそうにはしゃぐパートナーの姿が映り、彼は思わず注意する。
「真菜華、ちゃんと探索をしてください! ラスさんも遊んでないですか!?」
「えー、やってるよーーー」
 やってない。んで、こちらはこちらで。
「こんだけ居れば、それなりには集まるだろ……。規模的にも物理的にも、全部集めるなんて無理なんだし。第一、俺は成り行きで来ただけだし。ガイドみてーなもんだし、ピノが満足してくれればそれでいいんだ。大体、ファーシーの脚は放っといたっていつかは直……」
「……ラ、ス、さん? その言葉、本気じゃないよね……?」
「何だよ……げ」
 ラスに表情が戻る。ケイラが、近場の瓦礫(大きめ)を持って迫ってきていた。
「…………」
 響子から困ったような顔で見られている気がするが、困っているのはこっちだ。
「ま、待て、今のは冗談で……探す、探すから!」
 反射的に携帯を取り出す。人の暴走ばっか気にして自分はどうなんだ何だどの写真を観れば落ち着くって? て……こいつの安定剤なんて知らねーし!
 どげん、と投げられた瓦礫を避けた所で、ピノ達が近付いてきた。
「ケイラちゃん、おにいちゃん、けんか?」
「あ、馬鹿、向こうで遊んでろ!」
「探してろ、とは言わないんだね……、まあいいや、ちゃんと探してくれるなら」
「も、戻った……?」
 壁を背にして、とりあえず安堵の息を吐く。そこに、話を小耳に挟んだ社がやってきた。
「ん? ラッスンはどないした? もっと頑張らな!」
「う、またうるさいのが来た……」
「何や、テンション低いなあ。ファーシーちゃんの為にも『魂』を見つけなアカンのやろ? ピノちゃんも見とるで〜」
 つい言葉につられて視線を移す。ピノは「?」という顔でラスを見ていた。しかしその「?」の内訳が「やらないの?」ではなく、「まさか、やるの?」である気がするのはなにゆえだろうか。
 どちらにしろ、居心地は良くないが。
「…………」
「……む? しゃあないな! 俺の出番か!?」
 その様子に、社は(何故か)嬉しそうに荷物置場に走っていった。
「よっしゃ! 任せとき〜!」
 とか何とか言いながら、音符を飛ばしまくりながらガサゴソと何かを出している。あ、黒い服を羽織った。そして、振り向いた社は……
 応援団員っぽい学ランを着て応援旗を持ち、定番ポーズと共にその場で応援をし始めた。
「フレー! フレー! ラーーッスン! 探せ! 探せ! ラッスンっ!!」
「…………!」
 色んな意味で絶句した。
 絶句している間にも、社は張り切って応援を続けている。注目されてる。超注目されてる。
「……は、恥ずかしいから止めろって……! て、何でやってる本人ノリノリで俺だけ恥ずかしいんだよ! 大体何でそんなの持って……おい、やるなら俺の名前を出すな、全体を応援しろ全体を!」
「フレー! フレー! ラーーッスン!」
 華麗にスルーされた。しかも。
「やー兄、ラスちゃんを応援するんだねー♪ ちょっと待っててー!」
 千尋も、可愛らしい和風バッグからガサゴソと何かを取り出している。カラフルだ。いやそれはいい。何か、嵩がある気がするが。
「あ、ピノちゃんも来てー!」
「え? なになにー?」
 千尋はピノの手を引いて通路に出て行く。そういや、隣に都合良く小部屋があったような。そして、戻ってきた2人は……
 チアリーダーの衣装を着ていた。
「…………やっぱり……」
 しかし何と言うべきか。かわいい。
「お! ちー似合てるで!」
「えへへー☆ 一緒に応援するよー♪ ラスちゃん、ガンバ! ほら、ピノちゃんも!」
「え、うん……お、おにいちゃん、ガンバ!」
 少し顔が赤くなっている。衣装がというより、ラスを応援する事が恥ずかしいらしい。それはそれで可愛い。カワイイが……。
「よっしゃ! いくで! フレー! フレー! ラーーッスン!」
 ますますやる気を出したらしく、社のはりきり具合が半端ない。
「分かった、降参だ! 探せばいいんだろ探せば!」
 やけになった。そこで、千尋があ! という顔をする。
「さっきね、瓦礫の下で機晶姫っぽいの見つけたんだけど、たすけられるかなあ?」
「……は?」