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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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     〜1〜

 朝から、研究所の外は賑やかだった。湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)の製作したコンテナ型の飛行ユニットをつけた機晶姫が空を飛び、小尾田 真奈(おびた・まな)は、七枷 陣(ななかせ・じん)に補助してもらいながら造ったトンファーブレードの試用テストをしていた。投げた太刀が空中で弧を描き、吸い付けられるように真奈の手に戻ってくる。
「どうや? 真奈」
「……とても良い感じです」
 太刀の柄を握りこみ、真奈は改めて全体を確認する。なかなかの出来映えではないだろうか。
「まあ、ブーメランのように使うには慣れも必要だろうな」
 テストの様子を見ていたライナスが感想を漏らす。太陽を反射する刃に視線を遣りつつ、モーナも言った。
「切れ味の方もさっき廃材で試してみたけど、悪くないみたいだね」
 開発に時間が掛かったのは、この切れ味と、上手く戻ってくるように形や重さ、薄さの調整に時間が掛かったからだ。この形にするまでの経過は記録に取ってあるし、最後のデータを使えば量産も可能だろう。
「無事完成ですね。あの……ライナス様」
「何だ?」
「これ、持って帰っても構いませんか? やはり、自分の手で造ったものなので……」
 真奈がそう言うと、ライナスは少しばかり考え、それから頷いた。
「そうだな。見本モデルがあった方が良いのは確かだが、せっかく造ったんだ。量産品とは意味が違うだろうし、持って帰ればいい」
「……ありがとうございます」
 そこで、陣がライナスに言う。
「センセ、このトンファーブレード、ガッコの購買で買えるように交渉は出来んかな。機晶姫用の接近戦武器って少ないし、前に造ったのは見事に遠距離武器ばっかやったから尚更な」
「学校での販売か……良いだろう」
「……え、良いんか?」
 あっさりとした返事に、むしろ陣が驚いた。
「ああ、別に問題は無い。学校側にそれぞれ交渉してみよう」
「ライナスさん、テストですか?」
 そこに、ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)がやってきた。興味深そうな視線をトンファーブレードに送っている。
「ああ、無事に成功した所だ」
 ライナスの言葉に、ステラは祝福の笑顔を浮かべた。
「それはよかったです! それで、ライナスさん、今回の研究のあれこれについてレポートを書いてみたんですけれど、見ていただけますか?」
「レポート……、そうだな、ではこれから中で……いや、ちょっと同行してくれ」
 そう言って、ライナスは歩き出した。彼の行く先には――


 その頃、研究所の外に置かれたイコン『號弩璃暴流破』では、フォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)がメイン製作、杵島 一哉(きしま・かずや)空白の書 『リアン』(くうはくのしょ・りあん)が補助を行った機晶姫とイコンの同調システムの実験が行われていた。御弾 知恵子(みたま・ちえこ)も、下からその様子を伺う。いつ動き出すかと期待して見上げていたが……
『――――――』
 イコンが動く気配は全く無かった。
 そのうち、フォルテュナがイコンから降りてくる。その表情は、浮かない。
「……今回は失敗かもしれねえな……」
「今度は、私が試してみましょうか?」
 引き続き、アリヤ・ユースト(ありや・ゆーすと)がユニットを取り付けてイコンに乗り込み実験してみたが……
『――――――』
 やはり、動く気配は無い。しばらくして、アリヤもイコンから戻ってくる。
「うーん、やっぱり、ライナスの言う通り難しかったか……お前らも、せっかく協力してくれたのに悪かったな」
「いえ、良い経験になりました」
「作業工程を見ているだけでもいろいろと面白かったのだよ」
 一哉とリアンが微笑み、気にしないようにと言う。提案した一哉としても良い思い出になっただろう。
 そこに、ライナス達、ステラがやってきた。
「どうだ? 実験の結果は」
「駄目みたいだ。今回の装置じゃ、オレ達の思考がイコンに上手く伝わらねえらしい」
「そうか……まあ、シャンバラでのイコン研究はまだ始まったばかりだ。この経験は無駄にはならないだろう」
「無駄と思えることを沢山している人って、結構輝いてるもんなんだよ。研究をしてる時のフォルテュナは真剣で楽しそうだったし、あたしはこれでも良かったと思うな」
 ライナスとモーナが言い、フォルテュナは改めて號弩璃暴流破を見上げた。
「……そうだな、今日明日、ずっとオレ達は一緒だもんな。今回の研究で、オレ、なんとなくイコンに近付けたような気がするぜ」
「フォルテュナ……」
 知恵子はそんな彼女の横顔をそっと見遣った。イコンに近付いた……。記憶が蘇ったかどうかはその表情からは分からないが――それはまた、機会があったら聞いてみることにしよう。

                           ◇◇

 そして、ライナス達が研究所に戻ろうと歩いていた時――
「あら?」
 外でテスト用の荷物を運んでいたアピス・グレイス(あぴす・ぐれいす)が異変に気付いて足を止めた。何か、どどどどど……、という地鳴りが聞こえるような。その地鳴りが近付いてくるような――
 来た。巨大な猿に乗って銃を持っていた。チキンで頭でっかちな情報屋は、手ごたえの残る刃物などは持ち合わせていないのだ。
 猿は10匹いた。手なづけたのか手なづけられたのかは知らない。
A:「ライナスとモーナだな!」
B:「何日も何日も外に一歩も出ないとかどんだけ引きこもりだお前ら!」
A:「健康的な生活しないと早死にするぞ!」
 ……何しに来たんだ。
B:「この猿達にバナナを分けてもらわなかったらおれ達干物になっちまってたぞ!」
「ん? ……あ! エイさんとビーさんじゃん! 何、遊びに来たんだ?」
 そこでAとB……エイとビーに気軽に話しかけたのはセシリア・ライト(せしりあ・らいと)だった。彼女は、食料が足りなくなってきた時に近くの山に行き、そこで彼等に会っていたのだ。その時、ご親切にもバナナをもらった。ちなみに、この時にエイとビーは研究所の様子について探りを入れていたのだが機晶姫の修理や開発をしているとしか聞いておらず、アクアがほぼ寝返り状態になっていることを知らなかった。
エイ:「ちがう! ライナス達を殺しに来たんだ!」
「え、えええっ!?」
 驚くセシリアにはそれ以上目もくれず、エイはライナスに、ビーはモーナに銃を向ける。
「ちょっとまったあ!!!」
 そこで、シリル・クレイド(しりる・くれいど)ネヴィル・パワーズ(ねう゛ぃる・ぱわーず)が彼等の前に出てきた。ネヴィルはエイの乗っている猿にカルスノウトで斬りかかる。
 ぐ、ぐるるるるっ、ぐわあっ!
エイ:「う、うわっ!」
 猿が叫んで暴れ、エイが上から転げ落ちる。アピスも急いでランスをビーの猿に突き刺した。どことは書かないけど。どっかのピンクのでかい猿がやっかいな攻撃をしてくるあの辺だ。
 ぐ、ぐぐるるる、キキーーーっ!
ビー:「う、うわっ!」
 猿が叫んで傷を抑えてぴょんぴょん飛びはね、ビーが上から転げ落ちる。そこを、シリルは、機晶キャノンと6連ミサイルポッドで遠慮なく攻撃した。
「ライナスさんたちにはちかづかせないよ! どとうのこうげきくっらぇー!」
 どごーん! どどどどどどど!!!!
「あ、危ないですー!」
「ちょっと、シリル! やっぱりあの子は……!」
 猿達が攻撃を避けようとダンスを踊っている間に、アピスとネヴィルは慌てて戦線を離脱した。これでは自分達にまで攻撃が当たってしまう。彼女達が猿達から一旦離れると、今度は月島 悠(つきしま・ゆう)が機関銃で攻撃した。弾を入れ替える間は光条兵器のガトリング砲を併用する。ドラゴンアーツとHAの『怪力』、鬼神力『筋増圧縮』で強化した腕力で重い武器を振り回し、悠は次々と間断なく弾を発射した。
「援護はボクに任せてください!」
 麻上 翼(まがみ・つばさ)も魔銃モービッド・エンジェルとラスターハンドガンで弾幕を作って援護する。これには、エイもビーも猿達もたまったものでは無かった。
 そのうち、沙幸達から事前に話を聞いていた助手達も飛び出してきた。師匠に傷はつけさせまいと参戦する。
「猿ども、出て行け!」
「せっかく作ったパーツに傷をつけたら許さないからな!!」
「キキー!!!!」
エイ:「く、くそ、逃げるぞ!!!!!」
ビー:「おれ達は忘れてるからな! お前達も忘れてろよ!」
 ……訳の分からない捨て台詞を残し、エイとビーと猿達は逃げていった。