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種もみ剣士最強伝説!

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種もみ剣士最強伝説!
種もみ剣士最強伝説! 種もみ剣士最強伝説!

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あの塔を目指して


 今日も大荒野は良い天気だ。絶好の試合日和である。
 それに……と、千種 みすみ(ちだね・みすみ)はシャンバラ各地から集まってきた種もみ剣士達の姿に笑みをこぼす。
 勝てる、これならどんなに強い種もみハンターにも負ける気がしない……!
 頼もしい面々にみすみは自信を持った。
 あふれ出る最強への確信を噛み締めうつむきがちに肩を震わせている姿を、試合場がある種もみの塔前までの試練への不安のためと感じたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、元気付けようと声をかける。
「みすみちゃん、ルカルカ達も一緒に戦うから安心して。今日はよろしくね」
「ルカルカさん、優勝しようね」
「もちろんよ! 食は命の源。みんなで力を合わせて種もみ最強伝説を作ろう」
「うんっ」
 盛り上がった二人がパンッと手を叩き合う。
 そしてルカルカが夢野 久(ゆめの・ひさし)にも声をかけようと振り向くと、彼はみすみを熱い眼差しで見つめていた。
 その視線に気づいたみすみがドキッとして一歩引く。
 睨むような三白眼でいつも仏頂面の久の顔は、今、みすみの生き様に強い共感と感心のためにひどく強張っている。
 パートナーならその表情の意味も理解しただろうが、初対面にはわからない。
 みすみには、物凄い鋭い目つきで睨まれているように感じた。
 相手にそんなふうに思われていることなどまったく気づかない久は、ルカルカの後ろに隠れようとするみすみにゆっくり近づく。
 みすみは久の雰囲気に気圧され、動けなくなった。
「──世間に弱ぇ弱ぇと言われてるだろうに」
 やがて発せられた久の言葉に、みすみは何を言われるのかと身を固くする。
「それでも、頑なに最強を信じて、証明するために突き進み続ける。……熱い、千種みすみ! 熱い奴じゃねぇか!」
 拳を握り打ち震える久を、みすみは呆気に取られた表情で見上げる。予想もしない言葉だった。
「そういう奴ァ、全力で応援したくなるってもんだ! 助太刀すんぜ!」
「お……おう」
 ニッと不器用な笑顔で拳を突き出す久に、戸惑いつつもみすみも応え拳をぶつけた。
 みすみの視線を受けたルカルカも拳をぶつけると、元気に声をあげる。
「さあ、種もみの塔を目指して出発だよ!」

 荒野の移動には常に危険が伴うが、こと種もみ剣士に関してはその危険が数倍にふくれ上がる。
 種もみ剣士が歩いているというだけで、どこからともなく略奪者が湧いて出るのだ。
 故に、久の提案に乗り、彼らはまとまって塔へ向かうことにした。
「索敵は俺に任せろ。不届きな奴らが来たらすぐに知らせてやる」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が頼もしい言葉の残し、上空へ舞い上がっていく。何かあればルカルカの携帯に危険が知らされるだろう。
 歩き出した一行は他愛ないおしゃべりが絶えず、賑やかに移動していた。
 気さくな彼らに、みすみもすぐに打ち解けていく。
 もしかしたら略奪者なんて来ないかも……と、気を緩めた時だった。ルカルカの携帯が鳴ったのは。
 サッと表情を引き締めた彼女は素早く携帯を耳にあてると、目元をわずかに険しくさせた。
「右前方からモヒカンの一団が来るわ」
「わたくし達の出番ですわね」
 ルカルカが示した方向をちらりと見やり、口元に優雅な笑みをはくセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)
 道中が危険に満ちていることはわかりきっていたので、いくつもの対策を練ってきていた。そのうちの一つを使う時が来たのだ。
 セルフィーナは七人の救世主を呼ぶと、視線を葉月 可憐(はづき・かれん)へと向ける。
 心得たように頷いた可憐も救世主一号から三号を召喚し、セルフィーナについていくよう頼んだ。
 作戦実行中はみすみ達は適当な岩場に身を隠し、機を見て突破する。
 セルフィーナは何も気づいていないふうを装ってモヒカン達のほうへ進み出ていった。
 やがて、種もみ剣士の匂いに引き寄せられたモヒカンのリーダーと思われる者が、呑気に歩くセルフィーナを見つけ、脅すような声を投げた。
「おやぁ? こんなところに種もみ剣士さまがいらっしゃるぜ。せっかくだ、ちょっと助けてもらおう」
 要するにカツアゲである。
 リーダーに同意するように舎弟も口を開く。
「一緒にいるのは救世主さまか。俺達も救ってくれよなぁ?」
 包囲しようとにじり寄るモヒカン集団と、じりじりと後退するセルフィーナ。
 セルフィーナは彼らがどんなに愚かな行動をしているのか諭そうとした。
「お待ちください。あなた方は何かあるたびにそのように他者から奪うのですか? そのようなことを続けていても、何の発展もありませんわ。あなた方が本当に満たされたいのなら、この大地にしっかりと根付くことです。土を耕し種を撒くのです。大地は必ず応えてくれますわ。そうすれば、あなた方は飢えることなく、またそれを分け合うことで感謝もされ……」
「んな気の長ぇことやってられっかよ! 手っ取り早く奪う! 一番の解決法だろうが! やっちまえ!」
 リーダーの掛け声に舎弟達が吼え、セルフィーナへ一気に詰め寄った。
 可憐の救世主一号から三号が、飢えた獣のようなモヒカン達の形相に震え上がり、我先にと逃げ出す。
 略奪者はそれを笑った。
「とんだ救世主さまがいたもんだ! 全員剥いちまえ!」
 セルフィーナも瞳に哀れみと恐怖を宿し、走り出す。
「聞く耳持たずですか……あなた達には、明日を生きる資格はないようですわね」
「そんなてめぇは今日死ぬんだけどな!」
 セルフィーナは悔しそうに唇を噛み締めた。
 だが、これらがすべて演技であることにモヒカン達は気づいていなかった。巧みに誘導されていることも。その様子を遠くから見られていることも。
 誘導先にはアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が仕掛けた罠がある。
 きちんとした技術による仕掛けではないから、落ち着いていればモヒカンといえども気づいたかもしれないが、今は目の前の獲物に夢中になっているため、そう簡単には見破られないだろう。
 しかし──。
「いけませんね……」
 岩場に隠れてセルフィーナを見守っていたロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の目元が険しくなる。
 罠地点に着く前に捕まってしまいそうだ。
 助けに行かなくてはと腰を浮かした時、それを止める手があった。
 彼女の救世主Aだ。
「ここは俺が行く」
「そんな無茶だ! 俺達も行きます!」
「あいつら何人いると思ってるんですか」
 立ち上がったAに続く救世主BとC。
 だが、Aはその二人に厳しい目を向けて怒鳴りつけた。
「馬鹿やろう! Bには村で待っている両親が、Cは六月に結婚式を控えているだろ。俺はもう独り身だからな」
 後は頼んだと言い残し、Aは岩場を飛び出した。
「Aの兄貴ー!」
 自分達に待っている者がいてもAを切り捨てることなどできず、BとCは彼を呼び追いかけようとしたが、同じように追いかけたい気持ちを堪えていた救世主DとEに阻まれてしまった。
「B、Cやめるんだ! あいつは、Aは俺達が立派に優勝するために、種もみ剣士の皆さんが無事に着くように、あえて選んだ道なんだ」
 Dの絞りだすような声音に、BとCは瞳に涙をにじませきつく拳を握った。
 果敢に駆けて行くAの背を記憶に焼け付けておこうと、歪む視界もそのままに立ち尽くしていた。
 ロザリンドの救世主は熱血漢が多いようだ。
 彼女も祈るような思いでいた。
 決死の覚悟で走るAに、いつ追いついたのか可憐とその救世主四号から八号が並走していた。
「作戦立案者として、ただ傍観しているわけにはいきませんから。もともと実行するもりでいましたしね」
 やさしげな微笑みを見せると、可憐はガトリングガン型の光条兵器を現し、斜め前のモヒカン集団を銃撃した。
 可憐達にまったく気づいていなかったモヒカン達はうろたえ、たちまち統制を失う。
 可憐はセルフィーナのいるほうへ走りながら、挑発するようにトリガーを引く。
「ナメやがって……! もう容赦しねぇ!」
 すっかり頭に血が上った彼らに、もはや小細工は必要ない。ただ走ればいいだけだ。
 岩場に待機しているだろうアリスが、あとはうまくやってくれる。
 こういう場面では可憐から絶対の信頼を得ているアリスは、起爆スイッチを握り締め真剣な目でタイミングを計っていた。
 可憐とセルフィーナ、救世主達が爆弾を仕掛けた地点を通り過ぎ、モヒカン達がそこに差し掛かった時、彼女はスイッチを押した。
 爆音が響き大量の砂埃が巻き上がる。その中にモヒカンの姿もいくつか見えた。

 そこからだいぶ離れたところで夏侯 淵(かこう・えん)が可憐とセルフィーナそれと救世主達の傷を癒していた。
 爆発の後、彼女達のもとへすぐに駆けつけ、みんなで担いで移動したのだ。
「それにしても、みすみさんの言ったとおりに現れたねぇ」
 起爆スイッチを握っていた時とは別人のような穏やかさのアリスがみすみに言うと、彼女は胸を張って答えた。
「この辺は彼らの縄張りみたいよ。ここで襲われる時はいつもあの顔ぶれなんだ」
 何故か自慢気に自虐的なことを言うみすみに、アリスは複雑な笑みを返すしかない。
「じゃあ、これから来るかもしれない奴もわかるのか?」
 夏侯淵の問いに、みすみは強く頷く。
「ここから先は激戦区域だよ。縄張り争いが激しいところだから気を引き締めて行かないとね」
 もしかしたら争いの真っ只中に居合わせてしまう可能性もあるらしい。
 種もみの塔は、そのてっぺんがもう見えている。
 種もみ剣士達は決意を秘めた目でそこを見据えた。


 みすみの警告にやや緊張しつつ歩を進めていた一行だったが、不穏な気配はいつまでたっても訪れることはなかった。
 もしかして今日は縄張り争いはお休みなのかと期待してしまうほどに平和だ。
「ふふふ。みんなの気迫に恐れをなしたのかな」
「いや、残念ながらそうじゃねぇな。あれを見ろ」
 みすみの緩んだ頬は、久が指差した方向を見るとたちまち固まった。
 もうもうと上がる砂埃、唸るエンジン音、金属同士がぶつかりあう甲高い響き。
「喧嘩中だね。見つからないうちに通り過ぎ……」
「カモ(種もみ剣士)の群はっけーん!」
 みすみのささやかな願いはモヒカンの銅鑼声にかき消された。
 喧嘩中とは別のグループのようだ。
 ここを突破しなければトーナメントに参加できないため、みすみは観念して剣の柄に手を添えた。
「コスプレイヤーに勝った私の実力を見せる時が来たね……ああっ、ちょっと!」
 かっこ良く決めるつもりが、気がつけば仲間達に守られるように周りを固められている。
「来るとわかっているものを恐れる必要はありませんからね」
 ロザリンドが救世主達と共にモヒカンと対峙する。
 徹底抗戦の構えを見せる種もみ剣士達に、モヒカンの略奪心が煽られた。
 一つに固まり連携をとって戦おうとする種もみ剣士を、モヒカンはスパイクバイクでかき乱そうとする。
 それを上空から見ていたカルキノスは、仲間達が風上に立った時にしびれ粉を撒いた。
 カルキノスの存在に気づいていなかったモヒカン達の体は急なしびれにコントロールを失い、ある者はバイクから転げ落ちていく。
「……混戦になったら使えねぇな」
 じきにそうなってしまうだろうと予想した通り、眼下の種もみ剣士とモヒカン集団は両者入り乱れての乱闘となっていった。
 気がつけばみすみは一人になっていた。
 仲間の気配はすぐ近くにあるが、モヒカンの壁に阻まれて姿を確認できない。
「そんなに私達に勝ちたいなら、トーナメントに参加しなよっ」
「馬鹿か! モヒカンはファッションであってクラスじゃねぇんだよ! 四の五の言わずに種もみよこせや!」
 みすみの構えた剣も叩き折りそうな勢いでモヒカンの鉈が振り下ろされた。
 ──が、それはみすみの剣ではなく、疾風のように滑り込んできた何者かの警棒によって防がれる。
 背にかばわれたみすみからは、肩につくかつかないかくらいの銀の髪と漆黒のコートしか見えない。
「このような可愛らしい種もみ剣士を襲うなど……貴様らが明日を迎えることはなくなるが……いいのか?」
 鬼崎 朔(きざき・さく)の冷徹な瞳の力に、モヒカンがわずかにたじろぐ。
「日々を懸命に生きるこの子に暴力を振るうなど言語道断……よって、判決! 臨死刑!」
 朔のスタンスタッフが唸りを上げてモヒカンを打ち据える。
 骨までしびれるような電撃を食らった彼は、カエルが潰れたような悲鳴を上げて白目をむいた。
「てめぇ、種もみ剣士じゃねぇな!?」
「それがどうした」
 仲間を倒され怒りに燃えるモヒカンに、朔はつまらなさそうに答える。
 それからスタンスタッフを彼らに向けて言い放つ。
「次に臨死刑にされたい奴はどいつだ?」
「ちくしょうめ! 俺らがてめぇを死刑にしてやるぜ!」
 右からは剣の、左からは血煙爪の攻撃を、朔はスタンスタッフとウルクの剣で受け止めた。
「朔っ、後ろ!」
 エリヌース・ティーシポネー(えりぬーす・てぃーしぽねー)の叫びに朔は両手の武器を滑らせて左右のモヒカンを受け流すと、その足元を潜り抜けて背後からの襲撃者と距離をあけた。
 エリヌースは朔と共にこの集団に飛び込んできたものの、戦闘には参加せずちゃっかり久の背に隠れている。
 久は呆れの目でエリヌースを見下ろした。
「……おい」
「なっ、何か文句でも? あたしの実力は、あんなならず者なんかに見せるようなものじゃないんだよっ」
 どう聞いても強がりにしか聞こえない言葉に、久は頭を抱える。
 そこにルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)の楽しげな笑い声が降ってきた。
 すいっと光る箒を久に寄せたルルールは、好戦的な瞳の色でモヒカン達を指差す。
「ずっと見てたんだけど、好みの子はいなかったから蹴散らしちゃうわね」
「見てねぇで早く行けよ!」
 思わず振り上げた久の拳をきゃあきゃあ言ってひらりとかわし、ルルールは朔に気をつけてアシッドミストを放った。
「ほらほら、早いとこおうちに帰らないと溶けちゃうわよ〜。それとも、丸焼きのほうがお好みかしら」
 モヒカン達をおちょくるように頭上を旋回したルルールは、次に彼らの密集地点に炎を起こした。
「焼き具合だって加減できちゃうんだから」
 レアでしょ、ミディアムでしょと実際にモヒカンに火をつけていく。
 恐慌状態に陥ったところに、朔が則天去私でとどめを刺していった。
 種もみ剣士達がほとんど手を下すこともなく片付いてしまった。
 脅威が去るとエリヌースは久の後ろから颯爽と現れ、
「これで進めるね」
 と、喜んでいるみすみの前に進み出る。
 そして上から下までじろじろと無遠慮な視線を投げた後。
「ふ〜ん、あんたが千種みすみ? どんな子かと思えば……あたしより目立ってんじゃないっての!」
「ええーっ!?」
 理不尽な因縁をつけられ困惑するみすみ。
 彼女をライバル視するエリヌースがもっといびってやろうとした時、朔の手のひらが視界を覆った。
「すっかり忘れていましたが、エリヌースも種もみ剣士でしたね。正直、あなたのことはどうでもいいのですが、他の皆さんの足を引っ張らないようにがんばってください。そのためなら試合場まで守ってあげますよ」
 応援されているのか悪口を言われているだけなのか。
 とにかくエリヌースはしおしおと萎れていった。
 そんな彼女に見向きもせず、朔はみすみに向き直ると、
「無事で何よりです」
 と、安堵の言葉と同時に抱きしめた。
 満足するまでみすみの頭を撫でた朔は、ふと思い出して、先日購入したみすみのCDを取り出した。
「あの、ここにサインしてもらえませんか?」
 まさかの申し出に、みすみは大きく目を見開く。
 動画サイトに投稿しても反応はなく、CDにして種もみの塔で売ってみてもほとんどはただ通り過ぎるだけ……。
(ディーヴァに勝った……!)
 みすみの頭の中に勝利のファンファーレが鳴り響く。
「これからもよろしくねっ」
 みすみは感動に打ち震えながら、朔が差し出したCDのジャケットにサインをした。

 それからも激戦区域だけあり、後から後から種もみ剣士達は種もみを狙われ続けたが、朔とルルールにより大事には至らなかった。
 さらに、先行しているイロハ・トリフォリウム(いろは・とりふぉりうむ)が地中に仕掛けられた罠を解除していったため、足元の安心も確保できた。
 もともとのクラスが種もみ剣士だったイロハは彼らに親近感を覚えずにはいられず、時々振り返ってはあたたかい笑みを向けている。
 みすみに絡んでは朔に冷たくあしらわれているエリヌースに、思わず吹き出してしまう。
 また、途中からモヒカンとの戦いに参加していた伏見 明子(ふしみ・めいこ)が放った脅し文句も凄かった、とイロハはつい先ほどのことを思い出す。
 いきなり突進してきたかと思えば、聖杭ブチコンダルでリーダーをぶっ飛ばし、すでに意識を失った彼の胸元を掴んで激しく揺さぶって、物凄い剣幕で言ったのだ。
「いいか! 浮気に浮気を重ねた半人前の種もみ剣士の私ですら、これくらいはできる! 純粋な種もみ剣士が本気を出したらどうなるか想像してみなさい……! せいぜい恐怖に震えることね! ちょっと聞いてんの!?」
 見かねた久が止めなければ、リーダーの首は絞まっていたかもしれない。
 記憶に新しい惨状に、イロハはいつの間にか遠い目になっている。
 が、すぐにハッとして危険な落とし穴や絡め取り網がないか、進む先に目を光らせるのだった。