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春は試練の雪だるま

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春は試練の雪だるま

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                              ☆


 四葉 恋歌は、いろいろあって雪が降る遊園地を一人、歩いていた。
 もう時間は12時直前。爆破事件があって遊園地を出ることができず、一緒に遊びに来ていたクラスメイトと今さっき別れたところだ。

「ねぇ……どうだった?」
 と、そこに声をかけたのは久世 沙幸だった。
 秋月 葵と、遠野 歌菜もいる。
 結局、恋歌のラブレターを取り戻したはいいが、月崎 羽純がその手紙を燃やしてしまったので、恋歌は直接相手に告白せざるを得ない状況になっていた。それでも、羽純の行動に勇気付けられた恋歌は、果敢に告白を行なったのだが――。

「――あは、ダメだった。やっぱ、片想いだったみたい」
 と、恋歌は笑った。

「……そう……」
 沙幸はやや消沈した顔で答える。
「残念……だね」
 葵も同様に沈んだ声を出した。やはりそこは夢見る乙女たち、失恋してしまった女子の心は良く分かるのだろう。
「まあ……しかたないかな……私も、ちょっと急ぎすぎたみたい」
 恋歌はあくまで明るく振舞った。
 そこに、歌菜が問いかける。
「――急ぎすぎた――って?」
 恋歌は、特に隠す様子もなく答えた。
「うん……まだ、好きにな間もない相手だったし……こっちとしても、本当に好きだったのかなって……」
 沙幸は、ひらひらと舞い降りる雪を見上げる恋歌に、声をかけた。

「あのさ……ちょっといい? 恋歌ってさ、いつも違う男の子を追いかけてるよね……恋愛のスパンが激しいっていうか……どうして?」

 その問いに、恋歌も返事をする。
「うーん……惚れっぽいんだよね、私……それに、いつも誰か追っかけてないと不安っていうか……私、どうしても手に入れたいものがあるから……恋愛じゃなくってもいいのかも知れないけれど……いつか……」

 恋歌は、ひらひらと舞い降りる雪を眺めながら、独り言ようにつぶやいた。
 その様子は、まるで自分自身にだけ喋っているようで、その場の誰もそれを追及できなかった。


                              ☆


「……ちょっと聞いていいでスノー?」
 と、ウィンターの分身の一人は尋ねた。
「ああ、構わんぞ」
 答えたのは、レン・オズワルド(れん・おずわるど)
 冒険屋ギルドのリーダーである彼は、ウィンターの人助け要請に応じて、一日ウィンターを同行させてギルドの仕事に行っていた。
「……どうして、レンは私に人助けをさせないでスノー?」
 その言葉通り、レンは一日の間ウィンターを仕事に同行させながらも、ウィンターには一切手出しをさせなかった。
 ウィンターのスタンプは、あくまでウィンター自身がその人助けに関わらなくては意味がない。
 つまり、レンはあえてウィンターのスタンプを押させないような行動に出た、ともいえる。
「……じゃあ聞くが……宿題だから人助け……ってのも淋しいものじゃないか?」
 そう言って、レンは苦笑を浮かべた。


「どうだウィンター!? スタンプは全部集まったか!?」
 と、アキラ・セイルーンは言った。
 場所は、ドブ川の中だ。
 ウィンターのためになりふりかまわず人助けに奔走していた彼、今はウィンターと共に通行人がドブに落とした財布を探してやったところだ。
 丁寧に礼を言って去って行く男性。その感謝の念でまた一つウィンターのスタンプが押される。
 けれど、まだ足りない。
「もうちょっと……もうちょっとでスノー」


 レンは、自室の椅子に座りながら、ウィンターに話しかける。
「今日は、本当に色々なことがあったと思う。楽しい事も、辛いことも。
 俺が冒険屋ギルドなんてやってるのは、営利目的じゃない。確かに報酬は受け取るが、それはあくまでギルドの存続に必要だからだ」
 そのレンに、ウィンターは問いかけた。
「じゃあ……レンはどうしてギルドをやっているのでスノー?」
「……そうだな……その答えは……今のウィンターになら、きっと分かるんじゃないか?」


「うきだうま、うきだうま、つくれるお!!」
 林田 コタローは大喜びで遊園地の駐車場を跳ね回った。
 ウィンターが遊園地の上空で爆発させた圧縮雪は、それなりの量の雪を降らせ、遊園地の駐車場を白く染めていた。
 コタローは喜んで、雪だるまを作った。それを見ていた林田 樹も、手伝ってやった。
「わーい、わーい、こた、うれしいれす!!
 ねーたんだうまと、じにゃだうまと、こただうまと、まもたんだうま、つくるれす。
 あ、あとういんたしゃんだうまも、つくるれすー」
 と、コタローは次々に雪だるまを作っていく。
 ジーナ・フロイラインは、そんなコタローを見て微笑んだ。
「こたちゃん、良かったですねー」
 と、そこに新谷 衛が声をかけた。
「おい、じなぽん、こっち向けよ」
 それと同時に、ジーナの顔面に雪玉を投げる衛。
 振り向いたジーナは、その雪玉を顔面で受けてしまった。
「何だでございます、このカッパむぐ」
 次の瞬間には、よくもやりやがりましたねと、ジーナと衛の雪合戦が始まっていた。
「やれやれ……何やってるんだか……あ、冬の精霊というのは、あなたか」
 その様子を見守っていた樹は、駐車場にいたウィンターに気付き、近寄った。
「そうでスノー」
「ずっと探していたんだ、うちのコタローが雪を降らせて欲しいと言っていたのでな……だが、願いを言うまでもなかったようだ。
 まさか、頼む前から叶っているとは思わなかった。……ともあれ、礼を言わせてくれ。冬の精霊よ、感謝するぞ」

 その言葉で、また一つウィンターのスタンプが押された。


 そして、それが最後の一つだった。


 レンの前で、ウィンターの分身は言った。
「……うん、少しだけ、分かった気がするでスノー」


「うわっ!?」
 アキラは声を上げた。
 20個めのスタンプが押された瞬間、スタンプ帳が光り出し、あっという間にウィンターの体を包んでしまったからだ。
 一緒にウィンターを手伝っていたノーン・クリスタリアも驚いた。
「ウ、ウィンターちゃん、大丈夫!?」
 ウィンターは、見る見るうちにその光の中で姿を変え、いつもの10歳前後の姿から成長した少女の姿へと変わっていた。
「せ、成長したのか……!?」
 驚きの声を上げるアキラ。そこに、スプリングが現れて、言った。

「ウィンター、天気の精霊様から伝言でピョン。
 今回の人助けの宿題を合格とする。特に役割に昇降はないので、これまで以上に努力するように。以上でピョン」

 とりあえず間に合ったことを理解したウィンターはそのままへたりこんでしまった。
「は、はは……助かったで……スノー」
 そこに、アキラとノーンがやって来て一緒に喜んだ。
「ははは……良かったなウィンター!!」
「ア、アキラ……ありがとうでスノー!!」
 17歳くらいの体に成長したウィンターは、アキラに抱きついて喜びを表現する。
 ノーンもまたその様子を見て喜ぶが、ふと疑問が口をついて出た。
「ところで、ウィンターちゃんはどうして急に成長しちったの?」
 その疑問に、スプリングが答える。
「それは、今回のことを通じてウィンターの中で何らかの成長ができた、ということでピョン。
 ウィンターは精神的な影響をかなり受けやすい精霊だから……精神的な発達が肉体にも影響を与えやすいのでピョン。
 元の年齢にも自由になれるはずだから、好きにするといいでピョン。ただ……いつもどおりの方が疲れないでピョン」
 それを聞いて、ウィンターはいつもの10歳前後の姿に戻った。
「あ……本当でスノー。あっちのまま行動するにはしばらく練習が必要みたいでスノー」
 それを見て、アキラはウィンターの背中をバンバンと叩いた。
「まあ、そんなことはいいや。とにかく良かった」
 見ると、さっきまでの必死な顔はどこへやら、アキラはいつもの眠たそうな表情に戻ってしまっていた。
「――アキラ、ノーン、本当にありがとうでスノー。おかげで助かったでスノー」
 ウィンターは深々と二人に頭を下げた。ノーンは両手を振って、言った。
「ううん、だって友達だから……困ったときは助け合わなきゃね!!」
 アキラは、にやりと笑って言った。
「なあに、お高い御用さ」
 どうやら安くないらしい。ウィンターは、そんなアキラとノーンに向かって、満面の笑みを向けた。

「……ほっとしたらおなかすいたでスノー。この時間でもやってるお店を知ってるでスノー。みんなで食べに行きたいでスノー!!」
 そう言って、ノーンとアキラの手を取ったウィンター。
 三人は、仲良く並んで街を歩いて行くのだった。


                              ☆


「じゃあ、もう行くでスノー」
 そう言って、レンの所に現れたウィンターの分身はドアに手を掛けた。
 レンの自室で話していたが、もうスタンプはたまって、ウィンターの宿題は終ったのだ。
「……もう、宿題は終りでスノー」
 ウィンターは、あえて口に出して言った。
 レンの言葉通り、今日は本当に色んなことがあった。

 最初は、確かに宿題だから――義務だから。
 でも、途中からは確実に違っていた。
 ありがとう、と一つお礼を言われるたびに。
 ウィンターの心には何かが降り積もっていった。

 それは、ひとつ、ひとつ。
 大切な心のカケラになって、ウィンターの胸に積もっていった。

 それは、ウィンターの大きな成長に繋がり、ひとつの区切りを付けることができた。
 だが、それはあくまで通過点に過ぎないことを、今のウィンターは気付いていた。

 その終りのない道の上を、今度ははっきりと行く先を見据えて、精霊は歩いていくのだろう。
 また道に迷うかもしれない。疲れて座りこむこともあるかも知れない。

 けれど。


「そうなったら……またそのドアを開けに来い」
 と、レンは言った。
 ウィンターは頷き、ドアを開けた。


「……行って来るでスノー。みんな……本当に、ありがとうでスノー」
 明日へと続く、ドアを。


『春は試練の雪だるま』<END>


担当マスターより

▼担当マスター

まるよし

▼マスターコメント

6月2日 一部誤字等を修正しました。大まかなストーリー、セリフに修正はありません。誤字はまだあると思います。


                              ☆


 みなさん、こんばんは。まるよしです。
 さて、まずはこの時点で本来のリアクション公開日を1週間以上遅延しておりますことを、深くお詫び申し上げます。
 しかも、当初に想定しておりました5月30日の公開にも間に合わず、2度も遅延してしまったことは、本当に申し訳なく思っております。
 多くのプレイヤー様が怒りと失望を感じられたことと思います。

 5月には色々な予定を詰め込みすぎ、私事よるスケジュールの過密によって体調を大きく崩してしまったことで、このような事態を引き起こしてしまいました。
 とはいえ、入院したわけでも大怪我をしたわけでもありませんので、理由はあくまでも私個人の管理の甘さでした。
 しかも、直接プレイヤーの皆様には直接関係のない私事で大変なご迷惑をお掛けし、申し訳ありませんでした。

 不可抗力でなく提出を遅延してしまったことで、今回のリアクションは『作品』とは呼べなくなってしまいました。
 面白いか面白くないか、という評価は、あくまでも提出期限を守って初めて言えることなのです。

 次回以降は、少なくとも一つのリアクションを仕上げてからシナリオガイドを発表し、ひとつひとつのシナリオを大事にしていきたいと思います。
 また、次回『目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!』につきましては既にガイドを公開してしまっていることと、企画ものということでスペシャル枠になっておりますので、体調を整えて全力投球いたしますが、その次からはスケジュールを白紙に戻し、またイベントシナリオやノーマルシナリオからやり直したいと思います。

 もし、今後ゲームマスターまるよしのリアンクションを見て、反省の様子が見られ、締め切りを守る実力がついて来たと思われましたら、ご参加いただければ幸いです。

 今回の判定につきましては、『ウィンターの人助けに充分と感じられる数の賛同者が現れるか』という点と『ただ義務として人助けをしているだけではダメだ』と諭してくれるPCがいるか、という点で判定をいたしました。
 もし、どちらもあまりにも集まらなかったら、ウィンター・ウィンターは本当に消滅する可能性もありました。皆様の暖かいアクションのおかげで、今回のような判定結果を得ることができました。本当にありがとうございます。

 今回は、ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした。
 そして、最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

 平成23年6月1日 23時49分 まるよし