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リアクション
第6章
「仮面ツァンダー、ソークー1!! 雪だるまフォーム!!」
遊園地では、ヒーローショーがいよいよ大詰めだった。
ティア・ユースティが叫ぶと、ソークー1のアクションスーツの上からさらに雪だるマーが装着された。
お助けヒーローの正義マスク、ブレイズ・ブラスと共に怪人『雪ダル魔』――風森 巽を指差す。
「子供たちの声援を受けたヒーローは無敵だ、覚悟しろ!!」
「お……おのれーっ!!」
苦し紛れに襲いかかる巽、ティアは雪だるマーのブースト機能で自らの片手を強化した。
「チェンジ、氷術ハンド!! いくよっ、正義マスク!!」
氷結のブーストで冷凍パンチを繰り出すティア。それに合わせて、ブレイズも爆炎波による爆炎パンチを繰り出した。
「おぅ!!」
「アイス!! フレイム!! ダブル・ナックルーッッッ!!!」
「ダ、ダルマーーーッ!!!」
巽扮する雪ダル魔は二人の合体攻撃を喰らって派手に吹き飛んだ。
「みんなーっ!! みんなのおかげで二人が勝てたでスノー!! ありがとうでスノー!!」
司会役のウィンターが拍手をすると、子供たちからも大きな拍手が巻き起こる。
これにて『仮面ツァンダー、ソークー1』ヒーローショーは幕を閉じた。
その後はまだアクションスーツを着たままのティアとブレイズが、子供たちとの握手会を行なうのだった。
そして、その近くで『独身貴族評議会』の活動を続けるのが、木崎 光と如月 正悟だった。
「なぁ……どうしてこれが評議会の活動なんだ?」
と、正悟は呟く。
「えっ、聞いてなかったのかよ?」
と光は言い返した。
光が提案した評議会の作戦とは、遊園地で困っている子供やぐずって泣いている子供たちをあやして回る、というものだった。
その言葉通り、光はわたげうさぎの『ミミちゃん』を使って、迷子の子供たちや疳の虫で騒ぐ子供たちをもふもふして回っていた。
その柔らかなわたげの感触に子供たちは癒され、いつしか快適な眠りに落ちていくという寸法なのだ。
「ふっふっふ……どうだ子供たち、俺様のラブリーペット、ミミちゃんのもふもふの魅力には抗えまい……ヒャッヒャッヒャ、ヒャーハッハッハ!!!」
眠った子供を迷子センターに預け、高笑いをする光。子供と再会した親に名前を問われると、『独身貴族評議会、独身男爵だ』と名乗る。
「えー……っと、つまり。これが評議会の宣伝活動ということか?」
と、やや呆れ顔で問いかける正悟。
それに対し、光はニヤリと歯を見せて答えた。
「フッ……それだけじゃねぇ。
考えてもみろ、相手は子供だぜ? 子供ってことはほぼ間違いなく独身!! しかも恋人が欲しいとか汚れた考えも持たない清らかな身!!
これだけですでに評議会のメンバーとしての資格は充分だろう!!
それに、いざとなればおもちゃ屋とか食べ物屋の前ですごい駄々をこねて母親を超困らせることもできるんだぜ!
これはスカウトしておいて損はないっ!!」
熱弁を振るう光に、正悟はやや冷めた拍手を送った。
「あー、すごいすごい。まあいい、今日は評議会のために時間を使うと決めたんだからな。ウィンターがそれで良ければな」
ウィンターはというと、二人の足元でのんびりとしている。
「特に問題ないでスノー。やってること自体は子供をあやしているだけだし、いいと思うでスノー」
二人の言葉を聞いた光は、満面の笑みを浮かべた。
「決まりだな!! んじゃ行くぜ!! 何てったって、俺たちは評議会の仲間なんだからな!!」
「あー、はいはい」
あまりやる気のない正悟に聞こえないように、光はぽつりと呟いた。
「それに、今の内に教育しておけば、将来イケメンに育ったら恋人としてゲットできるかもしれないし……」
「ん、何か言ったか?」
「い、いや別に!?
おっと、転んで泣いてる子供発見!! 雪だるマー、ブーストだ!! ミミちゃん・ハイパーもふもふモーーード!!!」
何だかんだと言いながら、地味に人助けを続ける二人だった。
だがその頃、独身男爵の二人とは別に、独身貴族評議会メンバーは独自に活動を始めていたのである。
「きゃーーーっ!!!」
四葉 恋歌は叫んだ。
一緒に遊園地に遊びに来ていたクラスメイトの男子はまだ告白できるような間柄でもないし、直接告白するのは恥ずかしいので、こっそり荷物に紛れ込ませようとラブレターを用意していたのだった。
が、そのラブレターを評議会の三人の黒タイツ達に奪われてしまったのである。
「返してーーーっ!! あっ!!」
走って黒タイツ達を追う恋歌だが、足を取られて転んでしまった。
「へっへっへーっ! 返せと言われて返す奴はいねえよーっ!!!」
まるで小学生のようなことを言いながら走って行く黒タイツ達。
そこに、雪だるマーを装着した久世 沙幸(くぜ・さゆき)が黒タイツの頭上から襲いかかった。
「恋する乙女の邪魔をする奴は、馬に蹴られちゃうんだからっ!!」
「――え? ってあぎゃー!?」
見事な体術で、黒タイツの一人を蹴り飛ばす。
「いっくよーっ!!」
それに続いて秋月 葵(あきづき・あおい)が放ったシューティングスターが、もう一人の黒タイツに命中した。
「のわああぁぁぁーっ!!」
そして、ラブレターを持った黒タイツの前に二本の槍を突き立て、その行く手を阻んだのが遠野 歌菜(とおの・かな)である。
「――さあ、そのラブレターを返してもらうわよっ!!」
「……ちぃっ!!」
そこから逃げ出そうと90度方向を変えて走りだす黒タイツ。だが、その腕を月崎 羽純(つきざき・はすみ)に掴まれた。
「逃げられると思ってんのか」
「げふっ!!」
ボディに一発、膝蹴りを入れると黒タイツはあっさりと倒れ、はらりとラブレターが落ちた。
「――あなた達は……?」
息を切らせた恋歌が転んだまま見上げると、魔装書 アル・アジフ(まそうしょ・あるあじふ)が手を貸した。
「あ、ありがとう……」
アルは微笑んで、恋歌のスカートの裾をはらった。
「どういたしましてですぅ、あたし達、みんなウィンターちゃんに頼まれて人助けをしてるだけど……街にもたくさんタイツ男達がいてね。
最初あたしが茶色タイツに絡まれていたのをみんなが助けてくれたんだけど、そのまま他のタイツ男達をやっつけてる間に遊園地まで来ちゃったのね」
アル・アジフの説明に、恋歌は頷く。そこに、沙幸が補足した。
「そうなの……私の友達もタイツ男に邪魔されたって……いつかの評議会の連中だと思うのね……今日、何か起こるのかな」
少し考え込む一行。それを無視して羽純は落ちたラブレターを恋歌に差し出した。
「ほら、大事なものなんだろう……しかしなんだって、遊園地にラブレターなんか?」
その問いに、恋歌は少し頬を赤らめた。
恋歌の様子を見て察知した歌菜は、羽純の脇腹をつつく。
「やーねぇ羽純くんってば、一緒に来てる男の子に渡すために決まってるじゃない、もう」
沙幸もそれを聞いて便乗した。
「あ、やっぱそうなんだー、ねぇねぇ、今度は誰にしたの、やっぱクラスメイトの子?」
いつも見るたび違う男子に恋している恋歌。同じ蒼空学園に通う沙幸は恋歌のことを知っていた。
恋バナ好きな葵としても放っておけない。
「あー、じゃあラブレター渡して告白なんだー、うーん、うまく行くといいねーっ!」
「あ、うん。みんなありがと……がんばるね」
そういって俯いた恋歌だが、羽純はどうにも納得がいかないらしい。
「……? 一緒に来てるんだろ? ならラブレターなんて必要ないじゃないか」
それを歌菜が遮った。
「えー、だって直接告白するのなんて恥ずかしいじゃああああえええ!!?」
台詞の後半で歌菜は素っ頓狂な声を上げてしまった。
何故なら、燃えているからである。
恋歌のラブレターが。
「――ふん、却下だな」
ラブレターを燃やしたのは羽純の魔術である。あっという間に炭になったラブレターは風に吹かれて、塵となって消えた。
「ちょ、ちょちょっと羽純くん、何してるの!?」
抗議する歌菜だが、羽純はじっと恋歌の目を見たまま、もう一度言った。
「――却下だ」
すると、恋歌は羽純に向かって頷き、微笑むのだった。
「――うん。そうだね……ありがと」
そう言って、一行に頭を下げて走り出す恋歌。
その後姿を呆然としながら見送る。
「――どうなっているのです?」
とアル・アジフは葵を見上げながら聞いた。
「うん……アルちゃん、たぶんあれはね」
葵が説明しかけた時、羽純がその言葉を継いだ。
「手紙なんかに頼っているからいつまでもダメなんだよ。手紙を燃やされたくらいで諦めるなら……手を貸すまでもないだろう」
「ああ……なるほど……」
とりあえず納得した歌菜も、元気良く走り去って行く恋歌の背中を見つめるのだった。
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