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春は試練の雪だるま

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春は試練の雪だるま

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第4章


「や〜ん、二人とも可愛い〜♪」


「……麻羅よ」
「……なんじゃ」
「……何と言うか、すまんかった」
「……やっと分かったか」
 水心子 緋雨は天津 麻羅とカメリアの二人、遊園地内にある貸し衣装スタジオに連れ込んでいた。
 ここは遊園地内で自由に着て歩ける衣装を貸し出してくれるのが売りで、各種キャラクターやファンタジックな衣装など、様々な種類がある。
 当然、それを着ての撮影も可能。
 だが、それだけならばまだいい。
 カメリアを驚かせたのは、緋雨がご丁寧にも業者に手配し、キャラクターものではない日常的ファッションの服も用意していたことだ。


 その数、ざっと100着近く!!


 ここまで来ては仕方ないと、麻羅もカメリアも覚悟を決めて緋雨の着せ替えに付き合っている。
 というか、一人が逃げ出せばもう一人が緋雨の毒牙にかかるのは明白。
 図らずも互いの友情を人質に取った形で、緋雨は次々と二人を着せ替えて撮影会を満喫するのだった。

「いやー、やっぱり春先はいろんなバリエーションが試せるからいいわー」
 と、イイ汗流す緋雨の横で、衣装アシスタントとして一生懸命に手伝いをするウィンターである。
「……これは人助けに入るでスノー?」

「うーん、麻羅はけっこう動くから、やっぱりデニムが似合うわね。
 あ、足出してダンガリーワンピもいいかも、ニットのカーディガンと組み合わせると柔らかいわよね。
 カメリアさんは普段着物だから、洋服着るだけでイメージ違うわね〜。
 足出すのがアレならハイソックスとかどう? フリル付きのティアードスカートと組み合わせたら、トップスはショートジャケットもいいわね〜。
 サロペットも流行ってるけど、カメリアさんが着るといつものイメージ強いからもんぺみたいに見えるかも〜?」

「……麻羅よ」
「……なんじゃ」
「……緋雨が言っている単語のほとんどが分からん」
「……安心しろ、わしもじゃ」


 今ひとつカタカナ単語に弱い二人は、緋雨の言うがままに着せ替えられるのだった。


 ところで、そのスタジオの別室では、熾烈な議論が巻き起こっていた。
「やはり足ですぞ足! あどけない少女の生足!! わたくし、ここは譲れませんな!!」
「いやぁどう考えても露出度重視で行くべきだろ、高座じゃねぇんだからまずインパクトが必要だと思わないか?」
「何言ってんだよ、僕のみっちゃんはお人形みたいにかわいいのが似合うんだよ!!」
「普通の着物でいいだろ、普通ので!! 春なんだし、この間仕立ててもらった桜の着物でいいじゃないか!!」
 議論をしているのは、ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)神楽 統(かぐら・おさむ)会津 サトミ(あいづ・さとみ)の三人と、若松 未散(わかまつ・みちる)である。
 遊園地のオープン記念にと、自由に使えるステージがあるということで、芸能プロダクション『846プロ』コミュニティからやってきた未散とその一行。
 未散は代々落語家の一族に生まれ、本人も落語家として活動中だ。今日も当然遊園地に集まった観客相手に落語を演るつもりで来たのだが。

「……分かりました。まずは皆の意見を確認しておきましょうぞ。まず、未散くんをアイドル落語家として売り出すという大前提に異論はありませんな?」
 というハルの言葉に頷く統とサトミ。
「いやだからアイドル落語家とか、意味わかんないから!!」
 本人の意見はあくまで無視である。
 未散としては正統派としての落語一本でやりたいのだが、他の三人はそれぞれ衣装や演出に一家言あるらしく、意見がまとまらないのだ。

 ハル曰く。
「つまりですな、未散くんの魅力はやはり可憐な格好なのです。
 基本的にはなんでも似合うと思いますが、個人的にはミニスカメイド服などお勧めですな。やはりこのむっちりとした足が最高なのですよ!!」
「大却下だ!!」
 その主張は未散本人には聞き入れられない。そもそも年頃の女性に足がむっちりは褒め言葉ではないのだ、ハルは思いっきり未散の高座扇子で殴られる。

 統曰く。
「莫迦言っちゃあいけねぇよハル、やっぱ男ならぼーんとおっきい方がいいっしょ?
 ここはひとつ鬼神力の効果で未散にナイスバディに変身してもらってだなぁ、露出も高けりゃ高いほうが……いっそ水着とかいってみる?」
「……いや、そんなにおっきく……その……それに……夏にはまだ……」
 統は未散の落語の憧れの存在、その意見にはあまり逆らえない。とは言えこんなところで水着落語家としてデビューするつもりもない未散は、恥ずかしさのあまりごにょごにょと反論ともつかない反論をするのだった。

 サトミ曰く。
「何を言ってるんです神楽さん、僕のみっちゃんの肌を男共の目に晒すなんてとんでもないよ!!
 いいかいみっちゃん? みっちゃんに似合うのはむしろ露出を抑えたドレスとか、フリル付きのお人形みたいなキレイな服なんかがいいんだよ?」
「いや……だからさぁサトミン……普通の着物じゃ駄目なのかなぁ?」
 サトミと未散は実の姉妹のように仲がいい。姉代わりのサトミの意見なので未散も出来れば聞き入れてあげたいと思うものの、自分の意見も少しは聞いて欲しいのだった。

 というように、三者三様の意見に板ばさみにされてもみくちゃにされている未散なのである。
 そして、そこにやってきのがウィンターの分身であった。
 意を決した未散は、ウィンターの分身の頭をぽんと叩いて、三人に宣言した。
「よし、分かった!! ここに人助けをしに来た冬の精霊がいる。
 私の意見も交えた四人の意見のうち、今日はどれを採用するかをこの精霊に決めてもらおうじゃないか!!」
 確かに、ここまま議論をしていても平行線を辿るのは目に見えている。
 未散の提案を呑んだ三人は、一斉に冬の精霊に詰め掛けた。
「是非わたくしめの意見を!! 未散くんにはミニスカアイドル路線で!!」
「いやいや、やはりここはお色気グラビアアイドル路線だよ」
「駄目だって、みっちゃんはゴスロリ落語家として今後も活動するんだから!!」
「……普通の……着物じゃ……駄目かなぁ……みんな……」
 四人の様子を見たウィンターの分身は、もっともらしく頷いた。


「分かったでスノー、ここは平等に三方……いや、四方一両損でスノー!!!」


「四方一両損!?」
 三方一両損という言葉がある。つまり、物事を平等に収めるためにその場の全員が少しずつ損をして、互いの主張を認め合うということなのだが。

「そうでスノー、つまりここはそれぞれの主張を少しずつ取り入れて――それぞれの衣装を全部順番に着ていく落語ファッションショーにすればいいのでスノー!!!」

「なるほど、確かに主張の違う衣装を着せることにもなれど、とりあえず自分が未散くんに選んだ衣装を着せてプロデュースすることはできる、という寸法ですな!!」
 ハルは大きく頷いた。
「うまいこと考えたな……じゃあ、俺は早速衣装選びを……やはりボディコンか……? いやここはあえて脚線美でいくか……背中の大きく開いたチャイナドレスとかどうかな……」
 統もそそくさと衣装選びに入ってしまった。
「う〜ん……確かに時間もないし……僕の選んだ衣装も着てくれるなら、今回は妥協しておくか……」
 不承不承ではあるが、サトミも納得してくれたようだ。
「ところで……『そんな衣装は着たくない』という私の意見はどうなるわけ……?」
 すでに涙目の未散の呟きに対し、ウィンターは答えた。
「そこは少しだけ我慢してもらうでスノー」


「あ、明らかに私だけ四両損してるじゃないか〜!!」


 こうして、『正統派落語セクシーグラビアゴスロリアイドル、若松 未散』が誕生したのである。
 何と言うか、ご愁傷様です。


 そんな未散の落語ファッションショーステージを横目に、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は大きなヒヨコの着ぐるみ――ぴよぐるみに身を包んで大量のカラーひよこ――ピヨコを誘導していた。

「い、一体何が起こっているのでスノー?」
 ウィンターの分身は戸惑いを隠せない。
 何しろ、遊園地の屋台にピヨコを搬入するバイトを請け負ったレティシアだが、うっかりそのピヨコをぶちまけてしまい大変なことになっていたのだ。

「あ〜、あちきとしたことが、これは大失態ですねぇ」
 と、呑気に呟くレティシア。
「い、言ってる場合じゃないでスノー!! 集めないと大変でスノー!!」
 頼まれるまでもなく、ウィンターはピヨコを集め始めた。
 何しろ、カラーで着色されている以外は普通のヒヨコ、ピンクやブルー、そしてイエローのヒヨコ達はぴよぴよと道端を勝手に歩きまわってしまう。
「あ、お願いしますねぇ。何しろこの子たち、元気いっぱいなものですからねぇ」
 ウィンターはレティシアのパートナー、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)と共に集めたヒヨコを次々にカゴに入れていった。
「とりあえず集めてしまって、後で雌雄を鑑別するわ。鑑別方法は私が知っているから……それも手伝ってね」
「わ、分かったでスノー? ところでどうしてレティシアはあんな格好をしているでスノー?」
 ウィンターの疑問に、レティシアは大きなぴよぐるみを揺すりつつ、答えた。
「いやぁ、ちょっとピヨコを使ったショーの予定があったもんでねぇ? 客寄せにと思ったんですけどねぇ」
 そんな会話をしながらも、ウィンターとミスティはどうにかこうにかピヨコを集め終わった。

「さて……では雌雄の鑑別をしなくては……あれ、レティはどこいったのかしら?」
 ミスティの呟きに、ウィンターもキョロキョロと周囲を見渡す。
「あれ……さっきまでここにいたでスノー?」


「ウィンターさん、今抱えているひときわ大きなピヨコがレティじゃない?」


                              ☆